なぜこんな子が名門校に入れた?
「ごめんなさいね。私、娘は自由に育てているから」
葵には、基本的にNHK以外を見せていない件を話すと、由香は来良からあっけらかんと謝罪された。
「自由…それでうちの学校に小学校から入ったのはすごいですね。幼児教室を掛け持ちしても難しいはずなのに」
由香は皮肉を交えながらも来良に尋ねる。愛舞の存在を認識してから、純粋にも疑問だったことだから。なぜ、彼女たちのようなご家庭が我が校との縁を得られたのかが不思議だった。
「それがね、しつけを丸投げしていたお教室の先生に勧められるがまま受験しただけなのよ。愛舞は、賢い子だからペーパーテストの結果が抜群に良かったんじゃないかな?」
「…そんなことあるの?」
突然言葉がくだけた来良に、由香もつられてしまった。
「だってそれしか考えられないもの。まぁうち、子供は一人って決めてるし、お金の面でも余裕はあるから、ラッキーだなって…」
聞けば、山田さん夫婦は共に地方出身。大学からの早稲田の同級生で、それぞれ有名なメディア関係の企業に勤務しているのだという。聞いてもいないのにそう話してくれた。当然、愛舞は入学前、保育園に通っていたそうだ。
――やっぱり、一般企業の共働きの方だったんだ。
名前や住んでいる場所だけでの偏見はよくないと、訪問に備えて、エルメスのティーセットを新調し、赤坂のしろたえでケーキを用意した。
だが、それは無駄だったと落胆する。
偏見は、正しかった。
「一般人」と一緒にしないで
Tシャツや裸足での来訪は、「一般の人」にとってはなんてことないのかもしれない。だけど、この世界に誇りを持つ由香にとって、彼女たちの言動は耐えがたいことだった。
垣間見える品のなさ――娘をお嬢様学校に入れたのに、これでは意味がない。
そんな由香の怒りに追い打ちをかけるように来良は声を弾ませた。
「でもね、愛舞と仲良くなったのが葵ちゃんでよかった。私ね、大宮さんとは通じるところがあると思っていたのよ」
「…は?」
由香にとってはバカにされたような気分になった。適当で勝手な同族認定だと。
必死に背伸びして、仲間であろうと思いたい気持ちは理解できる。かつて、お嬢様大学に入ったばかりの自分がそうだったから。
だが今は、違う。自分は医師の家柄の一員で、番町エリアに住み、義母がOGの伝統的なお嬢様学校に幼稚園から通う娘の母なのだ。
私には同じレベルのママ友がいる
この怒りを面に出し、同じステージに降りてはならないと由香はグッと堪えた。
キリスト教の精神に基づき、他者を尊重すること――娘の通う学園の理念だ。余裕を装い、必死で笑顔を取り繕った。
来良とはその後、学校のママ友の噂話で場を繋ぎ、夕方、彼女たちはやっと帰宅をしてくれた。
来良とLINEは交換したが、今後、交わす機会はほとんどないだろう。
由香には他にも自分と同じレベルのママ友がいるのだから。
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