Nキャスの就職氷河期特集は“笑顔”が物議に…テレビ番組でVTRや中継のワイプは何のためにあるの?
【テレビ局に代わり勝手に「情報開示」】#3
うん、きっと不思議に思いますよね。ざっくり理由はふたつ。
1. スタジオにいる豪華ゲストの顔を見せたい。
最近はスタジオにゲストをたくさん呼んで、その豪華さとトークの面白さに命をかけている番組が多いですから、スタジオ以外の部分、つまりVTRや中継の部分でも「この人がいるよ」っていうのを常に視聴者に見せたいわけです。
だからワイプを切る…そんなとこリアクションいる? ってところでもワイプを切る…そのために「スタジオにいる人の数の分、カメラを回している収録番組」も増えてきていて、まあまあ制作スタッフ泣かせです。最近は固定カメラなら機材は安いので、それはいいんですが、なにせ収録する素材が超絶多くなるのでチェックするだけでもめんどくさい……。ADが倒れそうになりながら、泣き濡れてチェックしています。
2. 「ココ笑うとこ」の合図。
むかし、ドリフのコント番組とかで、「ギャハハハハ」っていうオバサンの笑い声が入ってましたよね。アレと同じ役割です。あの笑い声も効果音だったわけですけど、入っていることで視聴者はなんとなく「あ、ここ面白いんだな。みんなウケてるもんね」と思いますよね。
それと同じで、VTRを見て笑うタレントの顔が入っていることで「笑うトコだな」というのが分かるんです。泣き顔なら「感動するトコですよ~」って感じ。感情を誘発する合図(キュー)的な役割なので、「感情キュー」と呼んでます。僕が呼んでるだけですけどね。
これ便利なのは「実際にはスタジオで滑っていた」場合でも、なんとなく「ゲストが笑っている顔」を探してきてワイプに編集でハメ込んでしまえば、大ウケしてる感じにもできちゃいます。
■生放送のVTR時間は“自由時間”…ワイプは予測不可能
さて、収録番組だけではなく最近では生放送でもワイプが当たり前になってきてますが、これ結構厄介なんですよね。つい先日のTBS「情報7daysニュースキャスター」で、就職氷河期の特集VTRが流れているときに出演者が笑っている映像が流れてネットがザワついてましたが、あれは仕方ないんです。
生放送の報道・情報系番組では事前に出演者と制作サイドが綿密に打ち合わせをして、流れるVTRの内容や「ここのスタジオではこういうコメントもらいます」みたいなことまで出演者は分かってますから、言ってみればVTRが流れている間は「貴重な自由時間」なワケです。
水飲んだり、差し込まれた項目の打ち合わせしたり、メイクを直したりする。そして、スタジオに緊張感が漂っていたりゲストの表情が固くなっていたら、空気を和ませるために雑談したりもするんです。その笑顔がワイプで抜かれてしまったりもたまにします。オンエアディレクターも、誰がいつ笑うか、あくびするか予想できませんもんね。
だから本当は、よほどリアクションが必要なVTR以外は、生放送でワイプを抜くのはやめた方がいいと僕は思ってます。あまり深刻なニュースとかのVTRでワイプ抜かれても、出演者の方もどんな顔したらいいのか困っちゃいそうですもんね。今のテレビはちょっと安直にワイプを使いすぎです。そんな感じでお分かりいただけたでしょうか?
さあみなさんもよろしければ、 テレビへの素朴な疑問をお寄せくださいね。可能な限り独断と偏見で情報開示しますよ。
(鎮目博道/テレビプロデューサー、コラムニスト、顔ハメ旅人)
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