セレブとの再会。そこに意外な人物が
当日。案の定、藤堂さんはハイヤーでやって来た。
エントランス前で出迎えた綾乃は、左手に下げられたHermèsの紙袋に目を奪われた。藤堂さんはその視線を見逃さないわけなく、すぐに綾乃に差し出した。
「これ、お土産」
中をちらりと覗くと、同じ色の小箱が入っていた。綾乃はその大きさから、キーケースかパスケースと踏んだ。
「ありがとうございます。いいんですか、こんな高価なもの」
「いいのよ。帰国前にお世話になっていた店舗を覗いたら、ちょうど担当さんがいらして、お付き合いで買っただけなの」
藤堂さんは口元に手を当てて微笑んだ。
相変わらず気さくで上品ないでたち。綾乃は嫉妬さえしない。この再会のために彼女はお子さんを、専属のシッターに預けてきたという。綾乃は片道2時間かかる実家の母の元に預けに行った。
「じゃあ、さっそくこちらにどうぞ」
綾乃は、ゲストルームに藤堂さんを案内すべく、背筋を伸ばして高層階のエレベーターホールに彼女を誘った。
「素敵なマンションね!」
「ありがとう。でも藤堂さんのおうちに比べたら恥ずかしくて」
彼女の住むドバイのマンションはもっとすごいのだろうか。いえいえ、と謙遜する藤堂さんの横を、見知った影が横切った。
スーパーの袋を持ち、乳児を抱いた、黒髪の女性…たっくんママだった。
あの人がなぜ「高層階」に行くの?
避けようと顔を背けるも――彼女が向かったその先は、自分たちが今行こうとしている高層階行きのホールだった。
思わず、二度見してしまう。
――え、高層階?
動揺する気持ちがないわけでない。ふいに立ち止まる。
すると、彼女が振り向き「ああ」という顔で綾乃に気づいた。冷静を装って、挨拶をしようとしたその時だった。
藤堂さんは上ずった声でつぶやいた。
「…マコ?」
「ゆりー!?」
たっくんママは目を見開いている。ふたりは自ずと手を取り合い、少女のような柔らかい表情になった。
驚きが波のように次々と押し寄せ、綾乃は、わけがわからなかった。
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