「愛はステロイド」田舎町の暴力に同性愛カップルの愛憎が絡むドロドロの犯罪劇

更新日:2025-08-30 17:03
投稿日:2025-08-30 17:00

【孤独のキネマ】

 愛はステロイド

  ◇  ◇  ◇

 見終わったとき、「低予算でもここまで完成度の高い作品を作れるのか」と思った。田舎町を舞台にした有象無象の人間関係をダークな色調で描いている。英国出身の女流監督ローズ・グラスがメガホンを取った。世界各国の映画祭で44のノミネートを獲得した注目作だ。

 1989年、ニューメキシコ州の田舎町。単調な毎日を過ごしているルー(クリステン・スチュワート)は勤務先のトレーニングジムで逞しい筋肉のジャッキー(ケイティ・オブライアン)と出会う。オクラホマ出身のジャッキーはラスベガスで開催されるボディービル大会に出るため経由地としてこの町に流れ着いた。

 ガラの悪い男と殴り合いになったジャッキーを介抱するうちにルーは彼女に惹かれ、ジムでまとめ買いしているステロイド剤をプレゼント。2人は熱いキスを交わし、ジャッキーはルーの家に居候することに。

 ジャッキーはウエートレスとして町外れの射撃場で働き始めるが、実はそこはルーが嫌悪する父親ルー・シニア(エド・ハリス)が経営していた。母親は12年前に出て行って音信不通。シニアは表向きは射撃場やトレーニングジムの経営者だがメキシコに大量の銃を密輸し稼ぐ裏の顔を持っている。

 ある夜、2人はルーの姉ベス(ジェナ・マローン)とその夫JJ(デイヴ・フランコ)とレストランで食事した。実はベスはJJにDVを受けているが、ベスはそれを愛だと盲信するばかり。姉を傷つけるJJに詰め寄ったルーだが、そこで彼が以前ジャッキーと肉体関係を持ったことを知る。

 翌日、ルーはベスが緊急搬送されたとの連絡を受ける。病院に急行すると、病室には顔を腫らし意識不明の重体となった姉の姿が。明らかにJJの仕業だが、証拠がないため逮捕もできない。

 怒りに震えるルーの姿を見かねたジャッキーは病室を飛び出し、JJの家で彼を殺害する。ジャッキーがJJを殺したと知ったルーは、彼女を助けるために死体を車に乗せて荒野に向かう。しかしその姿を、ルーに一方的な好意を寄せるデイジー(アンナ・バリシニコフ)に目撃されていた。こうしてルーは苦境に落ち込むのだった……。

「なんで?」と見ているうちにスリリングな結末に

 父に反発しつつジム運営を手伝っている無愛想な女と、ボディービル大会優勝を夢見るホームレスの女。2人が出会いレズビアンの関係に陥ったとき、偶然にも周辺がざわめき始める。

 ルーの姉がズタボロに殴られ、見かねたジャッキーが頼まれてもいないのにJJを殺害。この殺し方がえぐい。JJの破壊された顔はショッキング映像だ。

 ジャッキーが殺人を犯したと知ったルーは、彼女をかばうために必死で証拠隠滅工作をはかる。だが当のジャッキーは少しイカれたところがあり、自由奔放に振る舞う。その挙句、殺人など忘れたかのようにラスベガスの大会に出場。その一方で田舎町ではシニアが行動を起こし、次の事件が起きる。

 つまり閉鎖的な町の暴力的な人間関係が負の連鎖となり、これでもかと化学変化の爆発を起こしてドラマが展開していく。次に何が起きるのかとハラハラしているうちに終了。最後まで観客を退屈させないドロドロ劇だ。ベロニカ・トフィウスカによる脚本の勝利とも言えるだろう。

 ルーとジャッキーの裸のラブシーンもある。筆者は男なので女性同士のラブシーンにはエレガントなイメージを抱いているが、この作品の2人はどこか暗い。その暗さが、クセのある女同士の愛憎に不穏な要素を加味している。これもまた本作の魅力と言えるだろう。

 日本でも米国でも閉鎖的な田舎町には、血とエロスの危うさがつきまとうものだ。本作は殴られても夫を見限ることができない女の相互依存や銃器の密輸、殺人事件など無軌道な要素を程よく配置。「なんでこうなるの?」と見ているうちにスリリングな結末に向かう。「人間は愚かなり」と言うしかない。(全国公開中/配給:ハピネットファントム・スタジオ)

(文=森田健司)

