「エルピス」は濡れ場も妥協せず!ドラマは視聴者を選ぶ時代

コクハク編集部
更新日:2022-12-02 13:28
投稿日:2022-12-02 06:00

川口春奈主演「silent」はバズりまくっている

目が離せない(C)日刊ゲンダイ
目が離せない (C)日刊ゲンダイ

 クライマックスに向け、10月期ドラマが次々と佳境を迎える中、ネットニュースひとつとっても、かつてほど視聴率が重視されなくなっている。

 たとえば、川口春奈(27)主演のフジテレビ系連続ドラマ「silent」はテレビを見ない若い世代にウケて、TVerで過去に配信された民放全ドラマの歴代最高記録を塗り替えたことが話題に。番組公式ツイッターは第1話放送終了後、フォロワー数が6万人以上増加し、第8話の放送終了時点でフォロワーは60万人超。テレビ視聴に頼らずとも“数字”は取れている。

ドラマ好きを唸らせるニッチな作品

 TVコラムニストの桧山珠美氏は、最近のドラマの傾向をこう分析する。

「いまのテレビ局が若い世代のテレビ離れを自力で解消・解決するのは難しいでしょう。むしろ、SNSでバズって“外野”が盛り上がれば、後日TVerなどで見てもらえる機会が増えます。最近は豪華制作陣とキャストを揃えるも、一般ウケしない作品が増えている印象ですが、それはリアルタイムの視聴率を意識しすぎない自由な発想でドラマが作れる環境になったとも言えますね。バズらせるためにドラマ好きを唸らせるニッチな作品を増やすことで、若い世代にも受け入れられるチャンスが広がります」

ミステリー兼コメディー兼ラブストーリー…?

親の七光り、いらず(C)日刊ゲンダイ
親の七光り、いらず (C)日刊ゲンダイ

 前クール(7月期)は、日本テレビ系の連続ドラマ「初恋の悪魔」がそうだった。

 坂元裕二氏のオリジナル脚本で、主演は林遣都(31)と仲野太賀(29)。脇は松岡茉優(27)、柄本佑(35)、伊藤英明(47)、安田顕(48)など演技派が固め、捜査権のない4人の男女が真実を追い求めるミステリー兼コメディー兼ラブストーリーと何とも言い難い内容が注目された。

 ストーリーの複雑さにネットでは離脱表明する視聴者も多く、視聴率は初回6.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)をピークに低空飛行の一途をたどったが、「ドラママニアや業界の評価は高かった」(桧山珠美氏)という。

 今期でいえば、フジテレビ系連続ドラマ「エルピスー希望、あるいは災いー」(関テレ制作)やテレビ朝日系連続ドラマ「ジャパニーズスタイル」も、視聴者を選ぶ作品といえる。

賛否両論を呼ぶ 長澤まさみ主演「エルピス」

毎回楽しみ(C)日刊ゲンダイ
毎回楽しみ (C)日刊ゲンダイ

「エルピス」は長澤まさみ(35)演じるエースの座から転落したアナウンサーが、若手ディレクターを演じる眞栄田郷敦(22)らと冤罪事件の真相究明をしていく社会派エンターテインメントだ。

 長澤の元恋人役に鈴木亮平(39)を起用し、脚本家に渡辺あや氏、演出に大根仁氏などを揃え、見応えのある骨太なドラマを生み出している。しかし、犯罪被害者や冤罪死刑囚の命にかかわるテーマだけに賛否両論の意見が飛び交う。

濃厚かつ生々しいベッドシーン

 長澤は鈴木と濃厚なベッドシーンを展開している。その一夜はテレビ報道の現実に直面し、心も体も疲弊する主人公の張りつめていた糸が“絶望”によって途切れ、一時の快楽に逃げる生身の人間らしさを感じさせた。だが、以降のキスシーンやバックハグなど、いずれも多くの視聴者の想像を超えるリアルで生々しい演技と演出で描かれるため、ツイッターが“祭り”状態になるのだ。

「ジャパニーズスタイル」は30分間ノンストップの長回し

 撮影手法が独特な「ジャパニーズスタイル」は、ほぼ本番一発の30分間ノンストップの長回し。スタジオには観客も入れ、視聴者は舞台を見ている感覚になる。

 温泉旅館の出戻りの跡継ぎを主演の仲野が、支配人に要潤(41)、仲居頭に檀れい(51)、従業員に柄本明(74)などベテラン俳優陣がアドリブを交えながら展開するシチュエーションコメディ。舞台好きなら楽しめても、基本、場面展開もなく、置いてけぼりをくらったりする。

 前出の桧山珠美氏が言う。

「視聴者ウケを狙わず、作り手の主張を全開とした芸術作品が増えてきたのは、もはや視聴率の時代ではないから。そもそもドラマは、テレビ局の営業的にいえば視聴率が悪くても内容に倫理的な問題でもない限り、スポンサーがおりることはありません。バラエティーよりも番組制作の自由度は高いともいえます。

 さらにテレビ局は収益のためにドラマだけでとどまらせずに、映画化を目指したい。2次使用を意識できる制作陣とキャストを起用し、ニッチなファンがついた作品づくりを意識しています。今後もこの傾向は進むと見ています」

 ドラマも新時代の到来だ。

コクハク編集部
記事一覧
コクハクの記事を日々更新するアラサー&アラフォー男女。XInstagram のフォローよろしくお願いします!

