閑散とした観光地で見かけた 旅行中の男性中年カップルの話

うかみ綾乃 小説家
更新日:2020-04-30 07:03
投稿日:2020-04-29 06:00
 外出自粛が続く中、私の住む奈良でもめっきり観光客の姿を見なくなりました。
 とはいえ、もともと奈良は観光地らしからぬ、のんびりとした土地。宿泊施設数も全国で二番目に少ないので、昼間は大阪や京都から足を伸ばす観光客も夕方になれば去り、町は都の形跡と人々の残滓だけが漂う、雅なゴーストタウンとなります。 
 そんな場所だからこそ、彼らは旅行に来たのかなぁ、と閑散とした町を眺めながら、思い出すふたりがいました。

お揃いのウエストポーチ

 その50代半ばくらいの男性カップルを見かけたのは、二年前の初夏。平城宮跡の草原を走る列車の中でした。夕刻に奈良方面に向かっているので、珍しく奈良に宿泊する旅行客のようです。

 たまたま斜向かいに座った私が彼らをカップルだと思ったのは、空いた車内でぴったりと肩を寄せ合っている様子と、顔立ちも体型も正反対なのに、まとう雰囲気が似ていたからです。

 ひとりは小柄で華奢な体格。少し猫背ぎみに俯いています。ひとりは大柄な太り肉(ふとりじし)で、小山のようなお腹の上で腕を組んでいます。衣服はどちらも地味な色合いの、着古していそうなTシャツとジーンズ。スニーカーも履き潰されたもので、少々汚れが目立っています。お揃いのウエストポーチだけが鮮やかに黄色く、真新しそうでした。
 
 なんとなくふたりを見ていると、小柄な男性がその視線を感じたのか、目だけでちらっと私を見ました。

 ぶしつけだったのかもしれません。すぐに目を逸らそうとしましたが、それよりも早く、彼がまた顔を伏せました。大柄な男性は腕を組んだまま、黙って車窓に目を向けています。

うかみ綾乃
記事一覧
小説家
2011年「窓ごしの欲情」(宝島社文庫)で日本官能文庫大賞新人賞受賞。’12年「蝮の舌」(悦文庫)で第二回団鬼六賞大賞受賞。コラムニスト、映画の原作&脚本家としても活躍中。近著に「蜜味の指」(幻冬舎アウトロー文庫)。2020年から原作映画『モンブランの女』(『モンブランを買う男』AubeBooks)が全国で公開中。
ブログ http://ukamiayano.blog.fc2.com/

ラブ 新着一覧


「対岸の家事」に共感。それでも私が“専業主婦”を選んだ3つの理由
 夫婦共働きが当たり前になってきている今の時代に、あえて専業主婦を選択する女性もいます。セレブならいざ知らず、物価高のご...
恋バナ調査隊 2025-05-29 06:00 ラブ
今すぐ離れて! 自己中男があなたから搾取する6つのこと。お金より大事なものを失うかも
 恋愛は人生を豊かにする要素の1つであるはず。マイナスになるような恋愛はしたくありませんよね。だとしたら、これら6タイプ...
恋バナ調査隊 2025-05-28 06:00 ラブ
なぜ? 親友の夫が襲来…彼女の「裏の顔」に愕然。まさか私が“使われてた”なんて!
 著名人が不倫で活動自粛するというニュースが相次ぐ昨今。そのせいか日常生活で「不倫」という言葉を聞くことが増えたと感じて...
彼とのスキンシップが面倒。性欲が低いのはおかしいですか?(46歳・会社員)
 46歳・会社員の婚活女性です。好きな人が相手でもスキンシップを取るのが面倒くさく感じてしまいます。同世代の元彼とも仲は...
植草美幸 2025-05-26 06:00 ラブ
ぎゃー! 初対面デート、相手がタイプじゃない…どうする? 5つの対処法
 素敵な男性と出会えるチャンスが潜んでいる、マッチングアプリ。マッチングアプリで恋愛成就させる人も増えている一方で、初デ...
恋バナ調査隊 2025-05-26 06:00 ラブ
【男女別】結婚の理想と現実をガチ告白。思ってたんとちがーう!
 あなたは結婚に対してどのような理想を持っているでしょうか? 理想の結婚生活を求めて婚活している人もいるでしょう。  ...
恋バナ調査隊 2025-05-25 06:00 ラブ
「妻は不倫報道のたびにギャーギャーと…」浮気を罪悪感ゼロで繰り返す47歳男性の主張。慰謝料は高い恋愛代?
「冷酷と激情のあいだvol.247〜女性編〜」では、何度も浮気を繰り返す夫・ツヨシさん(仮名)と、離婚をしたくても経済的...
並木まき 2025-05-24 06:00 ラブ
夫の浮気は6回、女性からDMも…芸能人の不倫報道のように「制裁を下したい」と願う40歳主婦の苦しみ
 男女の関係では、交際相手や配偶者の態度に悩む人も少なくありません。愛し合っている男女間でも、価値観や物事の判断には個人...
並木まき 2025-05-24 06:00 ラブ
意外と簡単? 男に「守ってあげたい」と思わせるLINE3選。やっぱりギャップが大事なのね
 男性には庇護欲があるもの。「守ってあげたい」と思った瞬間、相手の女性を意識したり好意を持ったりしがちです。あなたも意中...
恋バナ調査隊 2025-05-24 06:00 ラブ
43歳の既婚男性が“女装”に目覚めたワケ。疑似レズビアンの沼にハマり…#2
 菜々美さん(28歳ホステス/独身)はアフターで連れて行ってもらった「女装バー」で、女装が趣味の直樹さん(43歳エンター...
蒼井凜花 2025-05-23 11:15 ラブ
やらかしたー!「いい女アピール」が完全裏目に… 恋愛ブランディング失敗談4選
 マッチングアプリやSNSなどが普及し、多くの異性と気軽に出会える時代。だからこそ、いい男を見つけた瞬間「他の女に取られ...
恋バナ調査隊 2025-05-23 06:00 ラブ
男性が即OKするデートの誘い方とは? “断られ知らず”アラサー女子の極意
「勇気をふりしぼってデートに誘ったのに断られちゃった」と嘆く女性は少なくありません。その一方で、お誘いに全部OKをもらえ...
内藤みか 2025-05-22 06:00 ラブ
ぽっちゃり女、マチアプでの悲劇。緊張で「寄行」に走った結果、まさか自分が“モンスター”側になるとは…
 世田谷乃たらこと申します。30歳でフリーランス(とは名ばかりのフリーター寄り)ですが、この度婚活を始めることにしました...
返信が遅い=脈ナシは嘘! 好きだからこそ「即レスできない」5つの理由
「好きな人からメッセージが来ると、つい即レスしてしまう」このような女性が多い一方で、なかには「好きだからこそ返信が遅れて...
恋バナ調査隊 2025-05-22 06:00 ラブ
流出したら恥! 不倫カップルのLINEを暴露。「楽園に行きたかった」って悲劇のヒロイン気取るんじゃない
 昨今では、永野芽衣さんと田中圭さんのように、不倫が発覚しようものなら大変な非難に晒される時代。でも、2人の世界に溺れた...
恋バナ調査隊 2025-05-21 06:00 ラブ
なぜ? 離婚しないサレ妻たちの6つのホンネ。許したなんて“フリ”だけです
「男は浮気する生き物だから……」と寛大な心で許す女性なんてひと握り。大半の女性は、許しているフリをしているだけのようです...
恋バナ調査隊 2025-05-20 06:00 ラブ