【五十年目の俺たちの旅】老境に達した男たちの友情が胸に染みる

更新日:2026-01-10 17:03
投稿日:2026-01-10 17:00

【孤独のキネマ】

 五十年目の俺たちの旅

  ◇  ◇  ◇

 カースケ、オメダ、グズ六……1970年代に青春時代を送った人はこの3人の名前に反応するはずだ。テレビドラマ「俺たちの旅」である。ドラマは75年にスタート。その後も10年ごとに特番ドラマが放送された。放送開始から50年を経てついに映画版の登場だ。70代の友情物語である。

 監督は主演の中村雅俊が、脚本はオリジナル版からこのシリーズを手掛ける鎌田敏夫が担当した。鎌田は86歳になる。

 主人公のカースケこと津村浩介(中村)と大学の同級生・神崎隆夫(オメダ、田中健)、カースケの先輩・熊沢伸六(グズ六、秋野太作)はいずれも70代になっている。カースケは東京で町工場を経営。オメダは鳥取県の米子市長を務め、妻の要望で知事選への出馬準備を進めている。グズ六は介護施設の理事長として成功していた。

 ある日、カースケの工場にオメダがやってくる。カースケは従業員たちに「俺の友人を紹介する。じきに知事になる男だ」と話すが、オメダは「やめろ」と怒鳴って帰ってしまう。またも悩みを抱えているらしい。

 それからまもなく、カースケはグズ六から「洋子が生きている」との知らせを受ける。洋子(金沢碧)は彼らと青春を送った女性で、カースケに好意を抱いていたが、すでにこの世にいない。

 カースケとグズ六は洋子が目撃された温泉宿を訪問。洋子と名乗る女性はここで仲居をしているという。女性の部屋を覗くとカースケと洋子の写真が飾られていた。「幽霊じゃないのか」とからかうグズ六を追い返したカースケが部屋に戻ると、女性が帰ってくる。女性は洋子ではなく、オメダの妹真弓(岡田奈々)だった。真弓は精神が不安定で、亡くなった洋子になりすましていたのだ。

 その場に現れたオメダはカースケに「人生、最後になって本当にやりたいことって何か考えたことがあるか」と聞き、「あの家に戻りたい」と打ち明ける。亡き母が暮らしていた神楽坂の家に戻りたいという願望は妻と娘だけでなく、知事になる目標も捨てるという意味だった……。

 劇中にテレビ放送の場面が幾重にも差しはさまれ、懐かしい感動を与えてくれる仕掛けだ。若いころの金沢碧が美しい。彼女の容姿だけでも本作を見る価値がある。

 鎌田はこう語っている。

「俺たちの旅、このドラマを貫いているのは、生きていくことの切なさです。人生の岐路にぶつかった時に、激しく葛藤し、強く反発し、勝手なことを言い合って馬鹿騒ぎしながらも心には相手を思うやさしさがある」

 70年代の本放送からこのドラマにはある特徴があった。男同士の友情がベタベタしているのだ。ときに抱き合い、ときに殴り合い、ときに怒鳴り合う。その中心がカースケだ。この男がオメダとグズ六の生き方、考え方に介入しては説教をたれる。放送当時「カースケがうっとうしい」との声があがったことも。彼の求心力はハエ取り紙のようにベタついていた。

 70代を迎えた今もそのお節介精神は健在で、オメダに意見し、グズ六とともに彼を立ち直らせようとする。オメダは今も逃走願望から脱却できない。男たちは50年経っても同じ立ち位置にいるのだ。「男子、三日会わざれば刮目して見よ」という法則はこのドラマには通用しない。

 問題児のオメダをカースケとグズ六がどうフォローするかが物語の主軸だが、その根底には人の「別れ」が仕込まれている。オメダは妻子と別れて神楽坂に戻ることを望む。カースケは自分を慕っていた洋子との切ない訣別を回想しては恋心をかみしめる。

 死んだ洋子の本心はどのようなものだったのか。本作は駅の伝言板を使ってしっかりと回答を用意している。それは「俺たちの旅」のファンへの爽やかな答え合わせとなるだろう。

 老境に達した男たちは人生の限りある時間を意識し、過去を手繰り寄せる。かつてテレビの前に釘付けになった視聴者は、彼らの姿におのが半生を回想するはずだ。かくいう筆者も若いころの別れを思い返し、哀愁がしんみりと胸に染みてきた。人生には思わぬすれ違いが存在するからだ。見終わったとき、小椋佳の「少しは私に愛を下さい」を聞きたくなった。やはりこの歌は名曲。洋子の寂しさを見事に表現している。(文=森田健司)

(TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー中/配給=NAKACHIKA PICTURES)

