すいかばかのレシピ~'23年<2>月夜の畑ですいかの苗を愛でる

Koji Takano フォトグラファー
更新日:2023-06-20 06:00
投稿日:2023-06-20 06:00
 すいかの生産量は全国ワーストの山梨県で、こだわりのすいかを作る男がいる。ひとは彼のことを「すいかばか」と呼ぶ――。

初夏の白州

 5月。ゴールデンウィークも終わり、観光客やアウトドアを楽しむ人々で少し賑わいを見せた白州も落ち着きを取り戻す。

 初夏を思わせる気温の高い日もある。そして、畑に張られたビニールのトンネルの中には苗が植えられていた。

 気温の高い日があるとはいえ、夜になれば気温は1桁になり、日によって0度近くまで落ちることもある。

 昼夜の寒暖差はすいか作りに重要な要素だが、今年は土の温度がなかなか上がってこない。

夕食後、すいかばかの日課

「今夜あたりは霜が降りるかもしれないなぁ」

 寿風土(ことぶきふうど)ファームを営むすいかばかこと小林栄一さん(57)の自宅。

 夕飯を取ると、奥さんはその日の作業記録を日誌に克明に記し、そして、すいかばかは昨年の日誌と付き合わせる。

畑と苗の相性を吟味する

 どの畑のどの畝(うね)にどの品種の苗を植えるか――。

 収穫時期が少しずつずれるように考えながらノートに計画を書き込んでいく。

 時折り頭をかきながら鉛筆を走らせては消しゴムをかける。その合間にふと頭を上げると、外の方に目をやり、先の言葉が出てくるのだ。

 月明かりの夜。青白く光るビニールハウス。静謐な冷たい空気。かすかに聞こえる釜無川の音。幻想的ともいえる青白く光るビニールハウスの海を、一筋のライトがゆらゆらと揺れている。

 トンネルの中の苗の状態を確かめながら、昼間は風の通りをよくするため上げていたトンネルの端を下ろしていく。天気予報などによっては少しでも気になれば、真夜中でも畑を見に行く。

 すいかの季節が終わるまで気が休まることは無い。

ロマンチストな男

「月の明るい夜の畑は、綺麗なんですよ」

 防寒着を着込んでヘッドランプを頭に乗せて、月夜に輝きうねる海のような畑を振り返る。

 いつもより少し低いトーンの語り口は、昼間の顔とは違って見える。そもそもロマンチストでなければ、すいかに夢を追いかけるばかは生まれないだろう。

そよ風を待つばかり

 これからすいかは蔦(つた)を伸ばしていく。実を付ける体力を養わせるため、苦労して張ったビニールのトンネルを取り外す。

 そのあとは、そよ風が吹いてくれるのを待つばかりだ。

「寿風土ファーム」
address:山梨県北杜市白州町台ヶ原615
営10時~17時

Koji Takano
記事一覧
フォトグラファー
1963年神奈川県横須賀市生まれ。日芸写真学科卒業後、外国航路の船乗りとして世界を股にかけ、出版社勤務を経て、現在はフリーのフォトグラファーとして活動。近著は写真集「東京の風に漂う」(銀河出版)。
http://www.kojitakano.com/

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


夜明けとともに起きだしたコハクチョウの胸の内
「あ~! 眠いけど、きょうも1日がんばるかあ!」  なんて言ってたりして。今朝の自分のことだけど(笑)。  ...
バカにしてる、よね? 部下になめられる理由と上司が改めたい悪癖3つ
 キャリアアップはうれしいけれど、部下ができると「なんだかなめられている気がする…上司としての威厳がないのかな?」と新し...
そのあえぎ声、どこまでが本当ですか?
 素朴な疑問、と頭に付ければ何を聞いても許されるとは思っていないのだが、失礼を承知で、どうしても聞きたいことがある。 ...
いつだって癒しを提供…成長が楽しみな“たまたま”を愛でる
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
お正月にしめ縄って必要かぃ?「しめ縄」と「しめ縄飾り」の違いも解説
 今年もあと2週間を切りました。年末だというのにあまりの暖冬、ここ数日は少しは寒くなったものの更年期のワタクシは、本職の...
「女は見た目がすべて」の思い出に悶々…容姿いじりのトラウマの克服法
「女は見た目がすべて」なんて言葉が昔からあるように、男性よりも女性の方が外見を厳しく見られる傾向です。そして残酷なことに...
落ち込んだらシーラカンスのことを考えるといいかもしれない
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
人生初のぎっくり腰なぜ発症? 40女の激痛を救った意外なコスメは…
 齢46、人生初のぎっくり腰になりました。腰が砕け、身動きがまったく取れない状態に陥るって本当にあるんですね。  デス...
韓国は「ひとり飯」ほぼタブー! おひとり様=みじめな人認定で苦労した
 ちまたでは『孤独のグルメ』(テレビ東京系)や『ひねくれ女のボッチ飯』(テレビ東京系)、『めんつゆひとり飯』(BS松竹東...
2023-12-19 06:00 ライフスタイル
“たまたま”とももうすぐお別れ…去勢前のおやつシーンを激写
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
自然の石を積んだ石垣でできた江戸時代から続く「棚田の村」
 見知らぬ土地で、山道を越えて現れた見事な石垣に圧倒される。ここまで積み上げる労力を想像すると途方に暮れるし、これが自然...
妙齢って何歳? 三省堂 現代新国語辞典のいまっぽい凡例に注目
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
#3 結婚で“輪”から去る友人への寂しさ。心地よい独身生活で失ったもの
【#2のあらすじ】  ミュージシャンの沙恵は高円寺に暮らし、毎晩芸人の卵や音楽仲間と飲み歩いている。高円寺はうんざ...
#2 友達の結婚、喜べないのはなぜ? 勝ち組を裏切りだと感じてしまう記憶
【#1のあらすじ】  ミュージシャンの沙恵は高円寺に暮らし、芸人の卵や音楽仲間と毎日飲み歩いている。高円寺はうんざ...
「最終的には学歴!」すごいですねー(棒)高学歴義母のマウントLINE3選
 義母が高学歴だとなんとなく上品でスマートな人柄が連想されますが、現実では学歴の高さと人格は比例しないようです。実際には...
2023-12-16 06:00 ライフスタイル
#1 夢を諦めきれない32歳の女。高円寺で燻る芸人らと酒に溺れる日々
 この街は、まるでネバーランドだ。  いつもの店に行くと、いつもの仲間がいて、相変わらずのバカな話で盛り上がれる。...