不思議な魅力の女――亜理紗に芽生えたある感情
「そうなんですね、お疲れでしょう」
「ええ…毎日ゆっくり眠れてなくて」
彼女には、どこか声に包容力があった。
不思議だ。夫と浮気している女なのになんでこんなに話すことができるんだろう。同じ男を知っているという安心感なのか…それはそれで密かに私の心を解放させていた。
――あの人も、こんなふうにいろいろな私の愚痴を吐いているのだろうか。
女は、うん、うん、と聞いてくれているだけだったけど、私の心は癒されていた。匂わせようとか、既婚女性としてマウントをとろうとか、話し始めた時に生じていた下衆な感情は、どこかに消え失せている。
女は、日が暮れるまで、ひとりでいた。
プールに入ったのを見たのも最後だけ。結局、何のためにいたのかは、考えないでおこうと思った。
ひとしきりのたわごとに付き合ってもらった後、私はお礼代わりに彼女のインスタの投稿にハートマークをつけた。
辿れば正体がバレてしまう可能性もある。あの人の妻であると。
でも、別にいい。むしろ、そうなってもいい。
あの人には、もっとふさわしいいい人がいるはずなのだ。
存在証明。あなたが入り込んだ夫の世界は、彼の広い世界のたった一部分にすぎないことを、教えてあげるという優しさだ。
その日、彼女とミセスを歌う夢を見た
その夜、女の投稿を見ると、彼女の行きつけらしい居酒屋で、バカ騒ぎをしているリールをあげていた。
常連らしい若者と、ミセスを熱唱している。とても楽しそうだ。私もその中に入りたいと思うほどに。
――私も、夫に出会わなければ、こんな今があったのかな。
私の隣では3人の子供がスヤスヤと眠っている。羨望でも憐みでもない、ただの傍観。そんなことを考えていたら、いつのまにか夢の中にいた。
そこでは、私とあの子が、カラオケで一緒にミセスを歌っていた。夏によく耳にするあの歌を。
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