エンタメ 新着一覧


これぞロック! YOSHIKIのパクリ騒動、文句を言って何が悪い? “寛容”を強制する世間への反撃
 人気アニメ『ダンダダン』の劇中歌に対して、《何これ、XJAPANに聞こえない?》と自身のX(旧Twitter)に投稿し...
堺屋大地 2025-09-06 11:45 エンタメ
芸人の結婚で“ガチ恋”離れが加速中。非モテ「マユリカ」中谷は救世主となるか
 芸人の結婚ラッシュがやってきている。メイプル超合金・カズレーザーと二階堂ふみの結婚をはじめ、令和ロマン・松井ケムリやは...
帽子田 2025-09-04 11:45 エンタメ
「あんぱん」やなせ氏がいじけてないか心配になる。誕生秘話は史実なの?
 週刊誌の漫画コンクールのページを目にした嵩(北村匠海)は、のぶ(今田美桜)に勧められ、その懸賞に挑戦することに。 ...
桧山珠美 2025-09-03 18:26 エンタメ
福山雅治 騒動で見えた「イケメン」の賞味期限。木村拓哉のプレゼントは許されたのか
『女性セブン』<激震スクープ 福山雅治 女性アナ不適切会合 フジテレビ報告書 独占告白70分>には、驚きました。 ...
吉沢亮が「国宝」級に美しい…隠れた名作5選。伝説級漫画の実写化で見せた“危うい”笑顔にゾクッ
 歴代邦画実写史上第2位となる興行成績を叩き出している『国宝』。このままの勢いで、歴代最高成績さえも残してしまいそうな同...
zash 2025-09-22 13:26 エンタメ
「あんぱん」ヤムおんちゃん登場! “じいさん”呼ばわりがちょっと切ない…。のぶや嵩とはどう再会する?
 ラジオドラマ「やさしいライオン」は、たくさんの人の耳に届いていた。しかし、登美子(松嶋菜々子)の反応が気になる嵩(北村...
桧山珠美 2025-09-01 17:08 エンタメ
【芸能クイズ】山下美月は一級船舶免許。意外と多い“資格取得者”を検索できる事務所は?
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
欅坂46から10年。平手友梨奈らの脱退・卒業、解散危機に改名…櫻坂46はいかに“最高地点”へ辿り着いたのか
 櫻坂46が8月24日、全国ツアー「5th TOUR 2025 “Addiction”」の千秋楽を終えた。愛知、福岡、広...
こじらぶ 2025-08-31 12:22 エンタメ
「あんぱん」羽多子の“夢”はヤムおんちゃんの影響ですか? 予告にチラリと映る姿にも歓喜!
 のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)は引っ越しをして羽多子(江口のりこ)と同居生活を始める。そんな中、電話に出た羽多子が、...
桧山珠美 2025-09-13 11:33 エンタメ
「あんぱん」脚本家が“1番書きたかったこと”に目からウロコ! すべては聡明なお子様のおかげ…
 ある日、嵩(北村匠海)にファンレターをくれた小学生の佳保が、祖父の砂男(浅野和之)と柳井家にやってくる。笑顔で迎えるの...
桧山珠美 2025-08-28 15:25 エンタメ
「あんぱん」八木(妻夫木聡)と蘭子(河合優実)カップル、オトナの視線の絡み合い…朝から見ていいんですか?
 八木(妻夫木聡)のひらめきで嵩(北村匠海)の詩とイラストが入った陶器のグッズは追加注文が来るほど売れていた。それでもも...
桧山珠美 2025-08-28 15:03 エンタメ
坂口健太郎に逆セクハラ騒動。永野芽郁にmiwaとも…BLACKPINK リサだけじゃない“女性に押される”男の特徴
 BLACKPINKのリサ(28)が国境を越えて、大炎上中だ。今年2月にリリースしたソロデビューアルバム『Alter E...
田中麗奈、45歳。心も体も変化するなか、ずっと変わらない“芝居”への気持ち
 多くの人の心をつかんだ「なっちゃん」のCMの初代キャラクターに始まり、映画『がんばっていきまっしょい』『はつ恋』、近年...
望月ふみ 2025-08-24 11:45 エンタメ
『あんぱん』のぶ、山に登って「ボケー!」は“征服欲”の成せる業か? アンパンマンの原型がついに爆誕
 のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)の別居生活が続く中、登美子(松嶋菜々子)から嵩の名前の由来を聞いたのぶは、ひとり山へ向...
桧山珠美 2025-08-28 15:04 エンタメ
ラウール、22歳の色気が破壊級!「愛の、がっこう」は“代表作”になると断言してもいい
 夏ドラマも中盤にさしかかりました。そのなかでも回を重ねるごとに盛り上がっているのが、木曜劇場「愛の、がっこう」(フジテ...
【芸能クイズ】松本人志が福山雅治と「HEY!HEY!HEY!」で作った“オリジナル料理”の名前は?
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...