更新日:2024-03-22 06:00
投稿日:2024-03-22 06:00

中年サラリーマンの超絶かわいい「耳飾り」

 AirPodsをしたサラリーマンのおじさんを通勤電車で見た瞬間、私はその後ろ姿にぎゅんと心惹かれた。

 なにそれ反則…、超かわいい。

 思わずウサギを追いかけるアリスのように、後を追って降車したくなるほど、キュートだった。

 耳の穴の下に細い棒が垂れるデザインのAirPodsは、後ろから見ると、イヤリングに見えるのだ。

 白いプラスチックのキッチュな耳飾りなんて、70年代のツイッギーか、中原淳一が描く昭和のイラストみたいではないか。

 おじさん、それ偶然だろうけどレトロかわいさMAXだよ!

純粋なファッションに見えたからこそ

 自分の見た目に無頓着なおじさんたちは、耳を飾らない。

 実用重視のトルマリンブレスレットや、指にめり込んだ結婚指輪はしても、白いイヤリングだなんて、未来永劫することはないだろう。

 実際はイヤホンだが、それが純粋なファッションに見えた私は、だからこそ激しく、心が揺さぶられたのだ。

 私の職業はストリッパー、観客の心を揺さぶって、ぞっこん夢中にさせるのが仕事。

 ファッションの意外性が人の心をつかむことを、AirPodsおじさんに学んだ私は、さっそくステージに反映させることにした。

ピアスホールが3つある金髪の踊り子です

 アクセサリーといえば、私の耳にはピアスホールが3つ開いている。ピアスが開いてなさそうな清純派ならまだしも、元バンギャル味をいまだに醸し出す金髪の私には、何の意外性もない。

 しかもステージでの脱ぎ着が異常に多いため、そのたびにすっ飛んで、常にピアスのキャッチは足りない状態である。

 衣装に引っかかって耳たぶが裂けた、という話を聞くと、もはやできればしたくない、とすら思うのだ。

意外性を追求したら「インド」にたどり着いた

 デビュー4周年を記念する新作は、インドがテーマだ。ターバンで金髪を隠し、おでこにビンディを貼りつけ、サリーを纏う。もちろん意外性を意識してのことだ。

 案の定、今までにないナマステファッションの反応は上々だったが、ひとつ悩みがあった。

 ターバンを巻いた私は、サルートのブラジャーも、レースのガーターも、全然似合わないのである。

 しかし、サリーを脱いだらすっぽんぽんじゃ、心許ない。何か素肌を飾る方法はないか。

入れ墨は入れない、いや、入れられない

 そこで思いついたのが、タトゥーだ。

 本物の入れ墨ではない。本物みたいに見えるタトゥーシールが、手頃な値段で手に入る。1日のうち4回ステージがあるから、そのたびにはがして、貼ることもできるだろう。

 私はタトゥーを入れたことがない。『TATOO BURST』という専門誌を購読していたくらいには興味を持っているが、なにしろ彫ったら銭湯に入れない。

 仕事でせっかく温泉地に行っても、温泉に入れないなんて、耐えられない。しかしシールなら、そんな心配も無用だ。

 おまけに、右足のやけど跡の上に貼れば、何気なく隠せて一石二鳥だ。

絶大だった「AirPodsおじさん効果」

 AirPodsおじさん効果は絶大だった。ステージを終えた写真タイムでは、タトゥーが見えるポーズを希望する人がほとんどで、シールは日替わりと言えば、ステージのたびに記録写真を撮る人も出始めた。

 これにより、私という踊り子にとってタトゥーは意外性があるファッションである、ということがわかった。よっ、清純派!

タトゥーシールのはずが、なぜ落ちない!!

 消耗品となったタトゥーシールだが、Amazonで探せば大容量が1,000円以内で購入できる。

 さっそく追加したタトゥーシールは公演最終日に間に合い、景気よく特大の薔薇を貼り付けたのだった。

 明日のオフには、疲れた体を癒しにスーパー銭湯へ行こう。それを楽しみに、10日間がんばって働いたのだ。

 しかし、こすったら取れるはずのタトゥーが、ビクともしない。これでは確実に、銭湯の番台さんに呼び止められるだろう。

 シールです、と言ったところで、こすっても取れないなら同じだ。

ジャグアタトゥー?

