#2「普通の女」に負けた美人は怨念まみれのSNSがバズり快感を覚える

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2023-10-21 06:00
投稿日:2023-10-21 06:00

【阿佐ヶ谷の女#2】

#1のあらすじ】

 阿佐ヶ谷のスナックに勤務している紘子は、役者を目指しながらもくすぶっている日々。そんな彼女のストレス発散方法は、かつて所属していた人気劇団「芝居衆団パプリカ色素」の悪口を、匿名で投稿することであった。

  ◇  ◇  ◇

青椒ロンリネス@*chinjao_loneliness*

配信でパプリカの本公演視聴。

ま、可もなく不可もなく。結局、今どきの若者らしいワードセンスが、おじさんたちにとって珍しく見えてるだけでしょ。若者って言ってもみんな30過ぎじゃん。パプリカを評価しておけば、アンテナ張ってるようにみえるもんね。。。。。

青椒ロンリネス@*chinjao_loneliness*

結局、業界的に人気なのは、『俺が育てた』したい人が多いだけ。
もっと面白い劇団はあるのに。。。。。

世論の代弁者になっているだけ

 紘子が「芝居衆団パプリカ色素」について言及したどの投稿も、ポストして間もなく、イイネが秒速でつき、瞬く間に100を超える。

 インプレッションも1時間ほどで2万を超えることは当たり前だ。擁護する攻撃的なリプはあるが、どうせ発信元は彼らの信者だから全く響いていない。

 紘子は「世論の代弁者になっているだけ」なのだ。

 みな、「パプリカ色素はなんだか鼻につく」その思いが言語化できないだけ。

 紘子がそれを正しく批判をできるのは、長年彼らを見続けているからに他ならない。積もり積もった怨念の結晶といえばいいのか。

スナックのお姫様止まり

「わ。また、イイネとリポストが増えてる!」

 見知らぬ誰かが自分の意見に同意してくれる――その足跡を見るたびに、紘子は、自分はここにいていい人間だと実感する。

 扉を開けて広い海に出ようと足掻(あが)いているけど、いまだ誰にも見つけられていない自分。

 誰かに見つけて欲しいと願っているが、結局、今は阿佐ヶ谷の小さなカウンターの中のお姫様止まり。

『アイツら』がうまいことやって、中途半端ながらも世間のアンテナに捕獲されたように、自分もそうなりたい。誰かに、見つけられたい。

 そんな紘子にとって、イイネの数は心の支えだ。大海の藁でも、多ければ多いほど心強い。その数値が増えていくのを眺めるのが、紘子の至福の時間だった。

退団理由は男女のホレタハレタ

 そもそも、紘子が芝居衆団パプリカ色素を退団したのは、単純な人間関係のごたごただ。

 若い演劇サークル内にありがちな、ホレタハレタのトラブル。

 ある飲み会の帰り、終電を逃して団員のひとり・生田陽士の家に泊まった紘子は、その流れで彼と男女の関係になった。

 ただ、相手の陽士はその時、別に本命の恋人がいて――。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


ミルクに難色、昭和育児の「母乳信仰」って何なん? 押しつけがましい上から目線LINEにイラッ
 初めての育児や、何人もの育児をしているお母さんは、とりわけ、毎日大変! そんなお母さんを追い詰める身内、どうにかならな...
セレブ妻が赤羽のサイゼリヤに落ちるまで 上流階級との「品格の差」に絶望
 悠々自適なセレブ生活を送っている医師の妻・大宮由香。ある日、お嬢様学校に通う娘のクラスメイト・愛舞(らぶ)とその母親・...
勝ち組ママ友が放った屈辱的な一言。私を「一般人」と一緒にしないで!
 四ツ谷・番町エリアに暮らす医師の妻である大宮由香は、娘・葵を名門お嬢様学校に通わせている。小学校に入った葵から友人がで...
嘘でしょ…娘の友達が「キラキラネーム」? 玉の輿セレブの大きな誤算
 都会の中心でありながらも、ハイグレードな住宅街として知られる四ツ谷・番町エリア。  大宮由香は、小学校に入ったば...
スメハラ? 90年代の出版社は“異臭”がプ~ン…男と香水と時代の変化
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
移住の思わぬ落とし穴。収入激減で大後悔!こんなはずじゃなかった…
 コロナ禍でリモートワークに対応する会社が多くなり、地方への移住を一つの選択肢として捉える人は増えました。でも、あまり調...
直木賞作家・荻原浩氏インタビュー 世にはびこる誹謗中傷「耳の痛い意見が人を成長させるとは言い切れない」
 パリ五輪でも選手や審判などに対する誹謗中傷は深刻な問題となっている。誹謗中傷は、他人への悪口(誹謗)と根拠のない出鱈目...
まるで最高級の餡子玉! 黒猫のプリプリ“たまたま”がキュートすぎる
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
江角マキコ芸能界引退から7年、初めてデビュー作を語る(後編)父を亡くした喪失感を「ゆみ子」に重ね合わせた
 芸能界から引退している江角マキコさんが、7年ぶりとなるインタビュー取材に応じた。目的は、石川県輪島市を支援するために特...
2024-08-07 07:00 ライフスタイル
江角マキコ芸能界引退から7年、初めてデビュー作を語る(前編)伴走してくれた能登の人たちに「感謝と恩返し」を
 芸能界から引退している江角マキコさんが、7年ぶりとなるインタビュー取材に応じた。目的は、石川県輪島市を支援するために特...
2024-08-07 07:00 ライフスタイル
「夏の庭の花・植物の水やり問題」災害級の暑さで1週間留守に…対策は?
「災害級の暑さ」なるフレーズ、耳にする日が続いていますが、気付けば夏休みシーズン到来!  我が花屋は神奈川の片田舎の温...
深夜3時にメッセ連続投下!グループ脱退したい…常識知らず&KYなママ友のお騒がせLINE10連発
 保育園や幼稚園の保護者同士でやりとりするママ友LINE。同じクラスのママに誘われて断るわけにもいかず、半ば強制的にグル...
ふるさと納税について夫婦で考えたら、意見が食い違って爆笑の大喧嘩に…「特別vs日常」何が正解?
 選んだ自治体に寄付をしてお礼をもらうことができるだけでなく、一部の税金が還付または控除される、“ふるさと納税”。  ...
2024-08-07 06:00 ライフスタイル
「子どもの夏休み暇対策」どうしてる? 頑張るママのお助けアイデア7選
 子どもが小学生になると、夏休みの過ごし方で悩む大人がたくさんいます。近年では外遊びも猛暑による熱中症の心配があるので、...
【調香師解説】夏バテ解消アロマでフェロモンも復活!睡眠、胃腸、イライラを鎮める香りは?
 毎日暑いですね。フェロモンは最低限の生命力が維持されたうえで、余力から生まれてくるものです。うだるような暑さが続くと心...