旧ジャニーズ性加害問題「470億円」巨額訴訟の行方…スマイル社の“逃げ切り戦術”は米国で通用するのか

更新日:2024-12-25 17:03
投稿日:2024-12-25 17:00

 旧ジャニーズ事務所の創業者である故ジャニー喜多川氏による未曽有の性加害で、元所属タレント2人が470億円超の損害賠償を求めスマイルアップと藤島ジュリー景子前社長らを米ネバダ州の裁判所に提訴。旧ジャニーズ側の動向に注目が集まっている。

 スマイル社は原告2人について「日本国内にお住まいであり、米国の裁判所には管轄は認められないものと考えている。米国の弁護士にも相談しながら、今後の対応を進めていく」などとし、どこか余裕の構えだ。「裁判にならない可能性もあるからでしょう」と、法曹関係者がこう言う。

「被害の証明、証拠が不十分だとして裁判所が訴えを認めない可能性、さらに訴訟を起こした管轄の部分はたしかにその通りと見られかねず、これらをクリアしないと法廷闘争にまでいけないということは考えられます。さらに(旧ジャニーズの顧問である)西村あさひ法律事務所には裁判自体の無効化を求める動きがあり、どうなるか分からない状況ではある」

 提訴した元ジャニーズJrの田中純弥氏と飯田恭平氏サイドはどんな法廷戦術で挑むのか。原告代理人のクリストファー・ブレナン弁護士はアメリカで訴えを起こしたことに「過去に遡って責任を追及し、より広い範囲で証拠開示を求めることができるため、被害の実態を明らかにできる」とし、470億円超という賠償金の請求額については「アメリカでは性的虐待の被害者に対する補償が日本よりも大きく設定される傾向がある。『とてつもない悪』だと陪審員に判断してほしい。最悪レベルのパワーハラスメント」とメディアの取材に答えている。

 さらに、「依頼人は日本での補償は求めていない。日本のシステムは完全に(旧)ジャニーズ事務所に管理されていると認識している」とも。元「当事者の会」代表で作家の平本淳也氏はこう言う。

「この海外訴訟については昨年、ハワイでの被害をアメリカ国内で訴訟ができるかどうか模索したことがはじまりでした。当事者の会ができて間もなくのころ、当初のメンバーたちでアメリカを本拠地とした海外法人を持つ法律事務所を訪ねて相談したのですが、ハワイ州では時効が成立していて難しいとされ、本土での被害について告発しようという動きになっていったのです」

「日本国内のような頬かむりや言い逃れは通じない」

 それから1年半、被害の証明と証拠の問題を含め、提訴までに原告は準備に準備を重ね、弁護団も相当の覚悟で挑んでいるとし「性加害問題をめぐる歴史的にも非常に注目度が高いものとなるでしょう」と続けた。

 原告サイドの戦術で、2人は「問題の重大性を日本だけでなく世界に理解していただきたい」としている。それはジャニー喜多川氏の姪で後継者の藤島ジュリー景子氏、マスコミ統制で組織ぐるみの隠蔽を先導したとされる元副社長の白波瀬傑氏ら旧ジャニーズ幹部を個人としても相手取って訴えたことに出ているだろう。

「日本国内のような頬かむりや言い逃れは通じないし、ジュリー氏に白波瀬氏、スマイルアップ社長の東山紀之氏らをアメリカの法廷で証言台に立たせ顔をさらすことによる効果は大きい。さらにラスベガスの有名ホテル&カジノ『ミラージュ』を運営するMGMも相手取ったのは訴訟大国アメリカならではの戦術と言えるでしょう。スマイルやスタート社は断固争うとしても、MGMは風評被害を恐れ、また性加害問題への姿勢も見せるために、早期の解決、つまりは示談の構えを見せるのではないでしょうか」と冒頭の法曹関係者は見る。

 470億円もの賠償金も、総資産3000億円超、利益剰余金だけで2639億4600万円超とされる旧ジャニーズ側にとって大した金額でもないのかも知れない。ただ、原告の過去と将来の医療費を含む収益能力の損失など、原告の訴えにある「逸失利益」を結果的に認めることになれば、日本での補償でスマイル社が強弁している「公平性」は崩壊する。スマイル社が元「当事者の会」副代表の石丸志門氏に対し、1800万円を超える損害賠償責任がないことの確認を求めた口頭弁論がこのほどはじまった(写真)。スマイル側は被害申告を十分な説明もなく却下したり、算定基準も明らかにしないまま自分たちの都合で補償額を決め、それに異を唱える被害者たちには「公平性」を盾に黙らせようとしたりしてきた。石丸氏は改めてこうした旧ジャニ手法の強硬策に異を唱え逸失利益を含め18億円もの補償を求めてきたが、アメリカでの提訴を受けて「すでに補償をもらっている被害者の方も、改めて声をあげて欲しい」と呼びかけた。

「加害者側の言いなりで進められている補償について、これまで煮え湯を飲まされてきた被害者たちにとっては個人や現場となったホテル、企業を訴えるという反撃の手法が今回明らかになったという意味合いもあると思います。そんな被害者たちからはすでに『MeToo』の動きも出ています」と平本氏は言う。

 旧ジャニーズはもう逃げ切ったかのような顔でいるが、それらが世界の舞台でも通じるのかどうか。第2、第3とまた訴えが続く可能性が出てきているなか、誠実に向き合うつもりがあるのか見モノである。

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