ベルトコンベアーに乗せられたい❤️
【vol.14】
オフィスに迎えに来た車に乗り込むと、一路、羽田空港へ。
そのまま日本航空のグランドホステスさんに案内されラウンジに向かうと、ひろしがど真ん中で大股を広げて、鎮座していました。
「おう、来たか。思ったよりも早かったな。お前はいっつも遅いけんのう」
それは時間設定にいつも無理があるから……とは言えず、
「よかったぁ! どこに行くんですか?」
「京都や」
「京都でなにがあるんですか?」
「来たらわかる」
と一事が万事この調子ですが、なにも決めなくていい、なにも考えなくていい、なにもしなくていい、といったライン作業で完成される"ヤマザキパン"や"玉子屋"のお弁当になった気分で、ベルトコンベアー的デートが大好きなわたしは、ホクホクと着いていきます。
ラウンジを出たら移動車に乗せられ、気づいたら滑走路のど真ん中へ。なにかの間違いじゃ……と思いながら車を降りると目の前にヘリコプター。
アリストテレスは通用しない
「さっさと乗れ」
「え、ヘリで行くんですか?」
「お前の予定に合わせたったんや。新幹線で京都行くなら3時間はかかるやろ」
ひろしはわたしが相当な無理をしながら、ひろしの要望を聞き続けていたことを知っていたのです。でも自分の要望や意思は絶対に、なにがなんでも曲げたくない(ヲイ)。わたしが無理をしてひろしに合わせてさえいれば、ふたりは幸せ、少なくともひろしはなんの努力もしなくていい。
よく津々浦々の恋愛指南ではお互いの歩み寄りが大切、相手を変えようと思ってはダメ、自分が変わらなくては、などと中庸であれ的な解決策が叫ばれていますが、もちろん、ひろしには通じません。
だって変わる必要も変える意思もないから。女の愚痴も聞きたくないし、要望にも答えたくない。ただ気づいてはいるから、ひろしがどうするかというと……。
カネで解決できるものはすべてカネで解決する
上空から“H”と見えたヘリポートに降り立ち、向かった先は先斗町。細い路地をくねくねと縫って到着した先は、お茶屋でした。そこには4人の舞妓さん、しかもいずれもメディアに登場したことのある精鋭揃いの方々で、美貌はもちろんのこと、含蓄も人気も高く、一堂に揃えるというのは至難の技だったはず。
ひろしは開口一番、
「こいつ働きすぎで疲れとるらしいけ、話を聞いてやってくれや」
とわたしを舞妓さんに紹介しました。一気に女子会モードになった我々。一見様お断りの先斗町一のお茶屋さんで、なにをいわずとも"謝礼を弾むからヨロシク"という無言の圧力と威厳で、ひろしは顔なじみの舞妓さんたちにわたしのガス抜きを"頼んだ"のです。これが噂の……。
アウトソーシング!!!!!
お前の愚痴は聞きたくないけど、まあゆうても心配やけ、王様の耳はロバの耳ホールを用意してやったわ、ってことなんですね、ひろしさん……。
きゃっきゃっきゃっきゃと舞妓さんとわたしはビールを片手に大盛り上がり。
「えー、かっこいいです。出版社で連日徹夜なんて」
「そんな激務でこんなかっこいいなんて、ドルチェさんにしかできないですよ」
「凛とされていて、あ、だから姿勢も綺麗なんですね、やっぱり!」
「いろんな人にお会いになっているから、こんなに洗練されているんですね!」
「うーん、ドルチェさんが愛している人の言う通りにして幸せなら、そのままでいいと思います!」
「わたしは恋人によって自分を変えたくないから、自分を変えなくてはいけないような相手とは難しいと思うんです」
「それほど誰かを好きになれる人って、とことん行くべきだと思うけど!」
「仕事の方が大事だから、仕事に支障をきたすような人は無理かな、わたし」
「えー、自分が変わるしかないと思う! 愛があれば変われるもの」
これらすべて舞妓さんの言葉なのですが、もう、男性の気持ちがわかる! うん、毎日来たい! うん! 全財産失っても惜しくない! 口と+αで男性をいい気分にさせるスキルが高すぎて、さすが勉強になります。パーフェクトな口の使い方だと思います。
舞妓さんのアドバイスでリフレッシュ
そして後半に向かうにつれて、どんどんみんなタメ語に……。嬉しい。マジでリアル女子会だわ。
日夜、手練手管のお客様の相手をし、生き馬の目を抜く京都でトップを走り続けている舞妓さんのナマのアドバイスは、シンプルだけど愛に溢れていて最高のリフレッシュになりました。
明日からまた徹夜で大丈夫な気分、ひろしのための人生で全然オッケー❤️ひろしのためならなんでも言うこと聞いちゃうもんね! なんてなノリです。
よくよく詳細を聞くと、ひろしはいつものごとく、なじみのお茶屋さんに今夜行くよと伝えただけ、あとはそのまま来たらしく、そこらへんの事情というのは、もちろん女将さんはひろしには無粋に聞かないし、秘して語らず。ですが、新参者のわたしに聞こえるか聞こえないかの声でひろしの耳元に「〇〇様(ひろしの名字)のいつものお部屋で4人席を用意させていただいたのですが、おふたりだったのですね」と囁いていたので、これが京都の洗礼か、という"ぶぶ漬け"的メッセージを個人的にわたしは受け取りました。この察せよ文化。
「ほんまに〇〇はんは。こないなワガママを聞いてあげるんは、いまんわてどすえ」
普通の人ならきっと「申し訳ない。今日だけ多めに見てよ」とか「ごめん、ごめん、今度埋め合わせをするから」と少しは申し訳ながると思うのですが、例によってひろしは一向に気にしません(ブレない)。しかし、“いけず”な気持ちになっていた女将さんが「まぁ……」と喜びで嘆息するほどの金額を現金で支払い、京都での夜を後にしたのです。
わたしは庶民でひたすら恐縮しきりでしたが、その夜のわたしは幸せな気分で世界一の幸せ者だと、いつも以上に愛して愛し合った夜でした。
そしてこの時のわたしはまだ知りませんでした。イギリスの小説家、サマセット・モームがいった、最も永く続く愛は決して愛し返されぬことであるということを。そしてそれが真実であったことを。
次回(5/31更新予定)に続きます。
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