【火の華】自衛隊の隠蔽問題から飛び出した兵士の苦悩と愚行の物語
【孤独のキネマ】
火の華
◇ ◇ ◇
2016年、北アフリカ南スーダンでPKO活動中の自衛隊が襲撃を受けた。日本政府はこの事実を公表せず、当時の日報を廃棄したと説明。ところがジャーナリスト布施祐仁の情報開示請求によって、日報の電子データが残っていたことが判明した。稲田朋美防衛大臣らが引責辞任した、いわゆる「自衛隊日報隠蔽問題」である。本作「火の華」は小島央大監督がこの隠蔽問題に着想を得てメガホンを取ったフィクション作品だ。
舞台は2016年の南スーダン。2等陸曹の島田東介(山本一賢)は伊藤陸尉(松角洋平)が率いる部隊に所属していた。ある日、部隊は基地の外れで施設隊員を救出する際に、銃を構えた少年兵らに遭遇。古川(原雄次郎)陸曹が平和的に両手を挙げて歩み寄るが、少年兵の発砲で銃撃戦に発展。古川は死亡し、島田は少年兵を射殺する。伊藤は戦場に取り残され、行方不明に。生還した島田らは政府の命令を受けた派遣施設隊長によって厳しい口封じを受ける。
2年後の新潟。島田は後悔の悪夢に支配されていた。自衛隊を辞めた彼は、小さな鉄工所で働きながら危険な武器ビジネスに関与。古川の死の真相を家族に伝えられないことに自責の念を抱いていた。
戦場のトラウマにかられた島田は同僚の工員を暴行したため解雇。鉄工所の社長の紹介を受け、花火工場で働き始める。年下の職人に花火作りを教わり銃の密造から足を洗おうとした島田の前に、行方不明の伊藤が現れる。伊藤は中国マフィアと関係しながら、ある武力行使を計画して島田の心を翻弄するのだった。
国民の生命と財産を守るという使命をおびて入隊したところ、自衛隊は不都合な真実を口止めする隠蔽体質。そのこともあって、島田は子供を殺した悪夢にうなされる。彼らは事実を語ることができない。戦前の日本軍にも戦敗の事実を国民に知られないよう生き残りの兵士を隔離した例がある。同じことが現代でも起きるとの想定のもとに本作のストーリーは成立している。
結末の解釈は…見る人によって様々だろう
人間は弱い生き物だ。戦場で人を殺したこと、あるいは人が殺される光景を目撃したことで、長きにわたってトラウマに苦しめられることになる。あのアジア太平洋戦争から生還した兵士の中には何を体験したのかを明かさないまま死んだ人が少なくない。
筆者は2013年に俳優の菅原文太をインタビューした。話は彼の父親に向かい、菅原は、「親父は戦争で北支(中国)に派兵され、生きて帰ったが、戦場のことは死ぬまで一切語らなかった」と話してくれた。
本作の島田は銃器に精通しているため、機関銃の密造という悪の道にはまり、そこから脱するために花火師の道を選ぶ。だが花火も銃と同じように火薬を使う。打ち上げ花火が爆裂し、頭上に大輪の花を咲かせる光景に彼はPTSDの発作にかられてしまう。銃器の火花は人の命を奪い、花火はその美しさで観客を魅了する。同じ火薬が生み出した化学反応がまったく違う方向に作用するとは皮肉な話である。
島田の苦しみとは別に、伊藤も正常な判断を失ったのか、無謀なテロ行為に走る。終盤の荒唐無稽な展開は1995年3月のオウム真理教による地下鉄サリン事件を思わせる。常軌を逸した人間はわずかな力で国家を転覆できると思い込み、多くの犠牲者を生んだ。伊藤の妄想は麻原彰晃と同根にある。
本作の結末を戦闘と隠蔽に翻弄された人間の苦悩ととらえるか、それともテロリストの愚行への批判と理解するか。見る人によってその解釈の仕方は様々だろう。
ただ、夜空に打ちあがる花火は息をのむ美しさ。銃器をリアルな迫力で描写した戦闘シーンとともに劇場の大画面で見て欲しい。 (文=森田健司)
(10月31日(金)ユーロスペースほか全国順次公開/配給=アニモプロデュース)
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