夕飯のカレーで描いた星家の“遠慮のない家族”への変化。入山法子の名場面を振り返り

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2024-09-05 17:30
投稿日:2024-09-05 17:30

第23週「始めは処女の如く、後は脱兎の如し?」#114

 昭和37年1月、「原爆裁判」の原告のひとり、吉田ミキ(入山法子)が法廷に立つことを承諾。広島から上京してきたミキを、原告代理人の岩居(趙珉和)とよね(土居志央梨)、轟(戸塚純貴)は迎え入れる。

 一方、星家では、のどか(尾碕真花)の態度に優未(毎田暖乃)が不満を爆発させ、家を飛び出してしまう。登戸の猪爪家に連絡したら大ごとになると考えた寅子(伊藤沙莉)は、どうしたものかと頭を悩ませる。

【こちらもどうぞ】第110回感動のラストシーン! 余貴美子演じる百合さんの“ある台詞”がとっても可愛かった

【本日のツボ】

「声を上げた女にこの社会は容赦なく石を投げてくる」

 ※※以下、ネタバレあります※※

 優未ののどかへの蹴り、怒りが込められていて、最高でした。ムエタイ選手もびっくりのキック。あれ、相当痛かったのではないかと思われます。のどかにぜひ感想を伺いたいものです。

 それでもちゃんと仲直りできるのは、家族のようなものではなく、遠慮のない家族になれたということでもあります。航一(岡田将生)とのどかがカレーを作って、寅子と優未の帰りを待っていたのも微笑ましく、「カレー、カレー」と言いながら家の中に入っていく場面にほっこりしました。

 そういえば、のどかにキックし、家を飛び出した優未が向かった先は、轟(戸塚純貴)とよねの事務所でした。「どうしても謝りたくない」という優未に、轟の恋人・遠藤(和田正人)は、「口や手を出したりするってことは変わってしまうってことだとは覚えて欲しい」と語り掛けます。

「その人との関係や状況や自分自身も…。その変わったことの責任は優未ちゃんが背負わないといけない。口や手を出して責任を負わないような人間にはどうかならないで欲しい」

 遠藤の言葉に優未も「わかった。考えてみる」と、こちらもいい場面でした。

入山法子と土居志央梨の名シーン

 そして、原爆裁判です。昭和37年1月、原告のひとり、吉田ミキが法廷で証言するため、広島から上京してきました。夜、よねとふたりになったミキが、法廷に立つことの不安を語ります。

 自分は美人コンテストで優勝したこともある、「誰もが振り返るほどの美人だった」とミキ。「きょう上野駅に降り立った時にそれを思い出したわ。振り返る人の顔つきが違ったけれど」と。

 被爆し、顔や体にやけどのような跡と傷みがのこる、「そういうかわいそうな女が喋れば同情を買えるってことでしょう」「ま、でもほかの誰かにこの役を押し付けるのも気が引けるしね。仕方ないわ」とどこか諦めたように笑みを浮かべた…と思ったら、真正面を見つめ、表情が少しずつ曇り、今にも泣き出しそうな顔に…。

 そして、「差別されない? どういう意味なのかしらね」とつぶやくミキの視線の先あるものは、よねが壁に大きく書いた日本国憲法14条。「すべて国民は法の下に平等であって人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」というものでした。

 そんなミキに「やめましょう」と声を掛けたよね。「無理することはない。私の相棒は元々反対していました。あなたを矢面に立たせるべきではない。たとえ裁判に勝ったとしても苦しみに見合う報酬は得られない」。さらに「声を上げた女にこの社会は容赦なく石を投げてくる。傷つかないなんて無理だ。だからこそ、せめて心から納得して自分で決めた選択でなければ」と続けます。

「でも私、伝えたいの。聞いてほしいのよ。こんなに苦しくてつらいって」。泣きながら訴えるミキに、「その策は考えます。だから…あなたが謝ることは何もない。なにもないんだ」とミキを包み込むようなよねの言葉。深い悲しみを背負ってきたよねならではの、グッとくる場面でした。

