「専業主婦は文句ばかり」戦略的バリキャリママの主張。家庭と仕事、手に入らないのは“努力不足”でしょ?

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-04-12 06:00
投稿日:2025-04-12 06:00

【東戸塚の女・山森麗菜30歳】

 山森麗菜はタワーマンションが林立する街に暮らしている。

 と、いっても豊洲や有明などの湾岸エリアでもなく、武蔵小杉や二子玉川でもない。ましてや港区や中央区などの東京の中心地でもない。

 横浜の東戸塚だ。

 昭和55年に駅が開業し、開発が始まった新しい土地なだけあって、いくつもの大規模マンションが建つ、知る人ぞ知る洗練された街だ。

 西武などのデパートや、大きなスーパー、公園も学校もあり、何より魅力なのは都心や横浜には湘南新宿ラインや横須賀線で1本というアクセスの良さ。

 駅から徒歩圏内に豊かな自然も広がっている。横浜市というアドレスもいい。

 大手中学受験予備校の校舎も一通り揃っている。それはここに暮らす子育て世帯の所得層と知的水準を物語っているとみて、住む際の決め手にもなった。

世帯年収2000万超えの快適な生活

 ――ミーハー心と見栄で、都内に暮らすなんて浅はかよね。脳が死んでいるんじゃないかしら。

 麗菜は20階にある自宅のリビングから、窓の外に広く拓けた光景を見下ろした。

 都心のように、眺望を遮るビルは皆無。天気のいい日は横浜のみなとみらいまで見える。港区では制服扱いで逆に着ているのが恥ずかしいくらいのモンクレールのダウンだって、この街でなら堂々と着こなせる。

 コスパが良くて、窮屈さがない、そこがいい。

 麗菜は、この街に住処を決めた自分を褒めた。

 大学の同級生である夫・真二は大手自動車会社の本社勤務のエリートだ。麗菜も育休中だが、都内の大手保険会社に籍がある。

 世帯収入2000万円超え、金銭的には今のところ何も不自由していない。

「戦略的に、計画的に、要領よく」がモットーだ

 昨年5月に出産した第一子がおり、そして今は第二子を妊娠中である。いずれも保険適用となった不妊治療で授かった。

 年齢的にまだそこまでする必要はないという担当医や夫の意見もあったが、仕事復帰のタイミングや、人生戦略的にも年子の方が都合よく、押し切って立て続けに、子を得ることに成功した。

 戦略的に、計画的に、要領よく。

 それが、麗菜の人生のモットーだ。

すべてを手に入れることは不可能じゃない、と思う

 仕事も、家庭も、余裕も。欲張ってすべて手に入れることは、誰もが知恵と努力次第で可能だと麗菜は思う。

 在籍している会社も、就職活動中から福利厚生や女性の働きやすさなどを徹底的にリサーチした上で一番初任給の高い会社を選んだ。

 会社の制度をフルに利用した上で、年子で子ども二人を立て続けに生み、下の子が0歳児になったら、すぐの復帰を画策している。そうすれば、ブランクは1度で済むから。

 復帰後は、小学校に下の子が上がるまでは時短でいく。地域のサポートも活用し、いざとなったらシッターも利用するつもり。もちろんすでにリサーチをしており、業者の目星もいくつかつけている。最終手段として千葉の実家の存在もある。

 この計算で行けば、40手前でフルタイムの復帰が可能だろう。貪欲に登れるステージまで上がっていきたい。

 育休中は、完全復帰までの種まき期間と設定し、できる限りの資格を取得するのが目標だ。会社は育休中のリスキリングの補助をしてくれることも有難い。在宅の副業などもしながら、資産形成やキャリアの構築をしていきたいとも思っている。

時折思い出す、憧れの女上司の存在

 今日も麗菜は、駅前の西武の中にあるスタバでデカフェ片手に一息つきながら、TOEICの参考書を眺めていた。

 0歳の我が子は、現在一時保育に預けている。育休中でも、こういう時間は必要だから、使えるものは使うべき。遠慮はするものではない。

 ――そういえば、荒川さんって、今、なにしているんだろう。

 なぜか、ふととある人物を思い出した。

 それは、入社した当時、メンターとして社会人のイロハを叩きこんでくれた年上の女性上司・荒川晶子のことだ。

有能だったのに…出産で辞めたのは何故?

 170cm近い長身で、細身のパンツスーツを華麗に着こなす、ショートカットの女性上司だった。仕事もバリバリできて、当時彼女は30代半ばだったろうか。

 自分も将来はあんなふうなキャリアウーマンになりたいと麗菜は憧れたものだ。

 しかし、既婚だった彼女は出産すると、育休取得後にあっさり会社を辞めてしまった。

 麗菜の会社は、制度も充実しているし、育休をとった職員の同僚には祝い金が支給されるなど、子育てに理解のある風通しのいい職場のはずだ。

 ――あんなに仕事が好きだった人なのに、なぜ…。

 育休から復帰せず、2年近く取りきって、そのまま会社を後にした彼女。人生の見本とするはずだったのに、裏切られた気分だった。

 家庭という小さな世界に閉じ込められた結果、やればできることさえ考えられなくなった結果だろうか。

 退社の挨拶に、乳児の子どもと共に来た彼女の顔は、もはや別人だった。イオンの2階で売っていそうな花柄のマザーズバッグを手にしていた。

 彼女を見た麗菜は決意した。晶子を見本ではなく反面教師にしようと。

聞き覚えのある声。そこには…

 絶対に、ああはならない。家庭や子どもを得ようとも、自分を見失わずにいたい。だからこそ、行き当たりばったりではなく、目標を高く見積もって計画的に進んでいきたい――と。

 確固たる決意に燃えながら、時間を忘れ参考書に向き合う。育児に追われていると、勉強の時間でさえくつろぎを感じる。

 その時だった。

「あら…もしかして、麗菜さん?」

 聞き覚えのある声が背後からした。咄嗟に、顔を上げ、振り向く。

 何気なく彼女の名前を思い出したのは、どこかでその姿が視界に入ったからなのかもしれない。

「晶子さん…?」

 反面教師が、そこにはいた。

ミドリマチ
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作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

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