藤山寛美さんがNGKのオープンに白のスーツで表敬訪問で楽屋が大騒ぎに

更新日:2025-09-20 17:03
投稿日:2025-09-20 17:00

【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#258

 藤山寛美さん(後編)

  ◇  ◇  ◇

 現在のNGK・なんばグランド花月が開業した1987年の11月、道頓堀の中座から、藤山寛美先生が松竹新喜劇の座員一同を引き連れてNGKまで林正之助元会長を表敬訪問されたことがありました。

 上下白のスーツに身を包んだ寛美一行がNGKの正面玄関から列をなして入っていく姿は「藤山寛美、吉本へ討ち入り!」とスポーツ紙や夕刊紙に報じられました。偶然NGKの楽屋にいた私は、姿こそ見ることはできませんでしたが、「寛美先生が来はった!」と楽屋が大騒ぎになったことを覚えています。

 当時は吉本と松竹の芸人は同じテレビに出ない、舞台に立たないという“不文律”がありました。テレビを見ても明らかでしたから、関西人にとっては常識に近い感覚です。

 60~70年代は中田ダイマル・ラケット(70年吉本へ移籍)や、かしまし娘らの人気者が松竹の角座で輝いておられました。一方、吉本でも60年代後半から笑福亭仁鶴を筆頭に、桂三枝(現6代文枝)、横山やすし・西川きよしと次々に人気者が現れ、80年代に巻き起こった「漫才ブーム」で、松竹と吉本が完全に逆転してしまったのかなと思っています。

 私も「こういうものなんだ」と思っていただけでしたが、後日「両社に所属する芸人は共演させない」という協定が90年代まであったことを知りました。それでも芸人同士は道頓堀と梅田・なんばという小さなエリアですから、飲みに行けば偶然会うこともあるし、仲良く杯をくみかわしていたようで、会社に関係なく、私の知る限り良好な関係でした。

 私の吉本新喜劇の師匠で作家の檀上茂先生は「ワシは吉本に入って何年目やったか忘れたけど『松竹新喜劇の勉強してこい』言われて、1年間、吉本から給料もろて、松竹に通てたことがあって、ぎょうさん教えてもうたで」と伺って驚いたことがありました。舞台やテレビでは共演NGでも、水面下では交流があったのです。「せやから、松竹と吉本の新喜劇のメンバーが一緒になって中座で公演するんがワシの夢やな。寛美さんもそんなことを考えてはったんちがうかな……」と語っていました。

 寛美先生の“討ち入り”はそんな松竹・吉本の不文律に切り込んだ出来事でした。あくまで表敬訪問ですから、挨拶だけですが、NGKのオープンを世間に広めたことは確かで、NGKに祝花を出すよりも一番の宣伝になったでしょう。寛美先生は「松竹や吉本やいう枠にとらわれんと一緒に大阪の、上方の喜劇界、演芸界を盛り上げたらよろしいがな」と行動されたのではないかと思っています。

 60歳という若さでこの世を去られましたが、私の年代の関西人にとっては忘れられない名優・藤山寛美。まさに喜劇の王様でした。

(本多正識/漫才作家)

エンタメ 新着一覧


タナケン(生瀬勝久)の決め言葉、「どうだろうね」に込められた真意
 スズ子(趣里)は、不安を抱えたまま喜劇王・タナケン(生瀬勝久)との舞台稽古を続けていた。  なんとかしようと、ス...
桧山珠美 2024-01-22 15:16 エンタメ
ブギウギ新章、タナケン役生瀬勝久の“顔芸”と「3枚の張り紙」が見もの
 小夜(富田望生)が付き人をやめると言って姿を消してから3カ月、愛助(水上恒司)は大学を卒業し、村山興業で働き始める。 ...
桧山珠美 2024-01-17 15:49 エンタメ
5年ぶり「おっさんずラブ」にコレジャナイ感?それでもいいと思うところ
 あの「おっさんずラブ」が5年ぶりに帰ってきました。2018年4月期にスタートした同作は、ピュア過ぎるおっさんたちの恋愛...
小夜(富田望生)の食い意地は国境を越えた!愛か、餌付けされただけか
 復学した愛助(水上恒司)は、スズ子の公演に触発され、いっそう勉学に励んでいた。  そして、公演が再開して以来、ス...
桧山珠美 2024-01-12 16:05 エンタメ
任侠ドラマ出演の高岡蒼佑様…小栗旬&芸能界批判に“かわいいチワワ”か!
 アウトローな役柄などで人気を博していた元俳優の高岡蒼佑。役者引退宣言をしていたものの、今年2月にリリースされる任侠ドラ...
堺屋大地 2024-01-11 06:00 エンタメ
朝ドラ名物の闇市、小夜の食い意地はタダモノじゃねえ!
 戦争が終わって3カ月、世の中の混乱は続き、スズ子(趣里)たちは未だ公演ができずにいた。  愛助(水上恒司)の病状...
桧山珠美 2024-01-09 14:50 エンタメ
歯に衣着せぬ小夜のキャラを生かしたブギウギ流「玉音放送」シーン
 終戦の日。スズ子(趣里)たちは巡業先の富山で玉音放送を聞く。りつ子(菊地凛子)は慰問先の鹿児島で敗戦を知る。  ...
桧山珠美 2024-01-08 15:50 エンタメ
原作は4コマ漫画! 名作“ぎぼむす”のイケメントリオを味わい尽くそう
 新年あけましておめでとうございます。  例年であれば、大晦日は「ジャニーズカウントダウンライブ」で年越しするので...
特攻隊の前で「別れのブルース」、過去の“淡谷のり子物語”と異なる描き方
 1945年、日本の戦況はますます悪くなっていた。富山に慰問に来ているスズ子(趣里)は、女中の静枝(曽我廼家いろは)の話...
桧山珠美 2024-01-05 14:00 エンタメ
制作費の都合?「夜来香ラプソディ」音楽会シーンなしは残念すぎる
 上海の羽鳥善一(草彅剛)は、音楽会の準備を進めていた。羽鳥は、黎錦光(浩歌)が作曲した「夜来香」にブギを取り入れた音楽...
桧山珠美 2024-01-04 17:50 エンタメ
【2023年人気記事】マッチ様は逃げ上手と無責任のプロだった
【「残念プロフェッショナル」の流儀】  2023年も「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大き...
堺屋大地 2024-01-02 11:44 エンタメ
辻希美&杉浦太陽はニベアのCM…仲良しラブラブ芸能人夫婦はお金を生む
 元モーニング娘。のなかで1番の勝ち組は、やっぱり辻ちゃん(辻希美)でしょう。  先日も元モー娘。の中澤裕子、保田...
スズ子と愛助の無償の愛、平和ボケの今とは違って生きるも愛するも命がけ
 東京に戻ったスズ子(趣里)は、空襲で一面ががれきになっている惨状を目の当たりにする。  スズ子が三鷹の家に戻ると...
桧山珠美 2023-12-28 14:10 エンタメ
東京大空襲、愛し合うスズ子と愛助の運命は…金曜放送回を前におさらい
 トミ(小雪)の許しが出て、山下(近藤芳正)が正式に楽団のマネージャーとして加わることになった。  スズ子(趣里)...
桧山珠美 2023-12-27 17:40 エンタメ
コワモテ黒田の起用は大正解! スズ子派に寝返り、顔芸と手振りが秀逸
 結核が再発した愛助(水上恒司)の看病を、三鷹の家で続けることになったスズ子(趣里)は、日々愛助のために身を尽くしていた...
桧山珠美 2023-12-26 15:50 エンタメ