「逃げたら干されるぞ」若手芸人が踏み込んだ“後戻りできない”選択。大金と引き換えに失ったキャリア

おがわん ライター
更新日:2025-10-07 11:45
投稿日:2025-10-07 11:45

仕事なのか、取引なのか

 ギャラは封筒で手渡された。アルバイト数カ月に相当する大金だったが、喜びよりも後味の悪さが勝った。

 その後も依頼は続いた。断る勇気はなかった。業界では「呼ばれて行かない=不義理」という暗黙のルールがあり、信頼を失うことは死活問題だった。

 Bさんは「これは仕事なのか、それとも取引なのか」と葛藤しながらネタを披露し続けた。

広く報じられた「闇営業」問題

 やがて事務所が“闇営業問題”に揺れる時期が訪れる。報じられるたび胸は締めつけられ、「あれは自分のことでもある」と思った。

 過去の依頼が表沙汰になるのではと怯えた夜もあった。結局、30代前半で芸人を辞めた。

「笑いで人を幸せにするはずが、いつの間にか後ろめたさばかりが残った」からだ。

 引退後、Bさんは普通の会社員となり、収入も精神も安定した。それでも芸人時代を思い出すと複雑な感情に襲われる。

 ときに夢を追った日々が誇りに変わることもあれば、後悔に胸を締めつけられることもあるのだという。

「芸人にとって舞台は夢でした。でも裏側では“選択肢がない”という現実があった。断れば干される、受ければ後悔する。その板挟みの中で若手は苦しんでいた」

「笑い」に隠された業界のゆがみ

 芸能界は華やかに見える。しかし裏には「笑い」とはかけ離れた現実がある。Bさんの話を聞くと、それは単なるスキャンダルではなく業界の歪みそのものだと感じる。

「営業に行く芸人を責める人もいる。でも責められるべきは“断れない仕組み”を放置してきた側じゃないかと思います」

 Bさんの言葉は重い。彼のように去った人の声が届くことは少ない。だが、その証言は業界に残る“闇の慣習”を照らす記録だ。

「笑いで食べていきたい」という純粋な思いが、時に危うい世界へと芸人を導いてしまう。夢と現実の狭間で選ばされた選択は、私たちが想像する以上に苦しい。

 表舞台で拍手を浴びる芸人たちの裏側に、こうした現実が潜んでいる。その事実を忘れてはならない。

おがわん
記事一覧
ライター
かつてちょっとだけ芸能の世界に所属。現在は縁あって、雑誌やWebメディアなどでライターとして活動中。エンタメ系から日常ネタまで、気になるあれこれを取材。楽しく読んでもらえる文章を目指して、日々ゆるっと執筆中です。

ライフスタイル 新着一覧


「聞いてよ!」「で、結論は?」せっかち君のLINEはタイパ重視ですって
 世の中には、1秒でも時間を節約したい「超せっかちな人」が存在します。なぜ生き急いでいるのかはわかりませんが、とにかく少...
#1 芸能界に執着する35歳女の密かな楽しみ。裏アカで吐き出す腹黒い本音
「いらっしゃい、シゲさん今日は早いんだね」  阿佐ヶ谷駅の北口の飲み屋街・スターロードにひっそりたたずむ小さなスナ...
#2「普通の女」に負けた美人は怨念まみれのSNSがバズり快感を覚える
【#1のあらすじ】  阿佐ヶ谷のスナックに勤務している紘子は、役者を目指しながらもくすぶっている日々。そんな彼女の...
#3「バカにされてる?」元彼のイヤミがつらい。女が椎名林檎を歌う理由
【#1、#2のあらすじ】  阿佐ヶ谷のスナックに勤務している紘子は、役者を目指しながらもくすぶっている日々。そんな...
「鉛筆なめなめ」「セクハラはやめて」悲しきおじさんビジネス用語3選
 会社に勤めている人なら、50代以上のおじさんたちが「おじさんビジネス用語」を使っているのを聞いたことがあるかもしれませ...
平日夜8時、話題のオーケー銀座店の惣菜コーナーに行き完全敗北した件
 10月17日、東京・銀座3丁目のマロニエゲート銀座2内に「オーケー銀座店」がオープンして話題になっていますね。銀座の一...
あなたにとっての「過去」はいつ? 過去を閉じ込めた空間で
 過去という言葉の意味が広すぎて、思い浮かべるイメージがまったく違うと気づいた。  ある人は自分が小さかった頃を、...
経験は「ナマモノ」…感情も感度も“錆びた大人”になっていませんか
 人生において経験は重要ですよね。これから先の未来や、あるいは後輩たちを助けられるかもしれません。  だけど昔の経験に...
15キロ太ったからつまんないの? “サイズ44”に教えられた自分の本音
 2度の出産と加齢と腰のヘルニアを経て、5年をかけて15キロ太りました。実はそれについては人が思うほどは気にしていない…...
奢り奢られ問題…リュウジ氏にもう港区くるなよ?の反論、私達が学ぶこと
 ネットを大いに騒がせた「奢り奢られ問題」。料理研究家のリュウジ氏のSNS投稿が火種となり、多くの意見が寄せられました。...
「出世したくない人」激増のナゼ 共通する特徴と4つの理由に妙に納得…
 令和の今、社会人の中でも「出世したくない」と考える人が非常に増えているようです。少し前まではどうにかして出世してやろう...
5年に1度の逸材にゃ!ノーブルすぎる“たまたま”に思わず合掌
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
26歳ギャラ飲み女子の貯金額は3000万円!昼はOL、非港区系の堅実生活
 経営者や著名人、人気のインフルエンサーも利用する「ギャラ飲み」なるサービスって知っていますか? 東京都内のみならず、全...
いくつになっても、誰かに褒められるのはやっぱりうれしい
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
ハロウィンの新顔!小粒な「ソラナムパンプキン」は枝にぶら~んぶら~ん
 まもなくハロウィン。猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋さんに、今年も大きなパンプキンが店頭を占拠する季節がやってま...
出産を機に中途半端なキャリアに…今にマッチした働き方は?
 先日X(旧Twitter)で、米ハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディン氏がノーベル経済学賞を受賞したニュースを...