【新川崎の女・鈴木 真央41歳 #2】
新川崎の大規模マンションに暮らす真央。量産型主婦を自覚しているが、かつての真央はバリバリの個性派女子だった。20年前の自分や昔の想い人を懐かしく思い出しながら、今日も日常をやり過ごすのだった。【前回はこちら】
◇ ◇ ◇
柔らかな秋の陽ざしが差し込むマンションのキッズルーム。
ボーネルンドの知育遊具で子供たちを遊ばせながら、真央はその日も幼稚園のママ友たちと午後のひとときを過ごしていた。
「…へぇー、凛ちゃんのレギンス、西松屋のなんだ。かわい~」
「そうなの。うちの子、アンパンマンしか履かなくて。でもね、他のサイズは売り切れみたい」
「あらそうなの。別の店舗ならあるかしら」
「意外としまむらでも売っていたりして? ホームズにあるよね」
平和すぎると言葉の裏を考えてしまう
いつものように、上澄みの会話。とはいえ、気負わずに、適当なお喋りができるのが楽だ。似たような間取り、似たような価格帯、子育て層がほとんどのマンションの住人だから、金銭感覚や価値観のギャップがさほどないのがいい。
「あ、そろそろ体操教室の時間…」
「そうだ、私も」
ひとりのママ友が習い事を理由に腰を上げたのを機に解散の流れになった。息子の武が塾から帰ってくるまで特別な用もないので、真央は引き続きこの場で時間を潰すことにする。
「凛ちゃんママは余裕があっていいわね」
去り際のママ友の言葉。足並みを揃えないことをたしなめられたようで真央は静かにカチンときた。
ただ、彼女の混じりけのない笑みを見るに、他意はないのだろう。こののんびりした平和な生活は、言葉の裏を考えすぎる余裕を与えられてしまうのだ。
形だけの笑顔で集団を見送って、つつがなく集まりは終了。そのまま、子どもたちが遊ぶ姿をからっぽの表情で眺める。
すると、ひとりの男の子が凛に近づいてくるのが見えた。
年齢は凛と同じくらい。スキンヘッドに近い坊主頭が個性的でかわいらしかった。しかし、見慣れぬ子だ。引っ越してきたばかりの新入りだろうか。しばらく様子を眺めていると、凛が泣き声をあげた。
真央は子供たちの元へ駆けつける。男の子の親とみられる男性もやってきた。長袖のポロシャツを着た恰幅のいいパパさんだった。
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