虎に翼108回目でお見事だった2つのシーン。世の中の“普通人”の理不尽な思いを代弁させた

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2024-08-28 17:15
投稿日:2024-08-28 17:15

第22週「女房に惚れてお家繁盛?」#108

 稲垣(松川尚瑠輝)と小橋(名村辰)にも手伝ってもらい、裁判所で中学生向けの法律の勉強会を開いた寅子(伊藤沙莉)。だが話し合いの場で、男子学生から「女性は働かなくてもいい」という意見が出る。

 一方、判事補の秋山(渡邉美穂)は、予期せず妊娠したことを寅子に相談。悩む秋山に、出産後も判事を続けたいなら、戻って来られるよう居場所を必ず守ると約束する寅子だったが――。


【読まれています】なんて賢い子!“星家イチのオトナ”が優未だった件。あさイチに“料理男子”井上祐貴が降臨

【本日のツボ】

“フツー”小橋の言い分

 ※※以下、ネタバレあります※※

 勉強会、いざ蓋を開けてみれば3人しか参加しませんでした。問題児と優等生とフツーの子。「欽ドン!」の良い子悪い子普通の子ではないか、と思いました。イモ欽トリオですよ、「ハイスクールララバイ」ですよ、と言ったところで共感してくださる方がいるのかいないのかは疑問ですが…。

 それはともかく、フツーの男子学生、益岡良助(岩田奏)が「どうして働きたいの? 自分からつらい思いをしに行ってるってこと? 女は働かなくてもいいんだ。そっちの方が得だろ?」と、素直な疑問をぶつけます。

 この意見に、どうしたものか? という顔の寅子たち。ところが、ひとり「分かる!」と小橋が賛同します。「別に勉強しなくていいなら働かなくていいなら頑張りたくないよな。そっち選びたいよな。今日も来たくて来たんじゃないんだよな。親に無理やり行けって言われたか?」。小橋を見つめ、大きく頷くフツーくん。

「先生や周りがかまったり優しくするのは、優等生かこいつみたいな不良で、中途半端な俺たちはいないも同然。できる男と比べられるのも嫌なのに、更にできる女とも比べられる。頑張らなくてもいいのに頑張る女たちに無性に腹が立つ。そう。分かる、分かるよ~」と男子学生に近づき、「そんでお前が想像しているとおり、その苦しさはずっと続くし、お前はこの先の人生、ずっとできる奴らと比べ続けられる」と。

お前自身が平等な社会を阻む邪魔者になるな

 さらに顔を近づけ、「平等ってやつは俺たちみたいなやつにとって確かに損なところもたくさんある。でも、そのいらだちを向ける時、お前弱そうな相手を選んでないか。この先、どんな仕事をしてどんな人生を送ろうと弱そうな相手に怒りを向けるのは何にも得がない。お前自身が平等な社会を阻む邪魔者になる。嫌だろ?」と語りかけます。

 フツーくんが弱弱しい声で「嫌だ」と答えると、肩をポンと叩いて、「ま、1番になれなくても、お前のことを見てくれる人は絶対いるからさ」と小橋。

前回のやり取りをうまく回収

 前放送回で「伝説の家庭裁判所設立を牽引した稲垣さんと小橋さんにお会いできて光栄です」と秋山に言われ、「少年部部長に出世したこいつはともかく、家裁のヒラ判事の俺にまでおべっかを使わなくていいから」と相変わらずスネキャラを貫いているな、と思っていたら、本日のこのお話はお見事でした。

 世の中の大半を占める“フツー”さんの理不尽な思いを代弁しつつ、「弱い者に怒りを向けるな」という教訓まで。フツー君にも確実に刺さっていました。

 あるいはこれを言うために、小橋は出世せず、“フツー”でいてくれたのかもしれません。

 秋山の妊娠をきっかけに、女性が働きやすい環境を整えようと奔走する寅子。食事しながら、星家の人たちの意見を聞いている場面がよくできていました。

 寅子色に染められそうな星家に、朋一&のどかはどう出るのかも気になります。

桧山珠美
記事一覧
TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。読売新聞「アンテナ」、放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


