夢の湘南「一軒家暮らし」で私が失ったのは何? 不便さの忠告に聞く耳持たず…腐っていく自分にゾッとする

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-01-11 06:00
投稿日:2025-01-11 06:00

【辻堂の女・熊田 沙耶35歳 #2】

 2年前に都内から引越し、湘南・辻堂で暮らす沙耶。注文住宅の家で専業主婦をする悠々自適の生活を送っているが、どこか物足りない。湘南生活を満喫し、ヨガやぬか床などに手を出しているが…。【前回はこちら

 ◇  ◇  ◇

 湘南の一軒家に住み始めたことは、沙耶の人生にとって当然のことだった。

 富山で生まれ育った沙耶。周りの親せきや友人は、みな一軒家に暮らしていた。だから、大人になったら誰もが家を建てるものだと考えていた。

 沙耶が大学で東京に出てきてまず驚いたのは、団地やマンションで生まれ育った同級生が半数以上であったこと。

 実家暮らしの友人が住むマンションに行った際、思わず「こんなところに家族で住んでいるの?」と口走ってしまったことも。4人暮らしに十分な4LDKの家であるにもかかわらず、だ。勿論、あとで丁重に自分の無知をわびた。

どうしても「一軒家」が欲しかった

 しばらくして、都会の人がみなマンションに住んでいる理由を常識として理解できた。そして十数年。だいぶ都会暮らしにも慣れ、マンションやアパート育ちの人々のことも沙耶は受け入れられるようになったが、やはり、家庭を持って暮らすのであれば一軒家は譲れなかった。

 どんなにタワマンやデザイナーズマンションが崇められようが、確固たる戸建て至上主義は変わらない。

 戸建ての不便さや売却の際の苦労、「家を建てたいという発想は田舎者の考え」、などと高級マンション住まいの友人に熱心に訴えられようも、聞く耳を持てなかった。

 幸い、友人の紹介で出会い、結婚した岡山出身で大手電機メーカーのエンジニアをする夫も同じ価値観だった。入籍してすぐ、土地探しから、納得のいく住処を探し始めた。

 だが、都内で探すと、金太郎飴のような狭小住宅か身の丈に合わない値段の物件しか見つからない。ぼやぼやしているうちに、建築資材の高騰や地価の上昇は進んでいく。上の子供が小学校に上がる前には決めたかった。

 妥協してマンション購入を検討しだしたところで、夫の鎌倉事業所勤務が決まり、縁もあってこの家を建てることができた。

 この場所は、都内まで湘南新宿ラインや東海道線を使えば1本、1時間程度だ。湘南暮らしという響きは、埼玉や千葉、多摩地区の郊外に暮らすよりも、風通しよく聞こえるのが決め手だった。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


【女偏漢字探し】「燗」の中に隠れた漢字は?(難易度★★★★☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
56歳で初めて包丁を握ったYO! 万年実家暮らし男性が力説する「テキトーな自炊」の愉しみ
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
主婦vs丸の内バリキャリの「マウント合戦」は漫才よりも笑える。“負け顔”ができる女芸人の観察
 かつて西大井にあったお笑い養成所に通っていた3人の女。SNS・mixiのコミュニティに麻梨乃が書き込むと、2人の同期生...
早稲田卒、商社OLの称号は「貧乏な夢追い人」とは違うの。誰よりも高い“現在地”は私だよね?
 かつて西大井にあったお笑い養成所に通っていた3人の女。約20年後、懐かしさで当時使用していたSNS・mixiのコミュニ...
ゲッ…まだ「mixi」見てるの? 独身女2人の即レスに“意地悪な幸せ”を感じる上から目線の主婦
 mixiでの呼びかけに、応答があったのは2人だけだった。  当然だろう。そこはもう誰もいない公園なのだ。あの頃は...
否定ばかりする人のLINEがしんどい…。我慢せず、受け手側ができる3つの対応策とは?
 LINEのやりとりで、相手から否定ばかりの内容が届いたら対応に困りますよね。  腹が立ち、関係をやめたいと思って...
金運を上げる花5選!植物で開運を狙う基本のキ。黄色いお花だけではない【開運花師おすすめ】
 いくらやりくりを頑張っても、追いつかない物価高。こうなったらもう金運を呼び込むしかないかも?  お花や開運に関する...
辻希美は第5子妊娠の衝撃度。長女希空とは18歳差に…年の差きょうだいの良さと熟考すべきこと
 元モーニング娘。の辻希美(37)と夫の俳優・杉浦太陽(43)が3日、第5子妊娠を発表した。  2007年6月に結...
一気に距離が縮まる会話術! 社長も平社員も、みんな笑顔になる「あの話」は鉄板エピソード
 例えば今目の前に距離を縮めたい相手がいたら、みなさんは何をしますか? 私なら、その人の子供時代の話を聞きます。 ...
「子持ち様」認定されないように…非常識な親バカママ友あるあると3つの対処法
 子供がいると避けて通れないのが、ママ友とのお付き合い。  今回は、思わずイラッとしたママ友の親バカ行動をご紹介。周...
職場の「1on1ミーティング」を苦痛に感じる3つの原因。今すぐ取り入れたい対策方法は?
 近年、企業で取り入れられている「1on1ミーティング」をご存知ですか? 新しい手法を取り入れるのは良いことですが、蓋を...
堤防の上は“たまたま”のランウェイならぬ、ニャンウェイ♡ 見せ場のターンの瞬間をパチリ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
意外に難しい「ミモザの鉢植え」を成功させたい! ほっぽらかし園芸好きの花屋が教える5つの失敗と対策
 暦の上では3月、ポカポカを通り越して半袖脇汗が止まらない日中があれば、突然寒くなり雪が降る…これは本当に三寒四温なのか...
想定外しかない商店会ワーク。文句ばかり言うおっさんにブチ切れ寸前、寅さんの名台詞で堪えました
 本コラムは、地元の“幽霊商店会”から「相談がある」と言われ、再始動の先導役を担う会長職を拝命することになったバツイチ女...
ぎっくり腰再発かも…? 運動不足解消のため、水泳を始めた中年おばさんの“まさか”
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...