マンションよりも広々とした玄関、近隣住民との適度な距離感。そしてなにより「ここは私たちのお城」という独特の満足感。
そんな若夫婦の“城”では、ときに、人生につきものの奇妙な事件も起こりうるーー。
戸建て住宅を買ったばかりの若夫婦に起きた、ちょっと奇妙でほろ苦いストーリーとは……?
謎の白い封筒
バタン。
いつものように自宅のポストの扉を開けてみると、今日は郵便物が3通。
不動産を買うときに資料を取り寄せていた仲介会社からのダイレクトメールと、お取り寄せによく使っている農園からのクーポン付きハガキ。そしてもう1通は、いかにも私信といった感じの白い封筒――。
「ん? なんだろう、これ」
この家の主のひとりである咲子は、宛名に夫の名前が書かれている手紙に目を留めた。
咲子は、この家を建てるときに、ポストひとつにもとことんこだわった。海外のインテリア雑誌を何冊も読み、気に入ったポストを個人輸入で取り寄せた。そのお気に入りのポストに、想定外の郵便物が届いたのは今回が初めてだ。
「えっと……。なんで差出人の名前が、イニシャルなんだろう?」
その封筒は、ちょっと厚みがある。おもてには、達筆な文字で夫の名前が丁寧に書かれていた。裏面を見ると、差出人の住所は途中までしか書かれておらず、名前もイニシャル表記になっている。
住所を知る人は少ないはずなのに
(えー。なんだか気持ち悪い。不幸の手紙だったらイヤだなぁ。それにしても、なんで夫宛にこんな奇妙な手紙が届くんだろう。あの人、私に隠れて怪しいことでもしているのかしら……)
インポートのタイル張りになっている自慢の玄関ポーチに立ちすくんだまま、咲子は奇妙な郵便物について、即座に夫にLINEで報告しようとして、やめた。
(ちょっと待った。もしも夫が浮気していたとしたら、少し泳がせないとダメなのかな。ここで手紙のことを話したら、他の証拠を隠しちゃうかもしれないし、これは私がしばらく持っておこう)
咲子たちがここに家を建ててから、まだ1年も経っていない。親しい友人らには、新居を知らせる案内は出しているものの、ここの住所を知る人は少ないはずだ。
それなのに、夫宛に手紙が届いていることが、咲子には不思議で仕方がない。
(これはやっぱり。夫が、怪しいことをしているに違いない!)
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