トラコ入学、伊藤沙莉は表情筋を自由に操る女優…男装の山田よねにも注目
 昭和7年。晴れて「明律大学女子部法科」に入学した寅子(伊藤沙莉)のクラスには女子の憧れの的の華族令嬢・桜川涼子(桜井ユ...
桧山珠美 2024-04-08 18:38 エンタメ
“お騒がせ”青井実アナが心機一転、なにわ男子の道枝駿佑と似てるって⁉
 世の中の人がNHKに持つイメージといいますと、「真面目」「お堅い」「地味」といったところでしょうか。  そんな中...
逃げ恥の百合ちゃん役が“頭のいい女は頭の悪いふりをするしかない”発言
 穂高(小林薫)に出くわしたことで女子部への出願が母・はる(石田ゆり子)にばれてしまった寅子(伊藤沙莉)。  娘に...
桧山珠美 2024-04-05 15:30 エンタメ
「虎に翼」語りは尾野真千子 NHKアナと俳優のナレーションの違いは?
 寅子(伊藤沙莉)がお見合いに苦戦する中、親友の花江(森田望智)は寅子の兄・直道(上川周作)との結婚準備を順調に進めてい...
桧山珠美 2024-04-05 15:14 エンタメ
「虎に翼」シン・朝ドラの予感!わずか1話、たった15分で心つかんだ描写
 昭和6年・東京。女学校に通う猪爪寅子(伊藤沙莉)は父・直言(岡部たかし)、母・はる(石田ゆり子)から次々とお見合いを勧...
桧山珠美 2024-04-01 22:28 エンタメ
僥倖!世界に挑む赤西仁ほど「サムライマック」のCM向きな俳優はいない
 マクドナルドのCMにイケメンあり!  そんな声をちらほら耳にするようになりました。たとえば4月2日から全国放送さ...
平野らTOBEがドーム公演大成功の一方、暗雲立ち込める旧ジャニの逆転は
 3月14日から17日にかけて、滝沢秀明氏創設のTOBE所属アーティストによる東京ドーム公演「to HEROes ~TO...
こじらぶ 2024-03-30 06:00 エンタメ
ブギウギ最終回、水を差すようでスンマセン! 残念すぎる4つの演出と描写
 スズ子(趣里)のさよならコンサートが始まる。客席には懐かしい多くの面々がかけつけている。茨田りつ子(菊地凛子)、愛子(...
桧山珠美 2024-03-30 11:41 エンタメ
スズ子引退会見、“天敵の文屋”鮫島の「シャッポを脱ぐ」演出を読む
 歌手・福来スズ子(趣里)の引退会見の当日。スズ子は結局、羽鳥善一(草彅剛)とは話ができないまま会見に臨むことになってし...
桧山珠美 2024-03-27 14:30 エンタメ
超鈍感力! 羽鳥の絶縁宣言を屁とも思わないスズ子とタケシは似た者同士
 歌手引退――。スズ子(趣里)はその決断を、愛子(このか)や大野(木野花)に伝えた。  羽鳥善一(草彅剛)に絶縁す...
桧山珠美 2024-03-26 15:40 エンタメ
「GTOリバイバル」注目の新人イケメンは?松嶋菜々子は本当に出るのか
 反町隆史主演「GTO」が26年ぶりに帰ってきます。反町演じる元ヤン教師・鬼塚英吉がさまざまな問題を解決する学園モノで、...
ドヤ顔のアユミとヘイヘイブギー歌唱シーン温存の理由がわかる回だった
 昭和31年、大みそか。第7回オールスター男女歌合戦当日。スズ子(趣里)は、楽しみに会場へと向かう。スズ子が楽屋で支度を...
桧山珠美 2024-03-22 14:30 エンタメ
最終回秒読み…スズ子はブレずにお人よし、NHKと沼袋勉の手腕いかに!?
 愛子(このか)は、翌日の体育の時間に足の早い転校生と競争することになっていた。しかし、勝てる見込みがなく、愛子は学校を...
桧山珠美 2024-03-21 16:07 エンタメ
和田勉が転生したら中村倫也に!? 強烈インパクトで霞んだ礼子娘の初登場
 東京ブギウギのヒットから9年、ブギブームも下火になってきつつある中、スズ子(趣里)や羽鳥善一(草彅剛)のブギは古いとい...
桧山珠美 2024-03-18 14:30 エンタメ
「光る君へ」主人公バージン喪失!大石静氏が描く平安エロ&バイオレンス
 NHK大河ドラマ「光る君へ」は、平安中期の貴族社会を舞台に、吉高由里子演じる主人公のまひろ(紫式部)の生涯を描くもので...
沢尻エリカ不死鳥の如く女優復帰!大衆は真似できぬ人生転落リアルショー
 2月25日、沢尻エリカの女優復帰作となった主演舞台『欲望という名の電車』が千秋楽を迎えました。  「『残念プロフ...
堺屋大地 2024-03-16 06:00 エンタメ