パニック映画ブームの陰でエロチック需要を掘り起こした

更新日:2025-10-08 17:03
投稿日:2025-10-08 17:00

【1975 ~そのときニューミュージックが生まれた】#103

 1975年の映画界

  ◇  ◇  ◇

 今回も特別編で「1975年の映画界」。

 一言でいえば、「パニック映画」大ブームの年だった。超高層ビル火災を描いた「タワーリング・インフェルノ」、大地震を描いたその名も「大地震」。航空事故を描いた「エアポート'75」などなど。

 これらパニック映画のブームは前年74年のヒット作「エクソシスト」(パニック映画というより「オカルト映画」だが)や「日本沈没」「ノストラダムスの大予言」などの流れをくむもの。つまりは73年・オイルショック以降の、不景気、物価高などの社会不安が背景にあったと考えられよう。

 そしてアメリカでは、この年の夏、パニック映画の決定版のような作品が公開されて、日本では翌年に大ヒットするのだ。

 その映画のタイトルは、もちろん「ジョーズ」。

 邦画では「男はつらいよ」がもう国民的映画となっている。お正月映画の「寅次郎子守唄」のマドンナは十朱幸代。夏休み公開の「寅次郎相合い傘」のマドンナは、ご存じ浅丘ルリ子演じるリリーである。

 そんな75年における映画界のホープといえば、何といっても山口百恵だろう。

 三浦友和との共演作であるお正月映画「伊豆の踊子」、春公開「潮騒」に加え、桜田淳子、森昌子との「花の高2トリオ 初恋時代」をヒットさせているのだから、もはや東宝のドル箱スターだったといっていい。

 あとアダルトビデオの影も形もない時代、映画には「エロチック需要」も寄せられていた。

 洋画ではそういう需要を一気に掘り起こした「エマニエル夫人」が大ヒット、邦画では、関根恵子や大竹しのぶのそういうシーンが話題となった「青春の門」が注目される。

 そんな中、専門外ではあるが、私の見た範囲で75年ベスト作品を選ぶなら、7月公開の高倉健主演「新幹線大爆破」を推したい。

 リアルタイムではなく、かなり後に見たのだが、我を忘れて夢中になってしまった。

 タイトルにあるように、これもパニック映画の一種なのだが、オイルショック後というタイミングで、高度経済成長の負の側面もしっかりと描かれていて、パニック、スリル、サスペンスを超える総合的な見応えを感じたのである。

 今年ネットフリックスでリメークされたのだが、天下のネトフリ、天下の尾野真千子をもってしても、75年版とは比べ物にならなかったと言い切ってしまいたい。

■10月28日(火)に「スージー鈴木のレコード研究室」第27回を東京・南青山「BAROOM」にて開催します。今回はサザンオールスターズの傑作2枚組アルバム『KAMAKURA』を「ちゃんと聴くナイト」。チケットのご購入はこちらから!

■好評連載「沢田研二の音楽1980-1985」をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」(日刊現代/講談社)絶賛発売中!

▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。早大政治経済学部卒業後、博報堂に入社。在職中から音楽評論家として活動し、10冊超の著作を発表。2021年、55歳になったのを機に同社を早期退職。主な著書に「中森明菜の音楽1982-1991」「〈きゅんメロ〉の法則」「サブカルサラリーマンになろう」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。最新刊「日本ポップス史 1966-2023: あの音楽家の何がすごかったのか」が11月に発売予定。ラジオDJとしても活躍中。

