母としての自信はある。女としては…
女がのんびりしているところに慶士がやってくる。カンタや莉奈は、すぐに「パパー」「なんでいるの?」などと言って駆け寄るだろう。彼はその時どんな顔を見せるのか。私は偶然を装って何も気にしないふりをする。
夫のことだから、女は無視して、私と、子供を選ぶだろう。妻として、母として自信がある。…女としての自信はないけれど。
「そういえば莉奈、置いて来ちゃった…」
カンタが流れるプールの中でひとり遊んでいることを確認して、私はパラソルに戻った。
女は再びサングラスをかけ、寝ころんでいる。莉奈はカンタの残していったジュースをおとなしくひとり、飲んでいた。
「ママー」
「ゴメンね、ひとりにさせちゃって」
「うん、だいじょうぶ。ねえママ、一緒にあそぼう」
莉奈は私の手を小さな手でぎゅっと握る。平気そうな顔をして相当不安だったようだ。あの女は気になるが、ひとまずこの子を楽しませてあげたい、そう思った。
自分が今、行おうとしている行動は正しいのか正しくないのかわからないけど、子供たちにはいつまでも笑顔でいて欲しい。
私の一番はこの子たちなのだから。
彼は本当に大阪にいる?
「わかった。ちょっと待っていてね」
防水のスマホケースを手に取ると、慶士からのLINEに気づいた。大阪万博のキャラクターのぬいぐるみの写真と共に『莉奈よろこぶかな?』とメッセージが入っていた。
『よろこぶんじゃない? あと、551も買ってきて』
『おけ。カンタ好きだからな。戻るのは明日の夜だけど、いい?』
ためらいなど感じさせない、スムーズなやりとり。彼は本当に大阪にいるようだった。
「ママー?」
莉奈は私に似たかわいらしい顔を斜めに傾げた。エルゴの中でスヤスヤ寝ている下の子を胸に、彼女の手をひいて、子供用プールに向かった。
結局、このプールに来た意味はなかったようだ。
燦燦照りの空の下。これからの時間は、私は子供の夏の思い出作りに自らを尽くそうと、気持ちを母親に切り替えた。
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