東京の「Fラン大学」を出たママの誇り。お受験戦争の渦中、優秀な娘に人生を重ねる傲慢な願い

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-02-08 06:00
投稿日:2025-02-08 06:00

6年生になった娘に訪れた変化

 今日も机に向かい、ワークに励む美愛の小さな背中。愛子はずっと、じっと、眺めている。彼女のがんばる姿を見るのが、今の愛子の生き甲斐だ。

 中学受験に挑むにあたって、教育虐待をしてしまうのではないかと不安もあったが、どうやら杞憂だったようだ。

 こんなにがんばっているのなら、横浜雙葉には余裕で入ることができるだろう。山手の桜並木を古風なエプロンドレス風制服で歩く美愛を想像し、自分を重ねて落ち込む心を奮い立たせた。

 モチベーションがそのまま続くことを切に願いながら。

 だが…――そんな美愛が6年生になってほどなくした時、変化が現れた。

可愛い娘の反抗に戸惑う

「…あのさママ、あっち行ってくれない?」

 いつものように勉強を見守っていると、信じられない言葉が愛子の耳に飛び込んできた。頭が真っ白になったのは言うまでもない。

「あ、ごめんね、ココアでも作ろうか」

「チョコ食べたし、糖分は十分足りてるよ。ほんとに気が散るの。出てって」

 繋いでいた手が、突然離されたような感覚になった。

 ――今までは、ココアさえ飲ませれば機嫌が良くなっていたはずなのに…。

 何があったのか、と尋ねるとさらに棘が増した。愛子は観念してしぶしぶ勉強部屋を後にする。

 自然とベッドルームに足が向かい、既に寝ている下の子を自己満足で抱きしめた。しかし、脳裏に焼き付いているのは美愛の鋭い表情だった。

 受験も近づき、勉強の量が多くなるにつれ、彼女はイライラのオーラをまとう日が多くなってきていた。気づかないようにしていたのだが…。

 そしてふと湧き上がる漠然とした嫌な予感。

 ――あの子、本当に受験がしたいのかな…。

「受験、したくなければしなくていいのよ」

 SAPIXで毎月頂く広報誌には、2月の勝者となった生徒の家族のインタビューが掲載されている。

 そこで見る親御さんたちは揃って「子どもが自分から中学受験をしたいと言って来た」「子どもの意志を尊重して中学受験をした」となどと口を揃える。

 強要したわけではない、というアピールなのかもしれないが、愛子にとってその言葉はとても重かった。

 美愛は、愛子から積極的に誘導されて、中学受験をしている。それとは逆の、ほとんどの子が“じぶんの意志で”中学受験をしているという表向きのデータに戸惑う。

「美愛ちゃん、受験、したくなければしなくていいのよ」

 ワークが一段落し、キッチンで夜食をとり始めた美愛に、愛子は思い切って聞いてみた。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


口づけしたくなっちゃう♡ 真っ白な“たまたま”にロックオン
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
なぜお正月の飾りに竹?めでてぇ年賀の最強アイテムはSDGs的にも超優秀
 猫店長「さぶ」率いる我がお花屋にも、まもなくお正月がやってきます。  今年の暮れも嵐が過ぎ去った後のように荒れ放題に...
知人「やさしいたい焼き屋のおじさん」私「あれ母親」地雷踏んだLINE
 人にはそれぞれ絶対に踏んではいけない「地雷」があります。でも、それが何かはわからないケースがほとんど。今回は、LINE...
クリスマスを「自分へのご褒美」の口実にしてもいいかしら?
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
ギャラ飲みとラウンジで荒稼ぎも…まともな恋愛ができない29歳港区女子
 経営者や著名人、人気のインフルエンサーも利用する「ギャラ飲み」なるサービスって知っていますか? 東京都内のみならず、全...
再婚しても元夫・家族に子どもを会わせる?本音は「面白くない」だけど…
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
「こっちに付いてきて」広島で“たまたま”が秘密基地にご案内
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
枕元にプレゼントがなくても…満天の星空に心奪われる特別な夜
 出雲の国の満天の星空を眺めていた。  日付が変わった頃、天の川を切り裂くように飛行機が音もなく飛んでいった。 ...
ほっこり読み切り漫画/第64回「みんな揃って、メリークリスマス」
【連載第64回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 「しっぽ...
「不倫」と「浮気」の違い、知ったかぶりしてませんか?
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
愉快な酔っ払い友達「どこ?寝室に辿り着けない」 私「あんたんち、1R」
 お酒の飲み方は人それぞれです。楽しく飲める人もいれば、酔っ払って記憶を無くす人も…。今回は酔っ払い状態の友達から届いた...
ドライアイ解消にも 目もと専用「アイシャンプー」の効果
 数カ月前、眼科で右目の上まぶたにあった霰粒腫(さんりゅうしゅ)の切除手術をしました。その際、医師に「できやすい体質って...
セクハラに時間が解決?責任を負わない事なかれ主義者の無責任LINE3選
 波風を立てず、責任を負わず、誰かがどうにかしてくれると見てみぬフリばかりする「事なかれ主義」。  一見、平和主義...
見た目とキャラが合わないのは当然!悩んだときの考え方
「見た目の印象とキャラがだいぶ違うよね」と言われて、悩んだことはありませんか?  自分が周りに与える印象と実際の自分と...
SNSや現実でも…他人の容姿批判がやめられない人は2種類いる
 みなさんの周りに、他人の容姿(ビジュアル)についてうるさい人、いませんか?  私はそういう人を見るたびに「かわいそう...
夜明けとともに起きだしたコハクチョウの胸の内
「あ~! 眠いけど、きょうも1日がんばるかあ!」  なんて言ってたりして。今朝の自分のことだけど(笑)。  ...