「喪服」迷子だった40代、ベストな一着に出会う。AOKIでもしまむらでもなく“あの通販”だった

小林久乃 コラムニスト・編集者
更新日:2025-05-21 06:00
投稿日:2025-05-21 06:00

いっそ平服でも…「お見送りの葬儀場は喪服だら」

 この帰り道に偶然、妹から電話があって叔母の今後について話してくれた。叔母は単身なので、絶対に葬儀だけはするなが遺言だ。

「え、それならさ、喪服着なくてもいいかな。黒い平服とかじゃダメ?」
「お見送りの葬儀場は喪服だら」

 どうもこの迷路は抜けなくてはならないらしい。ここで私は自分なりの喪服購入ルールを決めた。体当たり勝負では黒の波に負けてしまうだけだ。店舗購入ではくじけたので、ネット通販で買うと決め、まずは「2万円以内」と値段を設定。今の自分の体型には納得していないのに、『伊勢丹』などに出向いて一生モノだと、高額をはたいて喪服をしつらえる勇気も資金も時間もない。とはいえ体型に納得する予定もないのだが。それから「ゆとりのあるボディラインのワンピースで、葬儀以外も着られそう」と「すぐ届く」。いいなあと思ったデザインがあっても、到着が2〜3週間先では、訃報の知らせと商品到着を共にハラハラしながら待つ羽目になる。

 そして「どこかにレーシーなデザインがある」。どこぞのコメンテーターが元首相の葬儀で着ていた、胸元すべてがレースのような艶かしいタイプではなく、コーディネートのどこかにデザインがあればいい。こう思った理由は家系にある。叔母の母、つまり私の祖母が葬儀に参列するときは、いつもトーク帽をつけていた。普段、おしゃれをするタイプでもなかった祖母なのに、葬儀だけはビシッっと決めてきた姿をよく覚えている。ひょっとしたら彼女なりのポリシーだったのかもしれない。とはいえ、自分がトーク帽は似合うような頭蓋骨をしてないとは自覚があるので、祖母の意思を喪服のどこかにレースをつけようと決めた。

ありがとう、ニッセン

 と、こんなふうに目標を決めていざ検索をすると意外とターゲットは意外と簡単に定まっていく。あまり経験はないけれど、マッチングアプリもこんな感じのゲーム感覚なのだろうかと、条件を決めて黙々とマウスを動かす。まあ、喪服と恋愛対象者では検索の意味が全く違うけれど。

 検索を始めて1時間ほどで、ケープを着用するデザインに決めた。黒い靴やバッグはあるし、困ったら量販店もある。ただケープの付け方や、詳細デザインが分からなかったので電話で問い合わせをすると、オペレーターさんが丁寧に教えてくれたのでそのまま購入。ちなみに購入先は『ニッセン』だった。

 注文から二日で喪服が届いた。急いで開封して着てみると、サイズはぴったりでケープも自分で装着できた。ホッとしたと同時に、なんて悲しい買い物だろうと眉をひそめた。この喪服がもうしばらくは稼働しなくて済みますように。叔母よ、頑張れ。

小林久乃
記事一覧
コラムニスト・編集者
出版社勤務後、独立。2019年「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」にてデビュー。最新刊はドラマオタクの知識を活かした「ベスト・オブ・平成ドラマ!」(青春出版社刊)。現在はエッセイ、コラムの執筆、各メディアの構成と編集、プロモーション業が主な仕事。正々堂々の独身。最新情報は公式HP

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


3万のフレンチ? 1カ月の食費ですけどー!心で泣いた“女子飲み”の誘い
 仲良くしている友達や、恋愛対象として見ていた人との会話で「私とは住む世界が違う……」と感じた経験はありませんか? 今回...
【45歳からの歯科矯正】歯科矯正の洗礼か! 頬がこけ、そして便秘に…
 総費用160万円かけてワイヤー矯正(表側)に踏み切った“40代半ば婦人”の歯科矯正ほぼほぼリアタイ体験談です。  今...
男性用のレース下着って知ってる?トム・クルーズと極道の「色気」の正体
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
やっぱりハブられてる? 飲み会に自分だけ誘われない理由と3つの対処法
 自分は仲良しだと思っていたグループで、自分以外のメンバーが飲み会をしていた…… なんてことが発覚したら、かなりショック...
察知できないから危険でヤバい!「ステルス地雷系の競わせ屋」の罠こわっ
 みなさんの周りには、どんなヤバい人がいますか? あ、いると決めつけてすみません……。でも正直、「この人、ヤバいな」とす...
縦も横もななめも…直線だけで造られた街の違和感と落ち着き
「なんだか不思議な風景だな」とファインダーを覗いたら、その理由に気がついた。  縦も横もななめも、すべて直線だけで...
私は佳代だよ、レイちゃんってかすりもしねえ! 関係が終わった決定打!!
 仲良しの女友達や意中の彼からのLINEでも、幻滅したり、縁を切りたいと思ったりすることはありますよね。  今回は...
40女スーパー銭湯でととのえず、ぴーちくぱーちくな先客にモヤった話
 スーパー銭湯が好きです。週末のランニングがてら、あちこちの施設に出向いております。広い湯船にざっばーん! からの~、サ...
まるで御神体のよう! 美しく雄々しい“たまたま”に幸せを祈ります…
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
どれくらい実践してますか? 家でできる環境にいいこと「7つの習慣」
 子供たちに限りある資源を残すためには、私たちの日々の努力が欠かせません。今回は、みんなが普段心がけている環境にいいこと...
胡蝶蘭はお祝い専用? 寺の住職から聞いた「お悔やみ花」としての需要
「つかぬことをお伺いしますが……」  猫店長「さぶ」率いる愛すべき我が花屋には、お客様から毎日のように“ちょっと困...
台無しなんですけど!家族旅行なのに「夫のイライラ言動」と4つの予防策
 世の女性の中には、せっかくの家族旅行中、「夫のイライラする言動」によって、楽しい雰囲気が台無しになってしまうケースも…...
“頑張り屋のメンヘラ”が「セルフラブ」という人生の処方箋を知りました
「セルフラブ」という考え方は、確実に私の人生に大きな影響を及ぼしています。  セルフラブについて学び始めた時「世界...
【にわか呑み鉄】電車とビール好きにたまらない「流鉄BEER電車」に参戦
 さる9月2日(土)、千葉県流山市で「電車好き」と「ビール好き」垂涎の1日限りのイベントが開催されました。  通常は入...
かつて入り浸った店も 横丁の思い出も時代と共に変わってゆく
 昼間の細い路地を軽装の観光客が闊歩する。  誰かにとってはノスタルジーでも、また違う誰かにとっては新鮮に映るんだ...
にゃんたま写真の成立には“たまたま”への愛のピントがマスト
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...