言わぬが仏、秘すれば花
【vol.12】
夏休みをアフリカ大陸で満喫中のわたしに、ひろしからひたすら1日に最低3回は電話がかかってきます。「なんでアフリカにおんねや」と聞かれたら彼氏に会いに来たとは言えず答えに窮してしまうので、出国前はシンガポールで取材と伝えていました。
シンガポールと日本の時差は1時間、わたしが滞在していたアフリカの一国と日本との時差はマイナス9時間で、寝る前にひろしが電話をかけて来た場合、こちらの午後で、ひろしの仕事が終わった頃の午後5時あたりはちょうどこちらが起きた頃。ストレスフリーで相手ができて、このスムースさに、これまた運命かもと思ったものです。
秘密の渡航バケーションの場合、まだステディスタディではないけれどちょっと気になる意中の方がアクティブタイムのときに、こちらが深夜3時とかであれば我が“カスタマーサービスセンター”は完全クローズドになるので、なんの申し開きもできず「え、もしかして日本にいないのか。本命と旅行中か」などと信頼をなくし問い詰められた上、罵倒されることで自爆するパターンが多い気がします。でも女子ってなんでも相手にすべて伝えることが花と思っていない上、我々の美徳としては、“言わぬが仏”、“秘すれば花”文化ですからね。仏と花の百花繚乱騙し騙されシーソーゲームなわけです(正当化)。
からの……!
なんだかおかしいと思ったんですよ。バケーションからの帰国日を聞いてくる人、帰国日の時間を聞いてくる人(あわよくば今夜いけるかもステータス)はいましたが、帰国便の出発地、トランジット、時間を詳細に聞いてくる人は、81歳のひろしがはじめてでした。とはいえ、年長者にありがちな、すべての事柄を紙にメモっておいて行動を把握して安心、みたいなことだとわたしは思っていたのですが……。
「なかなか帰ってこんけ、迎えに来たったわ」
たとえば、大人数の野外アクティビティなどで、参加人数の出席票を紙で作ってアナログにチェックするメンバーのせいで受付を配置せざるを得なくなるBBQとか、トラベラーズチェック(遺物)のすべての番号を書き控えて同じ封筒に入れておく、とかそんなノリだと思っていたわけです。なんなら、根掘りん葉堀りんなところが、意外にかわいいな、とまで思っていました。
ところが、トランジットのシンガポールに到着したゲートに、
ひろしが!!!
いたのです!!!!!
「なかなか帰ってこんけ、迎えに来たったわ」
なんとひろしは羽田→シンガポール→羽田という往復14時間のお迎えに来てくれたのです……。びっくりするより先に、わたしスッピン! 化粧したい、完璧に会いたかったのに! どうしよう! 逃げ場がない! と軽いパニック。ひろしに会う前は美容院に行くわたしなのに、今は小汚いバックパッカーそのもの。嬉しいけど、綺麗にしたい、一晩空港で過ごしてお風呂も入ってないし、混乱、思考停止、もうよく分からないけど、ひろしがHND出発ゲートにスタスタ歩いて行くので、着いていきます(デジャブ)。
はぐれないように。
「ドン引き」と「度肝」の違い
度肝を抜く、というのは、なかなか悪くないアプローチなのでは、と思います。“バカ”と“天才”は紙一重と古来より申しますが、“ドン引き”と“度肝”は語感こそ似ていますが、ドン引きされると起死回生不可能です。その違いは実にシンプル。
中途半端にしない、ということです。
事前通告なしで羽田空港に来られたらドン引きですが、アフリカから帰国するためのトランジットがシンガポールだから“シンガポールで取材”とわたしはひろしに言いつつ、半分本当(シンガポールから東京の出発時間と便名は本当)、半分嘘(アフリカからトランジットでシンガポールに到着する時間はいわない)というシチュエーションで、ひろしが東京までの帰国便に合わせてゲートまで来ちゃったら、ゲシュタルト崩壊からの混乱、からの愛している♥になっちゃうわけです。
だって、こんなひろしに対応できるほどのCPUはわたし装備してないんだもん。やっぱり初デートで割り勘されたとか、ドライブデートでガソリン代請求されたとか、既婚者のくせに3軒目で口説いてきたとか(これは3軒行くオマエが悪い)、チンケなドン引きエピソードなどには事欠きませんが、男も女も意中の相手に対して度肝を抜く、くらいまでやり切れば、面白いことに実際相手はあなたについてきます。
情報処理能力が追いつかないので、一旦保留、様子見。からの、気になる、あれはなんだったのだろう、こんなにあの人のことを考えているわたし、もしかしてわたしあの人のこと好きなのかな……?
え、ウソ、ウソ!! ヤダーーーー! だけど好きフェーズに勝手に入ってしまうのです。
再び、ひろし宅に…
さて羽田空港に着き、真逆の自宅(築地)まで送ってもらうのが悪いので、
「ありがとうございました。どうされますか?」と聞くと、
「お前は黙ってわしについて来たらええ」と車に乗り込み、再び、ひろし宅に搬入完了!?
それから2週間はお家に帰らせてもらえず(朝から仕事、17時から夕食マストで帰宅)という日々で洋服を取りに帰るイトマもなく、ホルターネックのサマードレスや短パン、常夏の布を巻きつける系ファッションなわたしに後輩の女子は、
「なんで毎日トロピカルなんすか? もう秋っすよwww」
と嘲笑。こうして始まった、ひろしとの同棲生活は目まぐるしい修羅場の連続でした。
次回(5/17更新予定)に続きます。
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