エンタメ 新着一覧


5年ぶり「おっさんずラブ」にコレジャナイ感?それでもいいと思うところ
 あの「おっさんずラブ」が5年ぶりに帰ってきました。2018年4月期にスタートした同作は、ピュア過ぎるおっさんたちの恋愛...
小夜(富田望生)の食い意地は国境を越えた!愛か、餌付けされただけか
 復学した愛助(水上恒司)は、スズ子の公演に触発され、いっそう勉学に励んでいた。  そして、公演が再開して以来、ス...
桧山珠美 2024-01-12 16:05 エンタメ
任侠ドラマ出演の高岡蒼佑様…小栗旬&芸能界批判に“かわいいチワワ”か!
 アウトローな役柄などで人気を博していた元俳優の高岡蒼佑。役者引退宣言をしていたものの、今年2月にリリースされる任侠ドラ...
堺屋大地 2024-01-11 06:00 エンタメ
朝ドラ名物の闇市、小夜の食い意地はタダモノじゃねえ!
 戦争が終わって3カ月、世の中の混乱は続き、スズ子(趣里)たちは未だ公演ができずにいた。  愛助(水上恒司)の病状...
桧山珠美 2024-01-09 14:50 エンタメ
歯に衣着せぬ小夜のキャラを生かしたブギウギ流「玉音放送」シーン
 終戦の日。スズ子(趣里)たちは巡業先の富山で玉音放送を聞く。りつ子(菊地凛子)は慰問先の鹿児島で敗戦を知る。  ...
桧山珠美 2024-01-08 15:50 エンタメ
原作は4コマ漫画! 名作“ぎぼむす”のイケメントリオを味わい尽くそう
 新年あけましておめでとうございます。  例年であれば、大晦日は「ジャニーズカウントダウンライブ」で年越しするので...
特攻隊の前で「別れのブルース」、過去の“淡谷のり子物語”と異なる描き方
 1945年、日本の戦況はますます悪くなっていた。富山に慰問に来ているスズ子(趣里)は、女中の静枝(曽我廼家いろは)の話...
桧山珠美 2024-01-05 14:00 エンタメ
制作費の都合?「夜来香ラプソディ」音楽会シーンなしは残念すぎる
 上海の羽鳥善一(草彅剛)は、音楽会の準備を進めていた。羽鳥は、黎錦光(浩歌)が作曲した「夜来香」にブギを取り入れた音楽...
桧山珠美 2024-01-04 17:50 エンタメ
【2023年人気記事】マッチ様は逃げ上手と無責任のプロだった
【「残念プロフェッショナル」の流儀】  2023年も「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大き...
堺屋大地 2024-01-02 11:44 エンタメ
辻希美&杉浦太陽はニベアのCM…仲良しラブラブ芸能人夫婦はお金を生む
 元モーニング娘。のなかで1番の勝ち組は、やっぱり辻ちゃん(辻希美)でしょう。  先日も元モー娘。の中澤裕子、保田...
スズ子と愛助の無償の愛、平和ボケの今とは違って生きるも愛するも命がけ
 東京に戻ったスズ子(趣里)は、空襲で一面ががれきになっている惨状を目の当たりにする。  スズ子が三鷹の家に戻ると...
桧山珠美 2023-12-28 14:10 エンタメ
東京大空襲、愛し合うスズ子と愛助の運命は…金曜放送回を前におさらい
 トミ(小雪)の許しが出て、山下(近藤芳正)が正式に楽団のマネージャーとして加わることになった。  スズ子(趣里)...
桧山珠美 2023-12-27 17:40 エンタメ
コワモテ黒田の起用は大正解! スズ子派に寝返り、顔芸と手振りが秀逸
 結核が再発した愛助(水上恒司)の看病を、三鷹の家で続けることになったスズ子(趣里)は、日々愛助のために身を尽くしていた...
桧山珠美 2023-12-26 15:50 エンタメ
藤井風「いちすき」で見せた弾き語りに惚れ惚れ、黒髪に代わってホッ
 21日、木曜劇場「いちばんすきな花」(フジテレビ系)が最終回を迎えました。  昨年、社会現象を巻き起こした目黒蓮...
平野・神宮寺・岸のNumber_iデビュー間近 24年は注目多数の群雄割拠
 滝沢秀明氏創設のTOBEに合流し、本格始動が待たれている元King & Princeの平野紫耀(26)・神宮寺勇太(2...
こじらぶ 2024-02-16 10:40 エンタメ
朝ドラでは珍しい正面からの接吻!愛助ママ(小雪)来襲で“恋の炎”燃ゆる
 愛助(水上恒司)は母・トミ(小雪)に呼び出される。トミからは、スズ子(趣里)に会うのはやめるように言われ、山下(近藤芳...
桧山珠美 2023-12-22 14:40 エンタメ