 入山法子、出番は一瞬でしたが、印象に残る名シーンでした。そして、なにかの時はよねさんに弁護してもらいたい、そうも思いました。

桧山珠美
記事一覧
TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


芸人の結婚で“ガチ恋”離れが加速中。非モテ「マユリカ」中谷は救世主となるか
 芸人の結婚ラッシュがやってきている。メイプル超合金・カズレーザーと二階堂ふみの結婚をはじめ、令和ロマン・松井ケムリやは...
帽子田 2025-09-04 11:45 エンタメ
「あんぱん」やなせ氏がいじけてないか心配になる。誕生秘話は史実なの?
 週刊誌の漫画コンクールのページを目にした嵩(北村匠海)は、のぶ(今田美桜)に勧められ、その懸賞に挑戦することに。 ...
桧山珠美 2025-09-03 18:26 エンタメ
福山雅治 騒動で見えた「イケメン」の賞味期限。木村拓哉のプレゼントは許されたのか
『女性セブン』<激震スクープ 福山雅治 女性アナ不適切会合 フジテレビ報告書 独占告白70分>には、驚きました。 ...
吉沢亮が「国宝」級に美しい…隠れた名作5選。伝説級漫画の実写化で見せた“危うい”笑顔にゾクッ
 歴代邦画実写史上第2位となる興行成績を叩き出している『国宝』。このままの勢いで、歴代最高成績さえも残してしまいそうな同...
zash 2025-09-22 13:26 エンタメ
「あんぱん」ヤムおんちゃん登場! “じいさん”呼ばわりがちょっと切ない…。のぶや嵩とはどう再会する?
 ラジオドラマ「やさしいライオン」は、たくさんの人の耳に届いていた。しかし、登美子(松嶋菜々子)の反応が気になる嵩(北村...
桧山珠美 2025-09-01 17:08 エンタメ
【芸能クイズ】山下美月は一級船舶免許。意外と多い“資格取得者”を検索できる事務所は?
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
欅坂46から10年。平手友梨奈らの脱退・卒業、解散危機に改名…櫻坂46はいかに“最高地点”へ辿り着いたのか
 櫻坂46が8月24日、全国ツアー「5th TOUR 2025 “Addiction”」の千秋楽を終えた。愛知、福岡、広...
こじらぶ 2025-08-31 12:22 エンタメ
「あんぱん」羽多子の“夢”はヤムおんちゃんの影響ですか? 予告にチラリと映る姿にも歓喜!
 のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)は引っ越しをして羽多子(江口のりこ)と同居生活を始める。そんな中、電話に出た羽多子が、...
桧山珠美 2025-09-13 11:33 エンタメ
「あんぱん」脚本家が“1番書きたかったこと”に目からウロコ! すべては聡明なお子様のおかげ…
 ある日、嵩(北村匠海)にファンレターをくれた小学生の佳保が、祖父の砂男(浅野和之)と柳井家にやってくる。笑顔で迎えるの...
桧山珠美 2025-08-28 15:25 エンタメ
「あんぱん」八木(妻夫木聡)と蘭子(河合優実)カップル、オトナの視線の絡み合い…朝から見ていいんですか?
 八木(妻夫木聡)のひらめきで嵩(北村匠海)の詩とイラストが入った陶器のグッズは追加注文が来るほど売れていた。それでもも...
桧山珠美 2025-08-28 15:03 エンタメ
坂口健太郎に逆セクハラ騒動。永野芽郁にmiwaとも…BLACKPINK リサだけじゃない“女性に押される”男の特徴
 BLACKPINKのリサ(28)が国境を越えて、大炎上中だ。今年2月にリリースしたソロデビューアルバム『Alter E...
田中麗奈、45歳。心も体も変化するなか、ずっと変わらない“芝居”への気持ち
 多くの人の心をつかんだ「なっちゃん」のCMの初代キャラクターに始まり、映画『がんばっていきまっしょい』『はつ恋』、近年...
望月ふみ 2025-08-24 11:45 エンタメ
『あんぱん』のぶ、山に登って「ボケー!」は“征服欲”の成せる業か? アンパンマンの原型がついに爆誕
 のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)の別居生活が続く中、登美子(松嶋菜々子)から嵩の名前の由来を聞いたのぶは、ひとり山へ向...
桧山珠美 2025-08-28 15:04 エンタメ
ラウール、22歳の色気が破壊級!「愛の、がっこう」は“代表作”になると断言してもいい
 夏ドラマも中盤にさしかかりました。そのなかでも回を重ねるごとに盛り上がっているのが、木曜劇場「愛の、がっこう」(フジテ...
【芸能クイズ】松本人志が福山雅治と「HEY!HEY!HEY!」で作った“オリジナル料理”の名前は?
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
「あんぱん」羽多子らの“あの言葉”にあんぐり…のぶも感動してる場合か。落語家の年齢も気になる
 嵩(北村匠海)は「まんが教室」という番組に出演してほしいという健太郎(高橋文哉)の頼みをしぶしぶ承諾する。そして第1回...
桧山珠美 2025-08-28 15:06 エンタメ