ストゼロでも消えない死への恐怖。介護に離婚…友人それぞれが歩む人生に救われた夜。人が最後に行きつく先は

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-06-15 10:27
投稿日:2025-06-14 06:00

空白の20年。旧友たちが歩んできた人生

 翌日。

 突然の誘い、しかも、平日のお昼であったが、詩織と美鈴は赤羽駅にやってきてくれた。

「突然ゴメン。お茶でもする?」

 百恵の誘いに、ふたりは不服そうな表情で答える。

「赤羽に来て、お茶はないでしょう」

「昼飲みしようよ」

 百恵は快くそれを受け入れた。乳がん疑惑があるのに。そんな自分になぜか安心してしまう。

 美鈴が電車の中で調べたという、昼飲みできる若者向けの居酒屋に入り、ビールが来たところで美鈴が口火を切った。

「友達と飲み屋に入るなんて久しぶり。離婚してよかった」

 美鈴は、子どもの高校卒業を機に長年不倫とモラハラに苦しめられていた夫と離婚したという。慰謝料をたくさんもらって、今は悠々自適の生活だとか。なんと赤羽に最近越して来たらしい。

「久々のひとり暮らしだから、最初にひとり暮らしした街に来たみたいな」

 美鈴の一通り近況を聞いた後、次は詩織が口を開いた。

「今さ、親を介護していて」

介護に病気…話しやすい空気を作ってくれた?

 詩織は、5年まえに会社を辞め、現在は在宅でライターの仕事をしながら介護をしているという。しかも、意外と近くの十条に住んでいるのだそうだ。

「別に嫌々じゃないよ。親とは仲がいいし、私も鬱と乳がんが一気にやってきた頃だったからね、親を理由にして会社から逃げちゃった」

 詩織の病気の話題が出たところで、百恵は自分のターンが来たことを確信する。ふたりは、百恵に何かあったことを察し、話しやすい空気を作ってくれていたのだろう。

 その優しさに乗じ、すぐさま、健康診断結果の話をする。察しのいい詩織は、すぐに百恵が欲しかった答えを与えてくれた。

「乳がん検診は、1割は要精密検査の診断をされるっていうから、そこまで深刻にならなくてもいいよ。でも、心配だろうから、私の通っていた病院紹介するよ」

「え、いいの?」

「名医がいるのよ。私も紹介で見てもらったの」

 すると美鈴も先日、腰を痛めたということで整形外科の名医に通っているということを話しだした。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


中年の“集中力”はどこに消えた? 若い頃と「同じ脳じゃない」と気づいた私の小さな工夫
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
なんで全部マネするの?次男の妻が意味不明…悩む57歳義母が見つけた意外な突破口
 かつての嫁姑問題といえば「同居」や「家事」、「子育て」をめぐる衝突が定番でした。しかし令和の時代を迎え、別居が当たり前...
“イヤホン女子”は狙われる? 知っておきたい夜道のNG行動と自衛テクニック
 悲しいことに、女性をターゲットにした物騒な事件が続いています。日頃から防犯意識を高め、対策をしておきましょう。今回は特...
で、出た~! 絶対に謝らない奴らのお通りだ。友人・職場・恋人のトンデモエピ7連発。逆切れに納得いかない…
「明らかにあなたが悪いよね?」という場面でも、絶対に謝らない人、いますよね。素直に「ごめんね」の一言を言えば済む話なのに...
私だって一人になりたい! 家族は大切だけど…ママが「自分時間」を確保する工夫と伝え方6つ
 夫や家族と過ごす毎日は幸せいっぱいだけれど、たまには「ひとりになりたい」と感じることってありますよね。特に、小さな子供...
「味噌汁の味を覚えないのよ~」義母の“昭和な価値観”に苦しめられ…28歳新妻が取った静かな逆襲
 幸せなはずの新婚生活に影を落としたのは、姑からの「お嫁さんなんだから当然」という圧力と、夫の無関心だった――。令和の時...
猫のしっぽがピン! 誰を待ってるの? 幸せの黄色い花に映える“にゃんたま”見せて♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
ぼっち上等! 私が“ママ友”を作らないワケ6選「子どもの言葉で目が覚めて…」
 ママ友がいないことに焦りや不安を抱えている人もいるでしょう。でも「あえてママ友を作らない」という人もいるもの。そんなマ...
「美的GRAND」が大サービスすぎて大丈夫? 1,870円→15,233円相当の付録ってウソでしょ
 今回もなにやらすごそうな『美的GRAND 2025年秋号 通常版』。  本屋で雑誌を手に取ったときに付録の厚みに...
「一緒にトイレ行こ!」40代でそれはキツい。“大人の自覚ゼロ”な女のイタイ言動。謝らないって中身は5歳児?
 40代は立派な大人。だからこそ言動には注意したほうがよいかもしれません。あなたも普段、こんな言動していませんか!?
グサッときたぜ…「孫の顔も見れずにあの世行き?」未婚ガチ勢の心をエグる“親からのLINE”3選
 結婚するかどうかは自分で決めること。でも親から「結婚はまだ?」なんて言われると、モヤモヤしたり焦ったりしちゃいますよね...
神かよ…つら~い生理中、男性にされて感動したエピソード6選「喧嘩ばかりの弟がナプキンを買ってくれた」
 女性にとって、心身ともに負担が大きい生理中。あなたの周囲の男性は、どんな風に寄り添ってくれますか?  今回の記事...
親と“SNS共有”が裏目に! 教えて「我が家のスマホルール」。リアルな成功&失敗エピソード6選
 制限がないと、いつまでも触れ続けてしまいがちなスマホ。今回は夫婦間、親子間などで決めている「我が家のスマホルール」にま...
増える通り魔的事件、現代人の「狙われやすい」歩き方。危険時に身を守る方法とは【元警部が解説】
 神戸市のマンションで24歳女性が刺殺された事件は、見知らぬ男に50分間つけ回された末の凶行だった。犯人は数日前から神戸...
「色恋営業」は人を選ぶ? スナック嬢が教える“地味に長続きする”接客テクニック
 夜の世界は接客業。来ていただいたお客さんになるべく気持ちよく、そしてなるべく多くのお金を継続的に落としてもらわなければ...
元芸能人「売れるため覚悟を決めた」“暗黙の関係”を選んだ女の後悔。スポットライトの裏で失ったもの
 芸能界の華やかさに憧れて飛び込む若者は多い。しかし、その裏には語られにくい現実がある。元タレントのAさん(仮名・30代...