最終回Wエンディングの妙、そして万太郎の「お前誰じゃ」が意味するもの

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2023-09-30 15:03
投稿日:2023-09-30 12:03

NHK朝ドラ「らんまん」~最終週「スエコザサ」130話(最終話)

 春、竹雄(志尊淳)と綾(佐久間由衣)が新酒を持って槙野家にやってくる。寿恵子(浜辺美波)、虎鉄(濱田龍臣)、千歳(遠藤さくら)、千鶴(本田望結)ら家族みんなで綾と竹雄の酒を味わいながら、楽しい時間を過ごす。

 そして季節は夏に。3206種を載せた図鑑がついに完成。最後のページを飾ったのは「スエコザサ」。万太郎(神木隆之介)が見つけた新種のササに寿恵子の名を刻んだ。

 寿恵子への感謝と永遠の愛を誓って……。

【本日のツボ】

「輝く峰と書いて、輝峰」(竹雄と綾が作り上げた新酒の名)

 ※※以下、ネタバレあります※※

 半年間見続けて本当によかった、そう思わせてくれる最終話でした。全編通して素晴らしかったのは言うまでもないですが、最終週のラストランの駆け抜けていく感じは、お見事でした。

 月曜、万太郎と寿恵子のいない昭和33年から始まり、そこで、語りの宮﨑あおいが、万太郎の標本を整理するためにやってきた藤平紀子だとわかります。

 つまり、この物語は、藤平が万太郎の日記と標本をもとに、その行動記録を振り返るかたちで進められていたことが明かされました。

 万太郎の祖母タキを演じた松坂慶子が、時代を超えて千鶴役として再登場。はちきんのタキとは違い、ほんわかムードの千鶴。病を得て、医師に「この手でひ孫を抱きたい」と訴えていたタキ。ひ孫を抱くどころか、自身がひ孫に生まれ変わるとは、望外の喜びでしょう。

 あの病弱だった万太郎が、子だくさんで、長命だったということ、一番喜んでいるのは、間違いなくタキではないか、と。

酒蔵の跡取り息子で下戸の万太郎も呑めた

 そして、水、木、金曜と、図鑑完成に向けて一気に進んでいきます。万太郎に頼まれ、図鑑づくりに協力するかたちで、懐かしい顔ぶれが集まりました。

 春、竹雄と綾が新酒を持ってやってきます。

 その名も輝峰。輝く峰の月で「輝峰」。万太郎と寿恵子、子どもたちもみなで酌み交わす新酒、さぞやおいしかったことでしょう。

 酒蔵の跡取り息子で下戸だった万太郎も呑める酒が完成したのはなにより。“新酒”と“新種”がかかっていた? かどうかはわかりません。

 完成間近の原稿を見て、「よう頑張ったのう」と万太郎をねぎらう竹雄。子どもの頃から万太郎を支え続けてきた竹雄の言葉には、感慨深いものがあります。

「愛しちゅう。ワシらずっと一緒じゃ」

 ラスト。寿恵子と万太郎が2人の世界に。完成した図鑑を寿恵子に見せ、一緒に頁をめくります。

「牡丹」、「ひめすみれ」……。寿恵子が好きな花、ひめすみれは幼くして亡くなった園子の想い出の花。そこにフラッシュバックのように回想シーンが入ります。

「らんまんですね」

「らんまんじゃ」

 そして、最後の頁の「スエコザサ」。これは万太郎から寿恵子へのラブレターにほかなりません。

「私の名前? じゃあ私、万ちゃんと永久にいれるんですね」

「寿恵ちゃんはワシの命綱じゃ」

「万ちゃんこそ、私のお日様でした」

 ここにまたもや、2人のこれまでの回想シーン、ですが、涙でよく見えませんでした。

「でも約束ね。私がいなくなったら。いつまでも泣いてちゃダメですからね。草花にまた会いにいってね。そしたら、私もそこにいますから。草花と一緒に。私もそこで待ってますから」

