彼のリストカット姿に体が動かず
ーーそんな……リストカットですか?
「はい……彼Gさん(34歳カメラマン助手/独身)は、キッチンのシンクにもたれ掛かって床に座り、手首にカッターの刃を当てて、スーッ、スーッと切っていたんです。
私は息を呑み、言葉を失いました。
普通なら駆け寄って『やめて! 』とカッターを取りあげるのでしょうが、いざ、その光景を目の当たりにすると、まったく体が動かないんです……。
どれくらい経ったか分かりません。数分だったのか、30分以上だったのかーー。ただ、私の意識は徐々に回復していきました。
彼を観察する余裕も出てきたんです。
彼は間違いなくリストカットをしていましたが、一つ一つの傷は浅いんです。もちろん、血は流れていますが、命にかかわるようなものではありません」
彼が語った子供の頃のつらい記憶
ーーなるほど、続けてください。
「ただ、怖かったのは、彼が、『ちくしょう……ちくしょう』と押し殺すような声で泣きながら、カッターで自分の皮膚を傷つけていることです。手首から上腕に向かって、いくどもいくども……。
きっと、私のミニスカートの件に納得していないんでしょうね。
その怒りや嫉妬、やるせなさが、自分を傷つけることに向かっているのだと感じました。
いくぶんか落ち着くと、私は彼に歩み寄りました。
彼は相変わらずカッターで手首を切っていましたが、私があえて普通に『……心配だから、ちょっと話そうか』と言うと、彼は無言のままカッターを床に置いたんです。
そして、『言いたいこと、全部私に言ってほしいな。なんでもいいから……二人で話し合おうよ』と、ゆったりとした口調で伝えたんです。
すると、『ごめんな……こういう風にしか生きれなくて』とひとこと。
私は彼を抱きしめました。
『大丈夫だよ。私がついているから。ずっと味方だから』と言うと、彼はポツリ、ポツリと話し始めました。
以前も話したように、彼には二つ上のお兄さんがいます。
子供の頃から優秀で、有名医大を卒業し、今は医師をしているお兄さんです。
そんな優秀な兄と比較されるたび、Gさんは心を痛め、一人でクローゼットにこもって、顔の頬骨を殴っていたそうです」
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