【殺し屋のプロット】記憶喪失と闘うヒットマンが息子の犯罪に奔走
【孤独のキネマ】
殺し屋のプロット
(kino cinéma新宿ほか全国公開中)
◇ ◇ ◇
引退する殺し屋といえばリーアム・ニーソンのおはこだが、この男も負けてはいない。本作「殺しのプロット」のマイケル・キートンだ。記憶喪失と闘うヒットマンを重厚に演じている。
殺し屋のジョン・ノックス(キートン)は神経科の医師からクロイツフェルト・ヤコブ病だと診断される。医師は病気の進行が速く、数週間ですべての記憶を失うと告知。病気を知りながらノックスは殺しの任務にあたるが、意識が混濁したためターゲットの他に無関係な女と相棒のマンシー(レイ・マッキノン)までも誤って殺してしまう。
失意のノックスを訪ねてきたのが十数年ぶりに顔を見る息子のマイルズ(ジェームズ・マースデン)だった。マイルスは父の秘密の職業を知っていて、「助けてくれ」と涙ながらに懇願。16歳の娘を妊娠させた男パーマーともみあいになり刺殺してしまったと告げる。
一方、男女3人の殺人事件を追う警察は監視カメラの映像からノックスにたどり着くが、彼を殺人に結びつける証拠はない。まもなくイカリ刑事(スージー・ナカムラ)率いる捜査チームのもとにパーマー殺害の報せが入る。
翌日、ノックスは長い友情で結ばれてきたゼイヴィア(アル・パチーノ)を訪ね、ある協力を依頼するのだった……。
父は人を殺す裏家業、息子は娘思いで短気な市民。2人は長らく音信不通だったが、ピンチに陥った息子は父を頼る。「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず」のたとえもあるように、父は息子の要望を聞き入れる。
ところがスクリーンに映し出される父の行動は何をやっているのかさっぱりわからない。もしかしたら息子を不利に追い込んでいるのではと、観客が首をひねっているうちにストーリーは着々と進んでいく。同時にノックスの記憶喪失も粛々と悪化。まさに時間との勝負。意識がはっきりしている間に計画をやり遂げられるのか。そのカギを握るのがアル・パチーノ演じるゼイヴィアというわけだ。安っぽい殺し屋映画と違い、ミステリアスな演出が波状攻撃を仕掛けてくるため、上映時間115分はあっという間に終わる。
ノックスは記憶障害と戦いながら、3つの問題に直面する。息子の犯罪と警察の捜査、そして娼婦アニー(ヨアンナ・クーリク)の行動だ。まさに八方ふさがり。アニーの存在は映画のストーリーに直接関わりはないが、人間の浅はかさを皮肉に提示した。そういう意味で細部にまで気を配った脚本と言える。地味ながら、彼女の存在は大きい。
本作を見て改めて発見したのがマイケル・キートンの顔演技だ。同じ絶望感を表すのでも、殺しでミスったときと息子の過ちを知ったとき、アニーの本性を知ったときでは顔に差し込む憂いの陰が微妙に違う。「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)あたりからキートンが演技派だという認識はあったが、本作はさらに進化。頬や目じりの筋肉をわずかにずらす〝静かなる顔演技〟はお見事だ。
ちなみに原題は「Knox Goes Away」。「殺しのプロット」という邦題に、なんだか古臭いなぁと苦笑したが、見終えるとストーリーとバッチリ合っていると納得した。
記憶喪失に怯える冷徹な殺し屋はわが身の終活をどう締めくくるのか。意表を突いたラストの余韻を味わって欲しい。(配給:キノフィルムズ)
(文=森田健司)
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