不安が襲ってくる
――聞いていてドキドキしっぱなしでした。続けてください。
「このようなプレイは週に2、3度続いたでしょうか。疑似セックスの時はこの上なく幸せで、彼に愛されている実感はありましたが、LINE通話を切ると、すぐさま不安が襲ってくるんです。本当に離婚してくれるの? という不安です。
奥さまとは離婚の話はついているとのことですが、直前になって、息子さんへの愛情に傾いてしまったら…。そんな恐怖と常に背中合わせだったんです。
彼のことをひたすら待つ苦しい時間が過ぎました。略奪婚を目論んだ際、決して自分から『離婚に向かって順調にいってるの?』と聞かないと決めたので、自分から彼をせっつくようなマネは一切しません。
人間、せっつかれては反発心が湧いてきますからね。そして、決して奥さまの悪口を言わないことも、ルールに入れました。
ひたすら『正樹さんを信じてる』『今日もLINE通話の時間をとってくれてありがとう』『お仕事頑張って』とポジティブな言葉を伝えました。
東北の実家では、母の看病という名目ですから、さほど奇異な目では見られなかったことも救われました。父とは相変わらずぎこちない関係ですが、以前の電話で、私が父に対してのこれまでの不満と怒りをぶちまけたことで、少しだけ反省したようで…(笑)。
ついに離婚が成立
約束の2年まで、あと2カ月という時、彼から連絡が入ったんです。
――無事、離婚が成立した。千鶴のご両親に挨拶がしたい。
この報告を聞いた時、私はスマホを握りしめて、その場に崩れ落ちてしまいました。嬉し涙がこみ上げて、どのように返答したか覚えていません。
それからは、大忙しです。仏頂面の父に正樹さんは頭を下げて、
――千鶴さんと結婚させてください。
と言ってくれて…。そんな正樹さんに父は『財産目当てじゃないだろうな』とか『因果応報という言葉がある。不倫で結ばれた夫婦は、同じ目に遭って別れる可能性がある』など、失礼極まりない言葉を浴びせかけましたが、正樹さんは、
――財産目当てなど一切ありません。
――不倫で結ばれても、僕は一生、千鶴さんを大切にします。
とキッパリ告げ、何とか結婚を認めてもらったんです。北陸に住む正樹さんのご両親にも挨拶をして、結婚式は無し。婚姻届けは、大安の日に区役所に届けました。
私が休職していたイベンド会社は辞め、現在は専業主婦に徹しています。内縁の妻だった2年は不安でいっぱいでしたが、振り返ってみると、彼を必要以上に追い詰めなかったり、奥さまの悪口を言わなかったり、セックスを含めて『彼に居心地よく過ごしてもらう』というささやかな積み重ねが、略奪婚の成功に繋がったんじゃないかと思えます。
略奪婚というよりも、『純粋に不倫愛を貫いた』ともいえるでしょうか」
千鶴さんは幸せそうに微笑んだ。
今は妊活に向けて、体調管理をしているそうだ。今回の取材を通して、不倫から略奪婚に至る確率はどのくらいなのかと、ふと考えた。2年ならば短い期間だろうが、千鶴さんが味わった苦しみや不安は想像を絶する。
そう遠くないうちに、家族3人で笑い合うことを願って、筆者は千鶴さんを見送った。
(了)
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