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


トラコ入学、伊藤沙莉は表情筋を自由に操る女優…男装の山田よねにも注目
 昭和7年。晴れて「明律大学女子部法科」に入学した寅子(伊藤沙莉)のクラスには女子の憧れの的の華族令嬢・桜川涼子(桜井ユ...
桧山珠美 2024-04-08 18:38 エンタメ
“お騒がせ”青井実アナが心機一転、なにわ男子の道枝駿佑と似てるって⁉
 世の中の人がNHKに持つイメージといいますと、「真面目」「お堅い」「地味」といったところでしょうか。  そんな中...
逃げ恥の百合ちゃん役が“頭のいい女は頭の悪いふりをするしかない”発言
 穂高(小林薫)に出くわしたことで女子部への出願が母・はる(石田ゆり子)にばれてしまった寅子(伊藤沙莉)。  娘に...
桧山珠美 2024-04-05 15:30 エンタメ
「虎に翼」語りは尾野真千子 NHKアナと俳優のナレーションの違いは?
 寅子(伊藤沙莉)がお見合いに苦戦する中、親友の花江(森田望智)は寅子の兄・直道(上川周作)との結婚準備を順調に進めてい...
桧山珠美 2024-04-05 15:14 エンタメ
「虎に翼」シン・朝ドラの予感!わずか1話、たった15分で心つかんだ描写
 昭和6年・東京。女学校に通う猪爪寅子(伊藤沙莉)は父・直言(岡部たかし)、母・はる(石田ゆり子)から次々とお見合いを勧...
桧山珠美 2024-04-01 22:28 エンタメ
僥倖!世界に挑む赤西仁ほど「サムライマック」のCM向きな俳優はいない
 マクドナルドのCMにイケメンあり!  そんな声をちらほら耳にするようになりました。たとえば4月2日から全国放送さ...
平野らTOBEがドーム公演大成功の一方、暗雲立ち込める旧ジャニの逆転は
 3月14日から17日にかけて、滝沢秀明氏創設のTOBE所属アーティストによる東京ドーム公演「to HEROes ~TO...
こじらぶ 2024-03-30 06:00 エンタメ
ブギウギ最終回、水を差すようでスンマセン! 残念すぎる4つの演出と描写
 スズ子(趣里)のさよならコンサートが始まる。客席には懐かしい多くの面々がかけつけている。茨田りつ子(菊地凛子)、愛子(...
桧山珠美 2024-03-30 11:41 エンタメ
スズ子引退会見、“天敵の文屋”鮫島の「シャッポを脱ぐ」演出を読む
 歌手・福来スズ子(趣里)の引退会見の当日。スズ子は結局、羽鳥善一(草彅剛)とは話ができないまま会見に臨むことになってし...
桧山珠美 2024-03-27 14:30 エンタメ
超鈍感力! 羽鳥の絶縁宣言を屁とも思わないスズ子とタケシは似た者同士
 歌手引退――。スズ子(趣里)はその決断を、愛子(このか)や大野(木野花)に伝えた。  羽鳥善一(草彅剛)に絶縁す...
桧山珠美 2024-03-26 15:40 エンタメ
「GTOリバイバル」注目の新人イケメンは?松嶋菜々子は本当に出るのか
 反町隆史主演「GTO」が26年ぶりに帰ってきます。反町演じる元ヤン教師・鬼塚英吉がさまざまな問題を解決する学園モノで、...
ドヤ顔のアユミとヘイヘイブギー歌唱シーン温存の理由がわかる回だった
 昭和31年、大みそか。第7回オールスター男女歌合戦当日。スズ子(趣里)は、楽しみに会場へと向かう。スズ子が楽屋で支度を...
桧山珠美 2024-03-22 14:30 エンタメ
最終回秒読み…スズ子はブレずにお人よし、NHKと沼袋勉の手腕いかに!?
 愛子(このか)は、翌日の体育の時間に足の早い転校生と競争することになっていた。しかし、勝てる見込みがなく、愛子は学校を...
桧山珠美 2024-03-21 16:07 エンタメ
和田勉が転生したら中村倫也に!? 強烈インパクトで霞んだ礼子娘の初登場
 東京ブギウギのヒットから9年、ブギブームも下火になってきつつある中、スズ子(趣里)や羽鳥善一(草彅剛)のブギは古いとい...
桧山珠美 2024-03-18 14:30 エンタメ
「光る君へ」主人公バージン喪失!大石静氏が描く平安エロ&バイオレンス
 NHK大河ドラマ「光る君へ」は、平安中期の貴族社会を舞台に、吉高由里子演じる主人公のまひろ(紫式部)の生涯を描くもので...
沢尻エリカ不死鳥の如く女優復帰!大衆は真似できぬ人生転落リアルショー
 2月25日、沢尻エリカの女優復帰作となった主演舞台『欲望という名の電車』が千秋楽を迎えました。  「『残念プロフ...
堺屋大地 2024-03-16 06:00 エンタメ