「あんぱん」悲しい“神回” 。蘭子(河合優実)のあまりにもすごい慟哭と、のぶ(今田美桜)の涙

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2025-05-21 14:29
投稿日:2025-05-21 14:27

第8週「めぐりあい わかれゆく」#38

 豪(細田佳央太)の戦死の報せに、悲嘆する朝田家。皆が口々に「豪は立派だ」と言う中、押し黙る蘭子(河合優実)。深夜、線香を絶やさず起きている蘭子に、のぶ(今田美桜)はかける言葉がない。

 翌日、焼香に来たのぶの教え子が、いつかお国のために立派にご奉公したいと言うと、蘭子はいたたまれず出て行ってしまう。石置き場にたたずみ、豪との思い出がよみがえる蘭子。探しに来たのぶに、蘭子はどこが立派なのかとつぶやき…。

【こちらもどうぞ】「あんぱん」この見合い相手、あの朝ドラの“不倫男”じゃないか! ラスト2分にも衝撃…

【本日のツボ】

蘭子の「うそっぱちや~」

 ※※以下、ネタバレあります※※

 豪の戦死。紙切れ1枚で死んだと言われても納得できるものではありません。令和の私たちが見ると明らかに変です。

 団子屋の桂(小倉蒼蛙)が「豪はお国のために、命を惜しまんと戦こうたがじゃ。おまんの弟子に立派じゃと言うちゃれ」と言えば、「そうじゃ。豪は立派に戦死したがよ」と天宝和尚(斉藤暁)と。

「のう、そうじゃろ? のぶちゃん」などと言われても、のぶも困ってしまいます。ですが、そこは“愛国の鑑”、「豪ちゃんは……お国のために……立派にご奉公したがです」と涙を流しながら言いました。「そうや。本人も本望かもしれん」と釜じい(吉田鋼太郎)。これが時代の空気というものなのでしょう。

これを神回と言わずして何を神回というか

 夜、蘭子はひとり豪の仏壇らしきところにいます。手を合わせて、「豪ちゃん? お腹すいたね~」と話しかけています。その姿を遠巻きでみつめるヤムさん(阿部サダヲ)、「あいつはお国のために死ねて、今頃、ほんとうに喜んでんのかね? 立派だったって言ってやらねえといけねえのかね? 愛国の先生」。とのぶに言い、立ち去ります。

 豪の葬儀では、戦時下を描いた朝ドラでおなじみの“愛国婦人会”の方々がおくやみにあらわれ、「原豪さんは英霊になられたがです。ごりっぱです」と。さらに、のぶの教え子たちが「わしらも立派にご奉公したいです」とのぶに言っているのを聞いて、いたたまれなくなった蘭子はそこを離れて、豪との想い出の作業場に。

 蘭子の下駄の鼻緒が切れた時、豪が自分の手ぬぐいを割いて、挿げ替えてくれました。そんな回想シーンが流れました。ひぐらしと蝉の声に寂しさが募ります。

 この鼻緒のシーンは昔の映画ではもう何度もこすり倒されていますが、豪の肩に手を置いた時、豪の手が素足に触れた時、蘭子の恥じらいとときめきが綯い交ぜになったような表情が良きでした。

 その後、のぶに「豪ちゃんの戦死は誰よりも蘭子が誇りにおもわんと」と言われた蘭子の「お姉ちゃん、本気でそう思てるがや」からの芝居はもうこれはあまりにも凄く、これを神回と言わずして何を神回というか、という感じです。

 なので、ぜひ、見逃した方はNHK+で。蘭子の慟哭、多くの人に見ていただきたいです。

桧山珠美
記事一覧
TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。読売新聞「アンテナ」、放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