エンタメ 新着一覧


フジテレビ「不適切会合」出席の福山雅治が連発した下ネタとそのルーツ…引退した中居正広氏とは“同根”
 フジテレビ第三者委員会認定の「不適切な会合」への参加を報じられ、それを認めた福山雅治(56)は今後どうなるのか、業界内...
2025-08-20 10:58 エンタメ
藤原竜也「全領域異常解決室」映画化の背後にあるフジテレビの“オトナの事情”
 2024年10月期にフジテレビ系列で放送された、藤原竜也(43)主演の連続ドラマ「全領域異常解決室」が、来年26年に映...
2025-08-20 10:58 エンタメ
「世界で一番怖い答え」と「魔法少女山田」には共通する怖さ…“令和のホラーブーム”トレンドとは?
 7月28日、8月4日と2週にわたり「世界で一番怖い答え」(フジテレビ系)の第10弾が放送された。解答者は、一見すると普...
2025-08-19 18:08 エンタメ
福山雅治のフジ「不適切会合」出席が発覚! “男性有力出演者”疑惑浮上もスルーされ続けていたワケ
 元タレント中居正広氏(52)の女性トラブルへの杜撰対応から始まるフジテレビ騒動で、フジの第三者委員会認定の「不適切な会...
2025-08-19 17:03 エンタメ
福山雅治がフジ第三者委「有力番組出演者」と認めた衝撃…NHKの仕事にも波及不可避、ファンは早くも「もうダメかも…」
 お盆明けの日本に“激震”が走った。「女性セブン」は8月18日、歌手で俳優の福山雅治(56)のインタビューを掲載。内容は...
2025-08-19 17:03 エンタメ
"籍抜いた"告白の加藤ローサが元サッカー日本代表・松井大輔と「結婚したくなかった」過去と同居離婚
 17日放送の日本テレビ系「おしゃれクリップ」に出演した女優の加藤ローサ(40)が、サッカー元日本代表の松井大輔氏(44...
2025-08-19 10:58 エンタメ
「あんぱん」のぶ、議員のコネ入社なのに“クビ”の謎。急成長したアキラ君と老けないオトナ達に酔いそう…
 嵩(北村匠海)が書いた詞にたくや(大森元貴)がメロディーをつけて生まれた「手のひらを太陽に」は、「みんなのうた」でも紹...
桧山珠美 2025-08-28 15:06 エンタメ
磯村勇斗「ぼくほし」高評価なのに低空飛行の《不思議》…生徒役にも左右される学園ドラマの厳しい現実
《心があったか~くなる素敵なドラマ》《右肩上がりで好きになってる》と好意的なレビューが増えてきた磯村勇斗(32)主演の連...
2025-08-18 17:03 エンタメ
マツコが股関節亜脱臼でレギュラー番組欠席…原因はやはりインドアでの“自堕落”な「動かない」生活か
 タレントのマツコ・デラックス(52)が8月15日、情報バラエティー番組「5時に夢中!」(TOKYO MX)の5000回...
2025-08-18 17:03 エンタメ
中居正広誕生日8.18にファンクラブサイト閉鎖へ…「のんびりなかい」公式サイトがファンの新たな拠り所に
 きょう8月18日を特別視している一部の人々がいる。元SMAPのリーダー、中居正広氏(53)の熱狂的なファンだ。  X...
2025-08-18 17:03 エンタメ
4児の母となった宮崎あおいの明るい未来…同級生・上戸彩の成功をお手本にイメージ刷新!
 宮崎あおい(39)が第4子を極秘出産していたと、「女性セブン」(8月21・28日号)が報じた。宮崎は来年の「豊臣兄弟!...
2025-08-17 17:03 エンタメ
文春が報じた中居正広「性暴力」の全貌…守秘義務の情報がなぜこうも都合よく漏れるのか?
【週刊誌からみた「ニッポンの後退」】  中居正広が元フジ女性アナに行った「性暴力」の全貌が分かったと週刊文春(8月14...
2025-08-17 17:03 エンタメ
スキャンダル続出の花田優一、美女にモテまくるのは何故? 不誠実男に学ぶ「悪名は無名に勝る」メリット
 元横綱・貴乃花光司と元フジテレビアナ・花田景子を両親に持つ“親の十四光り”の花田優一。  現在、元テレビ東京アナ...
堺屋大地 2025-08-17 11:45 エンタメ
佐藤健は「グラスハート」で主演・企画 俳優プロデュース×配信メディアの強力タッグで“次世代の真田広之”が続々誕生
 佐藤健が主演・企画・共同エグゼクティブプロデューサーを務め、ロックバンド「テンブランク」のメンバーの人間模様を描く、若...
2025-08-16 18:08 エンタメ
ほぼ同期の「ビッグ3」のうち半アマチュアが半世紀現役の驚き
【1975 ~そのときニューミュージックが生まれた】#68  1975年のタモリ③   ◇  ◇  ◇  今回は特...
2025-08-16 17:03 エンタメ
広陵高校問題でアナウンサーの“個人的意見”が物議…会社の見解? コメンテーターとの役割の違いは?
【テレビ局に代わり勝手に「情報開示」】  確かに、広陵高校問題をめぐるアナウンサーの発言が賛否を呼んでいますよね。つい...
2025-08-16 17:03 エンタメ