八代亜紀さんヌード写真付きCD発売で騒動に…故人の尊厳や遺族の思いを守る法律はあるのか
【「表と裏」の法律知識】#278
2023年12月に亡くなられた歌手の八代亜紀さんの追悼アルバムに、プライベートなヌード写真が特典として封入されることが発表され、物議を醸しています。
問題とされている写真は、彼女が20代の頃に当時の交際相手である元音楽ディレクターによって撮影されたとのこと。レコード会社「ニューセンチュリーレコード」が所有するものであり、同社は、過去に八代さんの原盤権や関連資料を買い取った経緯から、写真の使用に問題はないと主張しています。
しかし、これはあくまで写真の「物理的な所有権」の使用に関する主張であって、八代さんやそのご遺族・関係者の持つ肖像権(自分の姿や顔を無断で撮影・公開されない権利)やパブリシティー権(有名人の写真などを営利目的で使用する権利)といった権利を侵害しうることとは全く別の話です。
まず、肖像権については、八代さんは生前、肌の露出を避ける傾向があり、八代さんがこのような写真の公開を望んでいたとは考えにくいと思われることから、肖像権の侵害となる可能性があります。もっとも、肖像権は個人の「人格権」のひとつとされるため、本人の死とともに消滅すると考えられるのが一般的です。一方で、八代さんのご遺族の「人格的利益」や「感情」を侵害する形で使われた場合には、民法の不法行為(名誉毀損など)として訴えられる可能性があります。
次に、今回の件のようにCD特典として八代さんの私的な写真を使うことは、彼女の人気・知名度を利用して売り上げを上げようとする行為であり、パブリシティー権の侵害に該当する可能性があります。日本では、パブリシティー権が死後にも存続するかについて法律上の規定はありませんが、有名人の人気やイメージが死後も継続して商業価値を持つと考えられることから、遺族や関係事務所が管理・承継できるものとして保護されるべき権利であるといえます。
これらの問題に関して、八代さんの肖像権や著作権を管理する「八代ミュージック&ギャラリー」は、本人や遺族・関係者の許可を得ておらず、名誉毀損やプライバシー侵害の可能性があるとして、法的措置を検討しているとのことです。
この問題は、単なる権利侵害にとどまらず、故人の尊厳や遺族の思いをどう扱うべきかという社会的・倫理的課題を改めて問いかけるものとなっています。
(髙橋裕樹/弁護士)
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