綾乃の元に本物の「セレブ」から連絡が
『ごめんなさい、実はわたくし、お受験をしたのも熱心なお義母さまの指示で、さほど詳しくないんです。聞きたいことをお話しできるかどうか……』
架空の義母を作り出し、熟考の末にメッセージを送った。すると、『お気を使わせてごめんなさい』と折れの返信がすぐに来た。
拍子抜けするとともに、彼女がお受験に対してやはりそこまで熱はなかったのだと納得した。きっと、グループに入るため、話のきっかけに食いつきそうなワードを出しただけで、引っ込みがつかなくなっていたのだ。
そんな時、スマホの振動と共に懐かしいアイコンがポップアップしてきた。
『おひさしぶり! お元気ですか? 藤堂です。
夏のあいだ、しばらく子供たちと帰国する予定です。
横浜にしばらく滞在するので、その間、お茶でもできたらうれしいです。』
藤堂さん――起業家でもあり、現在はドバイに家族で暮らしている正真正銘のセレブリティだ。
綾乃は千代田区のママ友グループにいた際、お受験の知識がないゆえに恥をかいたことがある。腫物扱いの自分をやんわりと指摘し、たしなめてくれたのが彼女である。
当時は自分を否定されたような気分になったが、藤堂さんに悪気はなく、その指摘があったからこそ現在の悠々自適な暮らしができている。マンションがあんなに高く売れるとは思わなかった。
逃げるように武蔵小杉に引っ越した際も、彼女にだけは手紙でお礼と引越し先を告げた。そのくらい、綾乃は感謝している。
レベルを上げるために必要な相手だ
『ご連絡、とても嬉しいです。ぜひ会いたいです。
仕事をやめ、今は専業主婦なので、時間は合わせられます』
藤堂さんは、The Kahala Hotel & Resortに1カ月近くいるという。ハワイの名門ホテルの名を冠した横浜屈指のラグジュアリーホテル…一度だけ、誕生日のお祝いのアフタヌーンティーに、子どもを実家に預け夫と訪れたことがある。
『よければ、我が家にきませんか? 藤堂さんの家に比べれば狭いですけれど』
綾乃は訪問したい想いもあったが、行ったら行ったで、再び天井を見させられて落ち着かないだろうと思った。誘われる前に自らのテリトリーに誘った。
『綾乃さんのおうち? 行きたいわ』
藤堂さんは喜んで受け入れてくれて、とんとん拍子に日時も決まった。綾乃はさっそく、マンション高層階にあるゲストルームの予約を入れる。
彼女にだけは何でも話せる関係だが、やはりどこか背伸びをしてしまう。
一方で藤堂さんは綾乃にとって、自らの気持ちのレベルを上げるために必要な相手なのだ。一緒にいると自分も同じステージにいるように思えるから。
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