岩ちゃんか仲野太賀か…優三株の上昇、高等試験に落ち続ける原因判明!?
 突然、猪爪家に検察が押しかけ、はる(石田ゆり子)は直言(岡部たかし)が贈賄で逮捕されたと告げられる。  証拠品と...
桧山珠美 2024-04-26 16:45 エンタメ
まるでコント!寅子との恋フラグは立たず、崖から落ちる花岡(岩ちゃん)
 親睦を深めるためハイキングに行くことになったが、花岡(岩田剛典)たちの態度に溝を感じ、浮かない気持ちの寅子(伊藤沙莉)...
桧山珠美 2024-04-24 14:35 エンタメ
ガンちゃん登場! 目の前にビール瓶2本…寅子の酒豪ぶりは母のはる譲り説
 本科と呼ばれる明律大学法学部に進学した寅子(伊藤沙莉)たち。法改正が行われ、女子も正式に弁護士になるための試験を受けら...
桧山珠美 2024-04-22 15:40 エンタメ
「366日」、髙橋海人「95」学生服コスプレ繚乱!関口メンディー何留?
 新ドラマを見ていて気づいたことがあります。それは過去と現在を行き来するドラマで、俳優さんたちがそのまま高校時代や大学時...
すわ、嫁姑戦争勃発か!? 月のもので結束力まで描く脚本の妙
 実際の事件を調べるため、まんじゅうを作ってみることにした寅子(伊藤沙莉)たち。すると涼子(桜井ユキ)が急に謝罪したいと...
桧山珠美 2024-04-19 15:50 エンタメ
「お月のもの」ネタ再び、寅子らの生理談議にマスターのヘンな気遣い
 よね(土居志央梨)は貧しい生い立ちを明かし、涼子(桜井ユキ)や寅子(伊藤沙莉)など、同級生らが恵まれていることに憤りを...
桧山珠美 2024-04-18 16:50 エンタメ
森香澄は“嫌われる女”を演じてる説 「女子アナ」抹消計画を進行中!?
 元・テレビ東京の「女子アナ」で、昨年3月に退社してフリーに転身後、バラエティ番組を中心に引っ張りだことなっている森香澄...
堺屋大地 2024-04-17 06:00 エンタメ
朝ドラ史上初の快挙!ヒロインの月のもの(生理)事情が描かれた
 生徒数が減り、存続の危機に陥る明律大学女子部。宣伝のため2年生の寅子(伊藤沙莉)たちは先輩の久保田(小林涼子)・中山(...
桧山珠美 2024-04-15 15:48 エンタメ
平野、神宮寺、岸のNumber_i返り咲きの春! 欲いえばもっともっと…
 さくら満開の春、Number_iがテレビに帰ってきました平野紫耀(27)、神宮寺勇太(26)、岸優太(28)、お久しぶ...
「ニャニャニャニャニャ」寅子の必殺技!いずれ強い虎になる“伏線”か?
 判決の日。寅子(伊藤沙莉)たちの予想は外れ、妻が着物を取り戻すことが認められる。大喜びする女子部の面々だったが、よね(...
桧山珠美 2024-04-12 18:20 エンタメ
不祥事芸人・フジモンの賛否両論の復帰劇!実は吉本への貢献度が抜群?
 昨年10月に当て逃げ事故を起こして活動自粛していたフジモンことFUJIWARA・藤本敏史が、3月23日放送の『さんまの...
堺屋大地 2024-04-12 06:00 エンタメ
寅子「あきらめたらそこで終わり」はもしや…名作漫画のイズムにニヤリ
 傍聴した裁判について尋ねた寅子(伊藤沙莉)に対し、穂高(小林薫)は皆で議論してみるよう促す。  暴力を振るう夫か...
桧山珠美 2024-04-11 15:25 エンタメ
トラコ入学、伊藤沙莉は表情筋を自由に操る女優…男装の山田よねにも注目
 昭和7年。晴れて「明律大学女子部法科」に入学した寅子(伊藤沙莉)のクラスには女子の憧れの的の華族令嬢・桜川涼子(桜井ユ...
桧山珠美 2024-04-08 18:38 エンタメ
“お騒がせ”青井実アナが心機一転、なにわ男子の道枝駿佑と似てるって⁉
 世の中の人がNHKに持つイメージといいますと、「真面目」「お堅い」「地味」といったところでしょうか。  そんな中...
逃げ恥の百合ちゃん役が“頭のいい女は頭の悪いふりをするしかない”発言
 穂高(小林薫)に出くわしたことで女子部への出願が母・はる(石田ゆり子)にばれてしまった寅子(伊藤沙莉)。  娘に...
桧山珠美 2024-04-05 15:30 エンタメ
「虎に翼」語りは尾野真千子 NHKアナと俳優のナレーションの違いは?
 寅子(伊藤沙莉)がお見合いに苦戦する中、親友の花江(森田望智)は寅子の兄・直道(上川周作)との結婚準備を順調に進めてい...
桧山珠美 2024-04-05 15:14 エンタメ