伊吹吾郎さんは「謙虚・誠実・実直」を絵に描いたようなステキな俳優だった
【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#269
伊吹吾郎さん
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「水戸黄門」の格さんでおなじみだった伊吹吾郎さん。謙虚・誠実・実直を絵に描いたようなステキな方でした。
丁重な挨拶のあとの第一声は「フリートークって緊張してしまうんですよね」。吸い込まれそうなキラキラした瞳をまっすぐに向けて苦笑されて、打ち合わせ早々、額の汗をハンカチで拭っておられた姿が人柄を表していらっしゃいました。
伊吹さんが初主役の、人気劇画原作の時代劇「無用ノ介」の大ファンだったと告げると「そんな時から見てくださってるんですか? うれしいな!」と、大きな目を一段と見開いて照れ笑いをされながら喜んでいらしたのが今でも印象に残っています。
打ち合わせを終えると、番組中で披露する趣味のフラメンコギターの練習を始めました。私からすればとても上手に感じるのですが「違うな、緊張して指の動きが悪いんですよ。もう一回いいですか? ……う~ん、まいったな」と納得がいかない表情で「もう一回だけ!」とまた演奏をされました。ちょっと困った顔で「お時間とらせてすいません。本番で失敗したらごめんなさいね」と本当に申し訳なさそうに言われる謙虚すぎる姿に一層ファンになりました。
本番を終えると「うまくしゃべれなかったですね。申し訳ない!」と頭を下げられ、「ギターも何カ所か間違えて、やり直そうかと思ったんですけど、そのままいっちゃいました。お恥ずかしい! こちらも申し訳ない!」と頭を下げられるので、「とんでもありません。ギターは素晴らしかったですし、お話も良かったです!」と返すと、「いやいや、もっとしっかりしゃべらないとダメです」と反省しきり。「でもうれしいことを言ってくださる。ありがとうございました。また機会がありましたらお会いしましょう!」と固い握手をして帰って行かれました。
お仕事について「レギュラーでも単発でも、その一回一回は二度と帰ってこない一回ですからね。気持ち込めてやらせていただいています」とおっしゃっていました。ひとつひとつの作品、役柄への謙虚で真摯な姿勢、スタッフへの心遣いがひしひしと伝わってきて、本当に気持ちのいい忘れられない収録になりました。
NSCの最後の授業で「どんなスターもひとりではなにもできない」ことを伝えていますが、伊吹さんはまさに実践されているお手本でした。「好漢・伊吹吾郎」は今でもとてもいい思い出として残っています。
(本多正識/漫才作家)
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