2万円が一瞬で稼げる? 甘い誘惑にぐらつく
「よかったら、ここブッチして一緒に来ない? あいつケチだから、タクシー代くらいしかくれないと思うけど、埼玉に住んでるって言えばいいし」
もちろん、遠慮はする。しかし、押しに逆らえず彼女とLINEを交換してしまった。
ヘトヘトの退勤後、興味本位で恵比寿から埼玉へのタクシー料金を検索すると、2万円近くあった。
単発バイトの3日分だった。
その世界に足を踏み入れる「覚悟」
週末の夜。
久々に胸まであるロングヘアを下ろす。晴乃はまひなとともに、タクシーで麻布にある会員制のダイニングバーに向かっていた。
手元には、彼女と色違いのピンクのLady Dior。服装は清楚さを意識した透け感のある白いブラウスに黒のタイトスカートを合わせた。これらは全てまひなからの借りものだ。
「今日はギャラ飲みだし、スレてない子が好きな古風なおじばかりだから晴乃にピッタリ」
いつの間にか、名前は呼び捨てになっていた。数日前まで目も合わせない関係だったのに。
「本当に大丈夫ですよね。危ないことになりませんよね」
「ま、相手は女の子をはべらすのが好きなだけの人だから健全よ。ただ、ギャラをもらう分、覚悟は必要だけどね」
「覚悟…」
言葉に詰まっていると、まひなは耳元に顔を寄せ、囁いた。
「晴乃は純粋そうでおじウケする見た目だし、大人な関係もOKならスマホくらい1回のお手当で楽勝だと思うんだけどなぁ…私の周りは誰でもやってるよ。あんたのところのオーナーもそれでのし上がったって噂だし」
あっけらかんと爆弾情報を投下したところで、タクシーはお目当ての場所に到着した。
憧れの先生も「パパ活」していた?
煌びやかなネオン街から少し離れた、隠れ家的な静かな場所にぽつんと立つビルの前であった。
――パパ活ってこと? あの友梨佳先生が…?
愛人稼業のようなものだろうか。
確かに考えてみれば、いちエステサロンオーナーにもかかわらず、芸能人や経営者など彼女の人脈は多岐にわたっている。パートナーはいないと言うが、そこはかとない色気もある。背景がそうだったとしても不思議ではない。
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