【阿佐ヶ谷の女#2】
【#1のあらすじ】
阿佐ヶ谷のスナックに勤務している紘子は、役者を目指しながらもくすぶっている日々。そんな彼女のストレス発散方法は、かつて所属していた人気劇団「芝居衆団パプリカ色素」の悪口を、匿名で投稿することであった。
◇ ◇ ◇
青椒ロンリネス@*chinjao_loneliness*
配信でパプリカの本公演視聴。
ま、可もなく不可もなく。結局、今どきの若者らしいワードセンスが、おじさんたちにとって珍しく見えてるだけでしょ。若者って言ってもみんな30過ぎじゃん。パプリカを評価しておけば、アンテナ張ってるようにみえるもんね。。。。。
青椒ロンリネス@*chinjao_loneliness*
結局、業界的に人気なのは、『俺が育てた』したい人が多いだけ。
もっと面白い劇団はあるのに。。。。。
世論の代弁者になっているだけ
紘子が「芝居衆団パプリカ色素」について言及したどの投稿も、ポストして間もなく、イイネが秒速でつき、瞬く間に100を超える。
インプレッションも1時間ほどで2万を超えることは当たり前だ。擁護する攻撃的なリプはあるが、どうせ発信元は彼らの信者だから全く響いていない。
紘子は「世論の代弁者になっているだけ」なのだ。
みな、「パプリカ色素はなんだか鼻につく」その思いが言語化できないだけ。
紘子がそれを正しく批判をできるのは、長年彼らを見続けているからに他ならない。積もり積もった怨念の結晶といえばいいのか。
スナックのお姫様止まり
「わ。また、イイネとリポストが増えてる!」
見知らぬ誰かが自分の意見に同意してくれる――その足跡を見るたびに、紘子は、自分はここにいていい人間だと実感する。
扉を開けて広い海に出ようと足掻(あが)いているけど、いまだ誰にも見つけられていない自分。
誰かに見つけて欲しいと願っているが、結局、今は阿佐ヶ谷の小さなカウンターの中のお姫様止まり。
『アイツら』がうまいことやって、中途半端ながらも世間のアンテナに捕獲されたように、自分もそうなりたい。誰かに、見つけられたい。
そんな紘子にとって、イイネの数は心の支えだ。大海の藁でも、多ければ多いほど心強い。その数値が増えていくのを眺めるのが、紘子の至福の時間だった。
退団理由は男女のホレタハレタ
そもそも、紘子が芝居衆団パプリカ色素を退団したのは、単純な人間関係のごたごただ。
若い演劇サークル内にありがちな、ホレタハレタのトラブル。
ある飲み会の帰り、終電を逃して団員のひとり・生田陽士の家に泊まった紘子は、その流れで彼と男女の関係になった。
ただ、相手の陽士はその時、別に本命の恋人がいて――。
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