『最後から二番目の恋』千明の“現象”にわかる~! 中年の無様な姿も可愛らしいじゃないか

小林久乃 コラムニスト・編集者
更新日:2025-07-09 11:50
投稿日:2025-07-09 11:50

転んだっていいじゃない

 中年になって転びやすくなるのは、一般的に筋力の衰え、視力や感覚の鈍りによるバランスの崩れが原因と言われている。対するように乳幼児がよく転ぶ理由は、頭の重さがつかめず、自分の筋力を過信しているから。転んでは泣き、立ち上がる。見ていて可愛らしいし「頑張れ!」と応援したくなる。が、成長とともに転ぶ回数は次第に減り、そして中年期を迎えて次第に増加していく。応援の声はなく、ひとりで立ち上がるしかない。しかも高齢者ともなると、一回の転倒が骨折や命取りになるのだから気をつけたい。

 実は私もよくつまづく。ありがたいことに人間ドッグで筋力を測ると、そこそこ健脚ではあるらしい。派手にすっ転んだのは小学生当時と、酔っ払ったときだけだ。ちなみに若い頃から何もない場所で簡単につまづく。スポーツ外科のドクターと話す機会があったので、なぜ自分が転びそうになるのかを聞いてみた。

「筋肉はしっかりしていても、そもそもの運動神経も関係しているかもしれません」

 …だろうな。幼稚園の運動会ではかけっこの「ヨーイドン!」で反対方向に走り、小学校からのスポーツテストはほぼ「E」判定。自転車もなかなか乗れなかったし、運動神経の鈍さに関しては自信がある。先日も少し気を抜いただけで、左足の側面が道路に突然着地、バランスを崩して倒れそうになった。その瞬間、きっと鏡の前では自分でも見たことのないような、不細工な形相だっただろう。バラエティー番組に出たら100点満点のリアクションを叩き出したはずだ。

「やだ〜、怖かったあ、びっくりしたあ」

 当然、不恰好になった様子を見られている背後からの通行人へ言い訳するように、独り言で恥ずかしさを誤魔化す。

(ちょっと、ちょっとね、バランスを崩しただけなのよ。だからこちらへ視線を送らないで)

 いっそのこと転んでしまった方が、周囲にも心配してもらえるのに、つまづくだけだと単純に笑われるだけだ。近頃は歩く際に最新の注意を払うようになり、危険なハイヒールなどを履くのを控えるようになった。仕事上や冠婚葬祭で必要そうな際は、バッグに靴を詰めてスニーカーで向かう。骨折でもして仕事ができなくなったら困るので、中年らしいリスクヘッジを心がけている。

 と、この文章を書いていたら偶然にも「この間転んじゃって」と、同級生からLINEが届く。なんだろう、この手のLINEが同年代から増えた気がする。「気をつけなよ」と、常套句のような返信しかできないけれど、皆、先述の吉野千明や私と同じで、自分の無様な姿をどこかで言い訳したいのかもしれない。独り言で言えなかったことをLINEに吐き出すなんて、ちょっと可愛らしいなと思った。そして伝えたい。転んでいるのはあなただけではなく、日本全国のおばさんが毎日どこかで転んでいると。

小林久乃
記事一覧
コラムニスト・編集者
出版社勤務後、独立。2019年「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」にてデビュー。最新刊はドラマオタクの知識を活かした「ベスト・オブ・平成ドラマ!」(青春出版社刊)。現在はエッセイ、コラムの執筆、各メディアの構成と編集、プロモーション業が主な仕事。正々堂々の独身。最新情報は公式HP

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


【45歳からの歯科矯正】医療費控除の手続き、確定申告で役に立つアレ
【これまでのお話し】 45歳で歯科矯正を始めようと思ったワケ(#1)/45歳女、5年越しにワイヤー矯正を決断!(#...
私は子供部屋おばさん?彼氏ナシ・非正規でもシフォンケーキで満ちる日常
 工場内に終業のチャイムが鳴った。  機械の停止音とともに「お疲れさまでした」が飛び交う。  同じロゴの入っ...
工場での単純作業は悪くないが…恋愛経験ゼロの女に起きた“タグ付け事件”
 西荻窪の実家で母親の信美と2人で暮らし、工場でパート勤務をしているかおり。彼女は今の生活に特別な不満もなく、趣味のカフ...
“子供部屋”を出てチヤホヤされて 36歳女性が勘違いから気づいた現在地
 西荻窪の実家で母親と2人で暮らし、工場でパート勤務をしているかおり。平坦な毎日だったが何気なくインスタに投稿していたシ...
酒豪の友達を持った宿命? 飲み会で「割り勘負け」を防ぐ6つの賢い方法
 友達との飲み会は楽しいけれど、気になってしまうのが大酒飲みとの割り勘。お酒を飲まない人なら、会計時に「ソフトドリンク1...
ミス日本は不要? 開催意義と椎野カロリーナ不倫発覚で“分不相応”の根拠
「ミス日本コンテスト2024」に選ばれたウクライナ出身のモデル・椎野カロリーナさん(26)が2月5日、グランプリを辞退し...
2024-02-10 06:00 ライフスタイル
ババア(婆)と言われ、架空の48歳妹になりすました73歳女に思うこと
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
蛙化現象わかったフリしてない?恋愛中でもどこか冷静な若者のリスク管理
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
台湾最高!くまのプーさん気分も味わえる「40女激オシ台湾産ビール」3種
 仕事の後のビールは、全てを忘れさせてくれる大切な存在。そんな1日の終わりに飲む1杯にはこだわりたいですよね。  そこ...
2024-03-07 18:25 ライフスタイル
うんざりするけども!目上の人の苦労話は“秒”で遮断するのはもったいない
「今の人は恵まれてる、昔はさ~」から始まる目上の人の苦労話、みなさんもうんざりするほど聞いてますよね。  その苦労話で...
戦うべき相手は過去の自分 時には昇ってきた階段を振り返る
 時には昇ってきた階段を振り返る。ずいぶんと上がった、と誇りに思うこともあるし、まだこんなところか…と凹むことも。 ...
コミュ力ゼロ、ママ友関係が苦痛でしかない…テッパン切り口&対処法
 子育てをはじめるともれなくついてくるのが、たくさんの人間関係。保育園や学校、ママ友との交流の機会が多いので、コミュ力の...
親を嫌いになってもええやん? 40女が手放せた“無理と我慢”
 早いものでもう2月。新年をきっかけに、今年こそは! と決意を新たにした方も多いのではないでしょうか。  筆者もそのう...
愛しいおんにゃの子に猛アピール♡“たまたま”君の恋の行方は
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
飛び立つのは怖いけど…いくつになっても思い切りって大事
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
世界的にフラワーバレンタインが来てる!愛の告白より感謝を伝える日に
 立春(2月4日)を迎え、暦の上では春。ですが、この記事を書いている最中にもテレビ画面には「本日関東地方は雪」ニュースが...