 寿恵子が最後の力を振り絞るように万太郎に語りかけます。

「愛しちゅう。ワシらずっと一緒じゃ……」

 全米ならぬ、全日が泣いた! のではないでしょうか。

桧山珠美
記事一覧
TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

エンタメ 新着一覧


『あんぱん』お色気や国民的アニメの時代、のぶの行為に子供は喜べるのだろうか
 のぶ(今田美桜)は八木(妻夫木聡)の会社で子どもたちに『あんぱんまん』の読み聞かせをすることに。だが、子どもたちは興味...
桧山珠美 2025-09-13 11:30 エンタメ
『あんぱん』あれっ、今“あんぱんまん”って言った? 開始2分で誕生。嵩の創作の苦悩が見たい
 嵩(北村匠海)は再び“おじさんあんぱんまん”の絵を描き始め、物語はほぼ完成する。原画を見つめながら、嵩の話に耳を傾ける...
桧山珠美 2025-09-13 11:35 エンタメ
【芸能クイズ】伊東市長で話題の東洋大学、フワちゃんは卒業済み。では同大学出身“ではない”有名人は?
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
中島裕翔がJUMP電撃卒業。退社か残留か…山下智久、赤西仁、中島健人らの活動から“今後”を考察する
 8月28日、STARTO ENTERTAINMENT(旧ジャニーズ事務所/以下、SE社)は、Hey! Say! JUM...
こじらぶ 2025-09-07 11:45 エンタメ
『あんぱん』手嶋治虫をも魅了するのぶ、魔性の女では? ヤムおんちゃん「老けたな」が届かない若々しい美貌
 蘭子(河合優実)が柳井家に草吉(阿部サダヲ)を連れてくる。久々の再会に大喜びののぶ(今田美桜)たち。そのころ、手嶌(眞...
桧山珠美 2025-09-06 12:30 エンタメ
これぞロック! YOSHIKIのパクリ騒動、文句を言って何が悪い? “寛容”を強制する世間への反撃
 人気アニメ『ダンダダン』の劇中歌に対して、《何これ、XJAPANに聞こえない?》と自身のX(旧Twitter)に投稿し...
堺屋大地 2025-09-06 11:45 エンタメ
芸人の結婚で“ガチ恋”離れが加速中。非モテ「マユリカ」中谷は救世主となるか
 芸人の結婚ラッシュがやってきている。メイプル超合金・カズレーザーと二階堂ふみの結婚をはじめ、令和ロマン・松井ケムリやは...
帽子田 2025-09-04 11:45 エンタメ
「あんぱん」やなせ氏がいじけてないか心配になる。誕生秘話は史実なの?
 週刊誌の漫画コンクールのページを目にした嵩(北村匠海)は、のぶ(今田美桜)に勧められ、その懸賞に挑戦することに。 ...
桧山珠美 2025-09-03 18:26 エンタメ
福山雅治 騒動で見えた「イケメン」の賞味期限。木村拓哉のプレゼントは許されたのか
『女性セブン』<激震スクープ 福山雅治 女性アナ不適切会合 フジテレビ報告書 独占告白70分>には、驚きました。 ...
吉沢亮が「国宝」級に美しい…隠れた名作5選。伝説級漫画の実写化で見せた“危うい”笑顔にゾクッ
 歴代邦画実写史上第2位となる興行成績を叩き出している『国宝』。このままの勢いで、歴代最高成績さえも残してしまいそうな同...
zash 2025-09-22 13:26 エンタメ
「あんぱん」ヤムおんちゃん登場! “じいさん”呼ばわりがちょっと切ない…。のぶや嵩とはどう再会する?
 ラジオドラマ「やさしいライオン」は、たくさんの人の耳に届いていた。しかし、登美子(松嶋菜々子)の反応が気になる嵩(北村...
桧山珠美 2025-09-01 17:08 エンタメ
【芸能クイズ】山下美月は一級船舶免許。意外と多い“資格取得者”を検索できる事務所は?
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
欅坂46から10年。平手友梨奈らの脱退・卒業、解散危機に改名…櫻坂46はいかに“最高地点”へ辿り着いたのか
 櫻坂46が8月24日、全国ツアー「5th TOUR 2025 “Addiction”」の千秋楽を終えた。愛知、福岡、広...
こじらぶ 2025-08-31 12:22 エンタメ
「あんぱん」羽多子の“夢”はヤムおんちゃんの影響ですか? 予告にチラリと映る姿にも歓喜!
 のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)は引っ越しをして羽多子(江口のりこ)と同居生活を始める。そんな中、電話に出た羽多子が、...
桧山珠美 2025-09-13 11:33 エンタメ
「あんぱん」脚本家が“1番書きたかったこと”に目からウロコ! すべては聡明なお子様のおかげ…
 ある日、嵩(北村匠海)にファンレターをくれた小学生の佳保が、祖父の砂男(浅野和之)と柳井家にやってくる。笑顔で迎えるの...
桧山珠美 2025-08-28 15:25 エンタメ
「あんぱん」八木(妻夫木聡)と蘭子(河合優実)カップル、オトナの視線の絡み合い…朝から見ていいんですか?
 八木(妻夫木聡)のひらめきで嵩(北村匠海)の詩とイラストが入った陶器のグッズは追加注文が来るほど売れていた。それでもも...
桧山珠美 2025-08-28 15:03 エンタメ