#1 芸能界に執着する35歳女の密かな楽しみ。裏アカで吐き出す腹黒い本音

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2023-10-22 18:38
投稿日:2023-10-21 06:01

【阿佐ヶ谷の女#1】

「いらっしゃい、シゲさん今日は早いんだね」

 阿佐ヶ谷駅の北口の飲み屋街・スターロードにひっそりたたずむ小さなスナック。

 結城紘子は今日も“ひろみ”として、カウンターに立っていた。

「ひろみちゃん、今日は暑いからとりあえず中瓶ね」

「じゃあ、私ももらうー! 喉カラカラなの~」

 人見知りが激しい紘子だが、25歳から10年も働いていれば慣れたものだ。容姿は中の上程度ながらも、店の看板娘としていまだ常連からお姫様扱いをされている。

「なら1曲入れるから歌ってよ。久々にひろみちゃんの椎名林檎聞きたいよ」

 紘子はまんざらでもない表情でデンモクを操作する。入れたのは十八番の「正しい街」だ。

 20年以上前のアルバム曲を歌ってもそれなりに盛り上がるのは、この街ゆえ、という理由があるからだろうか。

 演劇、音楽、お笑い。サブカルの匂いが色濃いこの街。一方で、16もある商店街が表すように、生活感や等身大の地元感が漂う。

 すなわち、生活とサブカルの匂いがいい塩梅で混じり合っている街なのだ。

女優を目指し長崎から上京→日芸の演劇学科に入学

 紘子が女優を目指し、長崎から上京して日大芸術学部の演劇学科に入学したのが17年ほど前。在学中はキャンパスのある所沢や江古田に住んでいたが、卒業を機に阿佐ヶ谷に引っ越してきた。

 当時、阿佐ヶ谷スパイダースが好きだった、それだけの理由で。

 リーマンショックの影響で、希望する就職口もなく(マスコミしか受けていなかったから当然だ)、卒業後は芝居を続けつつずっとフリーター。

 10年前、大学の先輩の紹介で小さな芸能事務所に所属することができたが、最近の表立った活動は年に数度友人が主宰する劇団の舞台に立つくらいだ。

「ひろみチャン、僕の知り合いがテレビ局に勤めているからさ、今度売り込んであげるよ」

「本当ですか、うれしぃいい」

手に取るように分かる業界の内実と社交辞令

 マスコミ関係を自称する客・重田の軽口。紘子は笑顔で答えるが、どうせ社交辞令だろう。

 それに加え、一個人がテレビ局勤務の者に売り込んでもどうにもならないことは十分知っている。キャスティングはそんな簡単なことで決まらない。

 現に、紘子も20年近くこの道にいれば、芸能関係や有名俳優に知人は数多くおり、そのつながりでオーディションに呼んでもらったりしている。

 それでも結果を残せていないのが現状だが。

 ――いつまでこんな生活が続くんだろうな……。

 30歳を超えたあたりから、紘子はぼんやりと考え続けている。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


居間や仏壇の花がすぐしおれる理由に納得!今すぐできる「短命回避術」
 ある暑い夏の深夜の出来事でございます。連日の繁忙期で、わずかに仮眠してすぐに職場へ戻らなければならなかったこの日、やっ...
おしっこをぶちまけるけど純粋さにメロメロ…男の子ママあるある7つ
 子供は天下の授かり物といいますが、男の子でも女の子でも子どもって本当に可愛いですよね! でも、可愛さに違いがあると言い...
お互いに気配りしつつ…フェロモンの上書きをする“たまたま”
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
街の片隅で咲く 2023.8.21(月)
 褒めてくれる人がいなくても、ただ自分のために咲く。そういう人って強いよね。  暑さが落ち着いたらまた出かけよう。...
財布から金品くすねること16回!盗み癖が直らない我が子と行き着いた先
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
うつむいてもいい 幸せは下に落ちている? 2023.8.20(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
3年半の歳月をかけて可決された「女性ホルモン」の再開
 2023年7月29日、4年ぶりの開催となる隅田川の花火大会当日、私はシアター上野でのストリップ公演に絶賛出演中であった...
なんちゃっての“人工天然女”を一撃で仕留める! 胸スカやり返しLINE3選
 根っからの天然さんには可愛らしさや愛嬌を感じるもの。ですが“人工的な天然”には、イラッとしますよね。  今回はそ...
色移りに生乾き臭で大ダメージ!「洗濯失敗」あるあるエピと回避テク3選
 毎日やっている慣れっこの家事でも、時には失敗してしまうことがあります。中でも、洗濯はで失敗するとダメージ大!  今回...
「仕事を休む」言えないの、なぜ? 無理しがちな人の共通点とリスク
 体調が悪いのに「休む」という一言が言えず、無理に仕事をする人がいます。仕事を一生懸命頑張ることも大切ですが、無理は禁物...
「ジモティー」初心者に値下げ交渉のメールがきた! 2023.8.19(土)
 地域密着型の掲示板「ジモティー」。月間利用者数1200万人ともいわれ、東京都民(およそ1396万人)に追いつけ追い越せ...
介護という名の人生の修羅場、認知症の母ともみ合っても受け入れられない
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
習い事は無理でもプチ趣味なら!クレーンゲームとガチャガチャにハマった
 アラフォーにもなると、興味のある趣味はある程度トライした経験があると思います。  新たに習い事を始めるにも、1万...
頑張る大人こそ意識しておきたい「我慢のやめどき」サイン
「まあまあ、みんな我慢してるんだから」と、なだめられた経験はどのくらいありますか?  私は少なくない回数あるし、人にそ...
住宅街の中で東京の息吹を感じた 2023.8.18(金)
 住宅街で湧き水と出会うなんて。東京には知らない場所がまだまだある。 「東京の名湧水57選」のひとつにも選出されて...
駅が“ダンジョン”やないかーい!上京して仰天した地方とのギャップ8選
 住み慣れると忘れてしまいがちですが、多くの人は上京後に田舎とTokyoのギャップに仰天しています。上京後数年経った人も...