言われたくない! ただのオジサンになった「元彼からの一言」に怒りが…

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-11-09 06:00
投稿日:2024-11-09 06:00

「いい名前だね」馴れ馴れしい男は誰?

「すみません、お嬢さんの手を掴んだみたいです」

「いえいえ、凛が――この子が単に人見知りなだけなので…。気にしないでください」

 真央はやんわりフォローし、いらぬトラブルを避けるためにもこの場から退散することを決める。軽く頭を下げ、そのまま凛の手をひいた。

 すると、彼は呼び留めるように言うのだった。

「お子さんの名前、リンかあ。いい名前だね」

 凛と名前を付けたのは自分だ。

 センスを褒められたようで誇らしい。ただ、初対面でタメ口なのが気になった。若干の嫌悪を抱きつつも、真央は礼を告げるためゆっくり顔をあげる。

「あ…ありがとうございます」

 だが、真央はそのパパさんの顔を見て固まった。

 その人は、初対面ではなかったから。

あの彼がこんなおじさんに!?

 ――銀二…?

 遠藤銀二。かつてZAZEN BOYSのライブを共にしたかつての想い人だった。

 記憶と現在を頭の中で比較する。しかし、すぐには確証が掴めなかった。目の前の男性は、顔の造りは間違いなく彼だったが、体型や髪型、服のセンスは渋谷のミニシアターより郊外にあるシネコンが似合う、全くの別人だからだ。

「いやあー久しぶり。たまに真央らしき親子連れを見かけて、もしかしたらと思ってたんだよ」

 その男は陽気に語りかけた。そういう部分もあの時の銀二とは違う。だが、彼以外に記憶の中で思い当たる人物はいない。真央は思い切って仕掛けてみる。

「ぎ、銀二もここに住んでいるの?」

「もちろん! いつから住んでいるの?」

 賭けは当たった。銀二は嬉しそうに顔をしわくちゃにさせた。

「…私は5年前に引っ越してきて」

「俺は最近なんだ。一番新しい街区の4階!」

 子どもたちはすぐに仲良くなったこともあり、真央は銀二とカラフルなキューブチェアに並んで腰を据えた。ママ友たちが居なくなった後でよかったと真央はホッと胸をなでおろす。

「ホント、まさか真央とこんなところで会うとはねー」

 真央。

 役所や銀行以外で名前を呼ばれたのは久々なことだった。銀二はおもむろに両手を掲げ、頭の後ろで組む。癖はあの頃と変わっていない。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


職場での“ため息”が気になる…かまってちゃん? SOSのサイン? 心理状態と空気を乱さない対処法
 職場で後輩がたびたびため息をついていると、「大丈夫かな?」と気になったり、「職場の空気が悪くなる…」とモヤモヤしたりし...
「どうにかなる!」自己肯定感つよつよ女の口癖8つ。根拠のない自信はどこから?
 自分の存在や状況、感情を認めてあげられる自己肯定感が高い人は、明るく前向きですよね。そんな人が羨ましくて「私もそうなり...
付録のレベル超えてる!「VOCE」9月号の“デパコス高級アイテム”で夏を過ごせるのだが
 最近メイクすらしない日々だったのですが、不意に撮られた写真に愕然…。あ、せめてちゃんとメイクしよう。そういえば美容雑誌...
セクシー女優のドレスで炎上。ウェディングフォト市場に“課金”する花嫁の心境とは。100万円プランも存在
 7月末、Ⅹで大きな波紋を呼んだのは、一般女性の投稿だった。結婚式の後撮りで着用予定だったウェディングドレスを元AV女優...
見た目は熟女、心は小学生。アドレナリン全開踊り子の夏休み初日。
 踊り子として全国各地の舞台に立つ新井見枝香さんの“こじらせ”エッセーです。いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きな...
にゃんたま、悩殺の毛づくろいタイム…!「にんげんもちゃんと、整えてるか?」
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
結局、暑いの平気な花ってどれ? 花屋が激推しする「夏の花」5選。ユリは日持ちとコスパの良さに文句なし!
「暑い!」というより「痛い!」が正しいような気がする今年の夏。  外に出かけようものなら「命懸けかい?」と、ためら...
そう来る!? AI提案の「酷暑の乗り越え方」に笑った。私が考えたオリジナル“心理的”対処法も教えます
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
終わった…海外トラブルで冷や汗。20代女子のリアルな旅行ハプニング、消えた荷物はどこに!?
 日本とは違った体験や景色が味わえる、それが海外旅行の魅力。しかし、その“違い”が思わぬトラブルを呼ぶこともあるんです。...
なぜ40~50代に参政党がウケたのか? 参議院選挙の"もうひとつの争点"、氷河期世代の本音
 2025年参院選で争点のひとつに「就職氷河期世代」の支援策もかかげられた。  1993年から2005年にかけて社...
正直いりません!ダサい服を送ってくる義母。悩める主婦がとった“仕方ない”手段「どうなんだ? とは思うけど…」
 令和を迎えた今の時代にも、姑の行動に深刻な不快感を示す妻もチラホラ…。一方、激しい対立をするほどの事柄ではなくても妻が...
やば! ブラ紐が“チラ見え”した時どうしてる? スマホ使ったスマートな技も
「えっ、ブラ紐見えてたかも…?」ふとした瞬間に自分のブラ紐が見えていることに気づくと、恥ずかしさで焦ってしまいますよね。...
「帰省キャンセル界隈」は親不孝じゃない。実家に帰らないための冴えた言い訳
 色々な理由で帰省をしない人はたくさんいます。帰りたくない理由があるのなら、無理にしなくていいのかも。 (コクハク...
ポンポン尻尾にメロメロ♡  “にゃんたま”丸見えの姿に心をくすぐられちゃう
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
【動物&飼い主ほっこり漫画】第101回「くまさんスイカ!シャクシャク」
【連載第101回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽの...
【“偏”探しクイズ】共通する偏をみつけて2文字の熟語を2つ作ろう(難易度★★★☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...