万太郎と徳永(田中哲司)の名シーン、別れも「万葉集」で心ぴたり

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2023-09-19 16:57
投稿日:2023-09-19 16:50

NHK朝ドラ「らんまん」~第25週「ムラサキカタバミ」#122

 万太郎(神木隆之介)は徳永(田中哲司)に辞表を提出。植物学教室を去る日、佑一郎(中村蒼)が大学へやってくる。翌年度から教授となるのだ。

 それぞれ別の道を行く万太郎と佑一郎だが、目指す場所は同じだと確認しあう。

 そして、時代は明治から大正へ。万太郎と寿恵子(浜辺美波)の娘・千歳(遠藤さくら)と虎鉄(濱田龍臣)が結婚する。

【本日のツボ】

「この雪の 消(け)残る時に いざ行かな」(徳永)

 ※※以下、ネタバレあります※※

 紀州・熊野で採集したツチトリモチの図譜や神社の森のフローラを持参して、徳永に面談。

 徳永の言いつけを守り、南方熊楠とは一切会わずに帰ってきたと説明する万太郎に、「お前がこれを発刊すれば世間の目にどう映るか。言ったはずだ、もうかばえないと」と詰め寄る徳永。

「残念だが今学期限りで…」と話す徳永の言葉を待たず、「辞表」を差し出す万太郎。

「これまでお世話になりました。ツチトリモチがいた森は年明けには伐採が始まります。私は明日以降、『日本植物誌図譜』と、そして紀州・熊野のフローラを各所へ送り始めます。これは大学には関わりはありません。私、ひとりの行動です」と。

 そんな万太郎に徳永は「本当にいいのか? 合祀令から目を背ければいい。植物学者として働きたいなら、今は満州がある。大陸の大地…」と引き留めるが、それを遮るように「私は、もう決めました。大変、お世話になりました。私に声を掛けていただき、ありがとうございました。このご恩は一生忘れません」。

「万葉集」を再び引用

 立ち去ろうとする万太郎の背中に、「この雪の 消(け)残る時に いざ行かな」と語りかける徳永。

 ドアを見たまま、「山橘(やまたちばな)の 実の照るも見む」と万太郎。

 少し微笑んだようにも見える徳永は、ツチトリモチの図譜を手に取り、「よく描けている。こんな植物画、お前だけだ」と万太郎に投げかけ、万太郎も徳永の方を向き直して、深く頭を下げました。

 ふたりの距離が縮まった「万葉集」が別れの場面で再び登場。またもや泣かされてしまいました。いいシーンです。

【おまけのツボ】

十徳長屋

 千歳役の遠藤さくらは乃木坂46だそうで、乃木坂46が歌っているのを見たら、つい“千歳”を探してしまう今日この頃です。

 ところで、虎鉄と千歳は結婚後もやはり十徳長屋に住むと思われますが、そこで気になるのが、十徳長屋のことです。

 前回の放送で、りん(安藤玉恵)から2代目差配人を襲名した千歳ですが、りんもいなくなって、気がつけばここには槙野ファミリーしか住んでいないような……。

 なにやら「パラサイト 半地下の家族」を思い出してしまいました。

桧山珠美
記事一覧
TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。読売新聞「アンテナ」、放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