 よくよくパッケージを見てみると、そのフェイクタトゥーは、タトゥーシールと貼り方は同じでも、全く別物であった。

 植物由来のインクが肌を染めて、垢スリでこすっても2週間ほど落ちないというジャグアタトゥーなるものであった。

 そんな危険なものを、1,000円で売らないでほしい。

 オフは10日間。銭湯には行けずに終わりそうである。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


【調香師監修】頭のにおいは“武器”!愛され頭皮になるヘアケア&香り術
 男性から女性への愛情行為のひとつに「頭皮のにおいを嗅ぐ」しぐさがあります。カレが貴女の頭のにおいを嗅いできたら、それは...
まさに鈴カステラ! 爪とぎ中に立派な“たまたま”がポロリ♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「秋波を送る」は、もはや美人だけの特権ではない。
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
令和なのに「婦人会=奴隷」な件! 田舎あるあるに見る窮屈な人間関係
 田舎は人と人の繋がりが濃く、助け合ったり情報を共有し合ったりできるメリットがあります。しかし、その濃さや交友関係の狭さ...
【銀座】カラオケ館が仕掛ける“ノマド喫茶”誕生!無料豚汁の具がデカい
 人気のスタバやドトールはいつも満席でカフェ難民になることもしばしばな銀座・有楽町エリア。そんな都内喫茶激戦区で、カラオ...
【独自】すいかばか'24~究極のレシピを求めて#1 「寿風土ファーム」代表・小林栄一さんのある決意
 4月の始め、白州は少し遅めの春。冬を越した畑は、春の七草ホトケノザで一面紫の絨毯のようだった。  久しぶりに会っ...
インスタは安定のウザイ投稿祭りだよ!「可愛いよ」待ちがごく痛々しい
 知人・友人の生活を垣間見ることができる、インスタ。友人の近況を知れたり、幸せのお裾分けをしてもらったりと良いところがあ...
【拡散禁止】リモートワークのサボり方を全力で考えた。25分→5分の法則
 リモートワークの醍醐味といえば何ですか? そうです、サボりですね! リモートワークのときは周りの目もないので、やらなけ...
祖父がぽつり「年上女が好きだけど誰も生きてねえ」後期高齢者のLINEには切なさがつきもの
 最近では、後期高齢者でもスマホを操り、LINEを使いこなす人も多くいます。でも、おじいちゃんやおばあちゃんから送られて...
買って正解!不正解?「ニトリ」99円バスグッズが机周りで優秀だった件
 ニトリから生まれたインテリア雑貨のお店『デコホーム』で購入したバスグッズを紹介します♪  デコホームの魅力はなん...
長崎県の池島に上陸! お土産に夢中な“たまたま”をこっそり激写
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
親の介護が必要に【専門家監修】一人で悩まない!知っておきたい公的制度
 彼女の名は、えりの。女性の心を癒すためにはじめたサロン「コクハク」のオーナーで、界隈では「えりのボス」の愛称で知られ、...
任期中に【18万円】の最低保証!シンママ生活応援プロジェクト
 ただいま、『コクハクリーダーズ』2期生を、絶賛募集中!  今回は「シングルマザー応援企画」。シングルマザーであれ...
2024-05-15 11:40 ライフスタイル
花の値段も上がる一方だが、買いに来る女は必ずしもお金持ちとは限らない
 連日連夜「これも値上がりかぁ」と悶々としております。大好きなお菓子や菓子パンのサイズや個数が減っているのを確認するたび...
在宅ワークの暇つぶしも恋バナに限る。独女、久しぶりの胸アツ実況中継
 コロナ禍で、一気に在宅ワークをする人が増えましたよね。でも会社にいる時とは違い、雑談や電話などの雑務も減るため、在宅ワ...
【常勝無敗】ビールしか勝たん!飲み会好きな40女の太らないルール3本柱
 嬉しいことに最近飲みのお誘いが増えております。コロナ禍のあの日々はいったい何だったんだ…というくらい。とはいえ、気にな...