こんな日々が“永遠に”続くのかな…
――こんな日々が“永遠に”続くのかな。
うっすら脳裏に浮かぶ絶望。親の残してくれたものがあるから、特段生活は困っていない。月々18万円前後の十分な給料もある。変化を求めているわけではないのだが…。
この町の若者たちは日々イキイキとしているように見える。
店のバイトの子も、店で安い酒を酌み交わすお客様たちも、皆元気だ。それに比べて、自分の中にある言いようもない閉塞感はなんなのだろうと。それはどんなにため息をついても解消することはない。
眠気はあるのになぜか眠れず、由紀はブックオフで買ったばかりの永井路子を開いた。お気に入りの時代小説だ。高校時代は可もなく不可もない成績だったけど、歴史だけは興味があった。
ひとりきりのこの家なら、前からぶつかってくる若者もいない。安心して世界に没入できる。
いつの間にか、カーテンの向こうは薄明るくなっていた。
休みのはずの女子が出勤したワケは
眠い目をこすって職場へ行くと、休みを申し出ていたはずの学生バイトの美波がなぜか出勤していた。
「ごめんなさい、由紀さん。代わりが見つからなかったから出勤しました」
「あ…そう」
ならば、早めに連絡して欲しい――と思ったが、恐縮している美波を見たら何も言えなかった。叱ってヘソを曲げられたら結果、自分の首を絞めることになる。
手持無沙汰になった由紀はバックヤードで事務作業に専念することにした。在庫やシフトの管理は、本来店長やSVの仕事だが、彼らは一切やろうとせず、いつも押し付けられている。
大手企業に就職したバイトOBの来店
「うぃーっす! みんな、元気?」
すると、ランチライムの終わり際、フロアから元気な声が響いて来た。
ノーゲスト状態になったのを見越して、去年、就職でバイトを辞めた金指が顔を出しにきたのだ。
大学で応援団だった彼はバイト時代、「いらっしゃいませ」と叫ぶだけでクレームが来るほどの声量だった。その元気の良さを生かし、就職先は大手企業の営業職という。
声の大きさは今も変わっていない。
フロアにいた美波と鈴音も同じくらいの大きさで嬌声をあげ再会に歓喜した。
「一緒にされたくないし」自分へ評価に愕然
「鈴音っち、来年就職だよね。どこ行くの?」
「青山の美容室だよ。金指さんも来てー」
「行く行く。会社、近いし。仕事帰り、呑みに連れて行って」
「青山? いいなー。私の初任地は厚木なんだ。もう既に辞めたいー」
近況報告と思い出話をする3人の声が楽しそうだ。由紀も顔を出そうかと腰をあげたが、若者だけで盛り上がっている様子に遠慮して、ひとまず機会を伺おうとバックヤードから耳をそばだてる。
「鈴音っちは長いから、この店の社員になると思っていたな。由紀さんみたいに」
金指が由紀の名前を出した。思わず腰を上げフロアに近づいた。
仲がいいと思っていたのに…
「なるわけないって。一緒にされたくないし」
耳に入ってきたのは、半笑いの返答。
「ひでぇ」「わかるけどw」と2人は続いた。それはあたかも共通認識であるかのように、3人は笑いあっていた。
「…」
由紀だけがスポットライトから外され、闇に埋もれた。
もう一歩が踏み出せない。由紀は静かに佇むことしかできなかった。
【#2へつづく:バイトに蔑まれていることを知った由紀。業務をこなす中、クレーマーが現れて…】
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