寅子の同級生・崔香淑が「香子ちゃん」として出現!気になるのは…
 家事審判所と少年審判所の合併の話し合いはまったく進展しない。しかし多岐川(滝藤賢一)には今一つやる気が感じられない。 ...
桧山珠美 2024-06-12 16:00 エンタメ
渡部建を“腫れ物”扱いするテレビは古い! めちゃ美味しい“食材”なのに
 2020年6月に複数の女性との不倫スキャンダルが勃発し、活動自粛していたアンジャッシュ・渡部建。活動再開後、徐々にメデ...
堺屋大地 2024-06-12 06:00 エンタメ
太陽とシスコムーンとの共通点にザワッ Z世代に人気のIS:SUEがたまらん
 6月7日、太陽とシスコムーンの楽曲がサブスク解禁され、40代を中心としたお祭り状態になっていましたね。懐かしすぎて私も...
よねと轟の新「相棒」爆誕!男と女“くっつく思考”に冷や水を浴びせた
 花岡(岩田剛典)が違法である闇市の食べものを一切拒否して栄養失調で亡くなったと聞き、衝撃を受ける寅子(伊藤沙莉)。花岡...
桧山珠美 2024-06-10 16:20 エンタメ
“マッチ先輩”近藤真彦がうたコン降臨!ヤンチャ返上?謙虚な発言に驚き
 4日放送のNHK「うたコン」は「作曲家 筒美京平特集」。尾崎紀世彦「また逢う日まで」、太田裕美「木綿のハンカチーフ」、...
花岡死す「栄養失調で死亡」見出しの衝撃…“甘党男子”桂場は和洋イケる口
 穂高(小林薫)は法の道へ導いて不幸にしたと寅子(伊藤沙莉)に謝罪し、新しい仕事を紹介すると言い出す。しかし寅子はむしろ...
桧山珠美 2024-06-07 15:30 エンタメ
公園ランチの約束は叶うのか? 花岡の“しょんぼり言動”が不穏すぎる
 ホーナー(ブレイク・クロフォード)から子供たちにとチョコレートをもらった寅子(伊藤沙莉)は、公園で花岡(岩田剛典)に再...
桧山珠美 2024-06-06 17:00 エンタメ
いよいよ裁判官編。NHK制作陣の遊び心、8時14分過ぎに見たり
 昭和22年3月。新しい日本の憲法に希望を見出した寅子(伊藤沙莉)が向かったのは法曹会館。そこには空襲で被害を受けた司法...
桧山珠美 2024-06-03 16:05 エンタメ
「虎に翼」お宝物件!三山凌輝はピアスにアクセジャラジャラの“チャラ”男
 先週のNHK朝ドラ「虎に翼」第9週「男は度胸、女は愛嬌?」は、ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)にとって、悲しみの連続でした。...
刮目!伊藤沙莉“静”の演技、「佐田優三 仲野太賀」表示も期待は泡沫に…
 これまでの後悔と秘密をすべて打ち明けて、直言(岡部たかし)は安らかに亡くなった。  寅子(伊藤沙莉)は何事もなか...
桧山珠美 2024-05-30 19:10 エンタメ
古谷徹は“あの役”降板?声優不倫騒動の後始末、カギは「キャラの私物化」
 レジェンド声優・古谷徹(70)の不倫報道が世間を騒がせている。 『文春オンライン』よって報じられた37歳年下女性...
優三も草葉の陰で苦笑い? 前代未聞な別れの“懺悔”は直言らしい名場面に
 直言(岡部たかし)は栄養失調と肺炎でもう長くはないと診断される。直言が大事なことを隠していたと知った寅子(伊藤沙莉)の...
桧山珠美 2024-05-30 18:50 エンタメ
「見るんじゃない」と直言。ダチョウ倶楽部の“押すなよ、押すなよ”を彷彿
 直言(岡部たかし)の体調が優れない。寅子(伊藤沙莉)と直明(三山凌輝)はマッチ製造の仕事を紹介してもらい、はる(石田ゆ...
桧山珠美 2024-05-28 15:30 エンタメ
視聴率苦戦だから失敗に物申す!山下智久と錦戸亮、5年ぶり民放作の意義
 山下智久(39)が主演を務める「ブルーモーメント」(フジテレビ系)、錦戸亮(39)がキーマンとして出演する「Re:リベ...
こじらぶ 2024-05-25 06:00 エンタメ
「おいしいものは一緒に」出征前の河原デート。はて?初回を思い出すと…
 寅子(伊藤沙莉)は訪ねてきた後輩の小泉(福室莉音)から、女子部が閉鎖されることになったと知らされる。  今年は高...
桧山珠美 2024-05-24 15:30 エンタメ
優三の優しさシャワー全開!寅子のゴロゴロ床入り作戦も大成功だった神回
 昭和17年3月。直言(岡部たかし)の工場は軍からの注文が途切れず、順調に稼働を続けていた。戦時下で食べ物が貴重になる中...
桧山珠美 2024-05-21 15:30 エンタメ