ジャンルMIXなJホラーがこの夏のトレンド 注目は「近畿地方のある物件について」と「事故物件ゾク 恐い間取り」
世情が不安な時代にはホラー映画がはやるというが、今年はトランプ関税による経済状況や、いつ沈静化するかわからない群発地震などを思うと、まさに不安の要素が多い年。だからだろうか、秋にかけてホラー映画が続々と公開される。
今年6月から10月までの日本のJホラー映画(公開日の表記がないものは公開済み)を俯瞰してみると、幽霊が見えることを人には隠したい女子高生を描いた「見える子ちゃん」と、童貞少年の血を吸いたいバンパイアが主人公の「ババンババンバンバンパイア」は、“青春コメディーホラー”。
現実には存在しない駅から異世界へ向かうヒロインが、他人を救うために何度も同じ旅程を繰り返す「きさらぎ駅 Re:」や、見たものに違和感を覚えたら来た道を戻らないと地下道の出口にたどり着けないゲームが原作の「8番出口」(8月29日公開)、ある体のパーツを全部見つけないと同じ時間軸の中で何度も殺されてしまう高校生たちを描いたヒット作の続編、「カラダ探し THE LAST NIGHT」(9月5日公開)は、体を探す舞台を学校から遊園地に変えて描いている。これらはミッションをクリアしないと、繰り返す時間の中から出られない“ループホラー”作品だ。
他にも、長澤まさみ主演、念のこもった人形と出合い、家族がメンタル崩壊していくドールミステリー「ドールハウス」、異世界で行われている古代からの神事にまつわる恐怖を描いた「男神」(9月19日公開)、死者の日記をきっかけに予測不能の怪異が起こる、第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作を映画化した「火喰鳥を、喰う」(10月3日公開)と、バラエティーに富んだ作品が揃った。
その中でもこれぞホラーという2作品に注目したい。1本目は70万部を突破した背筋の小説を、菅野美穂と赤楚衛二主演で映画化した「近畿地方のある場所について」(8月8日公開)。失踪事件や怪奇現象が起こる場所として、噂になっている地方を特定するために動き出した主人公たちが見舞われる恐怖を描く、虚構の都市伝説を題材にしたモキュメンタリータイプのホラー映画だ。監督は「ノロイ」(05年)や「口裂け女」(07年)などを発表し、特にフェイクドキュメンタリー作品で注目を浴びた白石晃士。彼が本領を発揮した正統派ホラーである。
もう1本は「リング」の中田秀夫監督による「事故物件ゾク 恐い間取り」。こちらは事故物件に住む芸人・松原タニシの実話を映像化したシリーズの最新作。タレント志望の主人公をSnow Manの渡辺翔太が演じ、彼は4つの事故物件で驚愕の体験をする。この作品が面白いのは、ホラーの部分を怖く描きながら、新人タレントの成長物語や畑芽育演じるヒロインとのラブロマンス、驚きのファンタジー的な展開まで、さまざまなエンタメの要素を詰め込んでいること。ホラーと青春映画、太極拳アクションを組み合わせて痛快な娯楽映画にした昨年の「サユリ」(24年)のように、今後のJホラーはジャンルをミックスさせることで、さらに魅力が広がっていく気がする。そういう意味でも同作が“ホラーベースの”エンタメ映画としてどう受け止められるか、気になるところだ。
(金澤誠/映画ライター)
◇ ◇ ◇
亡くなったことが7月17日に発表された遠野なぎこさんの演技には、常に「重さ」が伴っていた。【もっと読む】追悼・遠野なぎこ“重い演技”の裏にあったもの…朝ドラ女優の確かな演技力でも抜けきれなかった哀しい生い立ち…では、その深層に迫っている。
エンタメ 新着一覧