穏やかな主婦が知った「浮気より刺激的」なもの。人生初のパチンコで味わった「異世界のような」快感

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-01-11 06:00
投稿日:2025-01-11 06:00

刺激のない生活から解放されたのだ

 沙耶は軍資金とアリバイ作りのために、最近、近所のスーパーでパートをはじめた。それに出会うまでは、近所の人の目が気になって、仕事などしようとも思ってなかったことだ。

 その行動力に自分でも驚いた。腰を上げたのは、大きく負けた日に、衝動で駅にあったタウンワークを手に取ったことが発端だった(その後、取り返したが)。

 今までは、この街に暮らす自分に酔いながら、その優雅の鎖に縛り付けていたのかもしれない。

 何の生産性も刺激もない生活を言い訳しながら、誰よりも余裕があることを誇示し、思い込むことで、心の隙を埋めていた。

 最近はヨガもサボり気味で、ホームベーカリーもほこりをかぶっている。だけど、そんな自分が好きになっている。

 あの場所に足を踏み入れるだけで、すべてが解放された。もうひとりの自分を見つけ出した。脳が、心が、血が、踊りだした。手に汗握ることなど、前職の時に経験した企画コンペ以来。生の躍動が実感できていた。

 決して、犯罪や、倫理に反したことはしていない。それなのに、背中に圧し掛かる後ろめたさは、現在の沙耶にとって理性をコントロールするための縛りであり、快楽を割増しで享受するための負荷だ。

 カタン。

 おもむろに洗濯ものを畳みはじめると、ワンピースのポケットから、銀色が零れ落ちた。夫がそれを拾う。沙耶は無感情で告げる。

「昔あなたが持ち帰ってきたパチンコ玉。ぬか床に入れるといい味出すの」

ヨガ以上に「無」になれる場所を見つけた

 彼はすぐに納得してくれたが、少し言い訳がましかったと反省する。そして、その後悔はさらなる楽しみのためのスパイスとなった。

 また、今日も午後に駅前に行くだろう。パートを終えて、子どもが帰ってくるまでの2時間は、『わたし』の意識は無になり、心身ともにリラックスできるときだ。これ以上の、シャバーサナはない。

 沙耶は、ぬか漬けづくりをまた始めようと決意する。

 次こそは腐らせず、鮮やかな色のおいしい漬物を作れると思った。

Fin

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


世帯年収1500万円でも越えられない壁。耐え難い屈辱を喰らった女の選択
 御茶ノ水駅が最寄りの持ち家で2歳年上の夫・孝憲と4歳の娘・香那と3人家族で余裕ある生活を送る彼女は、ママ友と共に充実し...
え…? 優雅な御茶ノ水ママ友会をブチ壊した、地方出身者の悪気ない一言
 御茶ノ水駅が最寄りの持ち家に住む薬剤師の綾乃。2歳年上の夫・孝憲と4歳の娘・香那と3人家族で余裕ある生活を送る彼女は、...
千代田区民は“勝ち”だよね。通勤ラッシュを知らない自分は上流階級層の女
――『東京の中心に暮らす、ということ』…なんてね。  鈴木綾乃の頭の中にマンション販売のコピーのような、そんな言葉...
「自責と他責」バランス上手な大人が口癖にしている神ワード
 ここ数年、自責思考・他責思考みたいな話題をよく見かけませんか? 私はもう見るたびに「うるせぇ~!」となっている反面、し...
たまにはこんな日もあるよね? 終電を見送ってしまった夜
 久しぶりの仲間との時間が楽しくて、「あと1杯だけ」「あと10分だけ」を続けていたら終電を見送ってしまった。  だ...
出張ホスト、ママ活、女風…女性の金目当てに上京する男性が増えている!
 近頃は地方移住が話題となっていますが、その逆に「地方では稼げないから上京する」男性も出てきています。  出張ホストや...
ご飯をありがとにゃ! お母さんが大好きな“たまたま”君たち
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
荒れる2024年幕開け 花屋が祈りを込めた「復興と希望」の花束
 2024年が明けました。今年は元旦から思いもよらないことが起こって、まさに辰年。大きな変化の年が始まったようでございま...
暇すぎ死にそう…大きな声じゃ言えないけど仕事中にばれない暇つぶし5選
 同じ仕事でも、忙しいと時間は早く過ぎ、暇すぎると永遠に時計が止まったように見えるもの…。とはいえ、仕事の拘束時間なので...
2024年こそシンデレラボディ!フェロモンジャッジで分かるケア&香り術
 素敵な女性はいい香りがする――。  そう感じるのは、肌から放たれるフェロモンの効果。フェロモンが高まると色気だけ...
動物は「あったかい場所」を見つける才能があるみたい
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
私「復縁希望?」女友達「あと2年で吹っ切る」失恋かまってちゃんLINE
 失恋をして心が傷つくと、少しでも誰かに気持ちを聞いてもらいたくなるもの。  でも、あまりにしつこかったり、常識が...
キャンプより安近短なべランピング!楽しむコツ&それでも失敗したエピ
 空前のキャンプブームが到来していますが、やはりイチからキャンプギアを集めてテントを張って…となると、ハードルが高いと感...
見上げた青空が眼に染みて…1日に1回くらいは空を眺めてみる
 青空が眼に染みると思ったら、しばらく空を見上げていなかった自分に気が付いた。  うつむいて歩くのがクセになってい...
「俺のソーセージも試食して」じゃねえ! 40女の成人の日の思い出
 1月8日は成人の日。晴れ着やスーツに身を包んだ新成人たちの姿は、眩しいものです。  成年年齢が18歳に引き下げられま...
これって誘拐ですよね!? 遊んでいたら詰められた恐ろしいご近所トラブル
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...