私と正反対な容姿の彼女。話しかけた反応は…
「カンタ、だめだよ。そこ、隣の人の」
「え、そうなの?」
息子はすぐに立ち上がった。女は無反応だった。気づいているのかいないのか…。
しかし、サングラスの奥はもしかしたら目が開いていて、私たちの謝罪を待っているのかもしれない――そう思うと、ふっと背筋が冷える。
無視するのは簡単なことだ。だが万が一、彼女が私のことを彼の妻だと知った時や気づいた時、“浮気されても当然な、性格悪い礼儀なし女”だと思われるのは癪だった。
「…すみませーーん」
私は、軽さを装いながらも声を震わせて、女に呼びかけた。
「私のことですか?」
女は一旦周囲をきょろきょろ見回して、サングラスを外した。どうやら息子の無礼に気づいていなかったようだ。
――しまった。なら声かけなきゃよかった。
「ええと。そちらのサンベッドに息子が座ってしまったようで。本当にすみません。ヤンチャ盛りなので…」
しどろもどろの私を、女はじっと私を見ている。
長いまつげ、すこし垂れた大きい瞳。いわゆるタヌキ顔のかわいらしい雰囲気。女優であれば清純派と言われて相応しい、そんな容姿。
私と正反対な容姿なのが意外だった。そういうものなのだろうか。
ゾッとする女の視線。これから地獄を見るはず
とにかく私は、息子の頭を掴み、そのまま押し下げた。
「ほら、謝りなさい」
「ごめんなさーい、お姉さん」
息子はそれだけ言って、逃げるようにプールへ入って行ってしまった。私は乳児を抱いて、彼を追いかけた。
「ちょっとお、カンタ!!!」
早足で息子を追いながら、正直、逃げてくれてよかったと安堵する。――あの女の視線が怖かったから。
ちゃんと謝罪したのに、彼女は突き刺すような瞳で私を見ていた。あの反応なら、カンタが座ったことなど、気づいていなかったはず。
――「気にしてませんよ」くらい、言ってくれればいいのに。
まあいい。これから、彼女は修羅場で地獄を見る。
その時が来るまで、私は女へのヘイトをためる。ためにためまくる。時が来たら、こころゆくまでスッキリしたいから。
私のシナリオではこうだ。
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