別に結婚したいわけじゃない
「僕はね、佳奈と何がなんでも結婚したいわけじゃないんです。今の生活になんの不満も不便もないですからね。
でもこれから一生ずっと独り者でいるってなれば母が心配するだろうし、老いていく母に僕の世話をしてもらい続けるわけにもいかないじゃないですか。
それで婚活を意識し始めたときに出会ったのが、佳奈なんですよ。
浪費家だった前妻と違って堅実で性格もいいし、妻にするならこういうタイプが安心だと思ったんですよね。それで、僕からプロポーズをしてOKをもらいました」
ここまで話したあとにハヤトさんは、佳奈さんと実母の関係には一抹の不安を抱いていると続けます。
なぜ母親に感謝しない?
「僕はね、佳奈がウチの母に感謝の気持ちを持っていないことが気になっています。
だって、僕たちが外でデートをして遊んでいる日にも母は家事を全部してくれているわけですよ。深夜にお腹が空いたらかわいそうだからと、夜食までこしらえてくれているときだってある。
それなのに、母の気遣いに対して、佳奈から感謝の言葉はありません。それどころか、ちょっと迷惑そうにしているフシもある。
佳奈は人としておかしいんじゃないの? って思いますけどね…。僕も50代ですし、特に文句も言わず、佳奈はそういう残念な人なんだなって、諦めています。
ハヤトさんは不安を抱いていると言いながらも、このまま結婚へと進めていくつもりだと強調します。
高望みはしないけれど、本音は…
その最大の理由は?
「年齢ですよ、年齢! 僕は50代、両親も80代ですから。これから介護とか色々考えると、人手は多いほうがいい。
佳奈も結婚後は自分の実家よりも、ウチの実家との付き合いを優先するでしょう。当然ですよね。そもそも彼女の実家は新幹線で2時間の距離ですし。
今後を考えたら、佳奈がもっと僕の母親と親しくなってくれないと困りますけど。
まぁ、贅沢は言いません。自分の年齢を考えると、高望みをしちゃいけないっていうのはわかっているし。
もうね、このトシになると『結婚する』となっても、冷静に現実を見ちゃうわけですよ。だから僕は再婚が決まった今も浮ついた感情なんて、これっぽっちもないですね!
結婚すれば、僕から意見しやすくなりますし。佳奈の考え方について僕が正してあげるしかないでしょうね」
◇ ◇ ◇
恋人同士であれ、夫婦であれ100%同じ価値観を有する男女は稀です。ましてや交際前の男女となれば、なおのことです。少しのすれ違いが、大きな溝に発展することも少なくないのが異性間における現実でしょう。
まさにこれこそが、男女関係における醍醐味にもなれば致命傷にもなる“冷酷と激情”のはざまなのかもしれません。
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