主婦vs丸の内バリキャリの「マウント合戦」は漫才よりも笑える。“負け顔”ができる女芸人の観察

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-03-08 06:00
投稿日:2025-03-08 06:00

夢を諦めた2人と再会。すみれが感じた印象は

 待ち合わせ場所は、あの頃よく訪れていた町中華であった。

 交通の便的に、品川の適当な店の方が都合よかったのだが、恐らく2人はノスタルジーに浸りたいのだろう。私はまだその「ノスタルジー」中の現役なのに。実家が戸越なので、今も西大井はたまに来る。

「すみれちゃんー、こっちこっち」

「すみれは全然変わってないね!」

 麻梨乃さんと翠さんは、見た目こそ時の流れを感じるが、その温かい表情はあの頃のままだった。

「お久しぶりです。お2人ともお元気そうで」

 そうは言ったが、麻梨乃さんは疲れが顔と髪に表れていた。ただ、3児の専業主婦だから仕方がない。一方、翠さんは、異様な程ピカピカの肌。恐らく美容医療の類の何かをしているのであろうか。

「変わらない」という言葉をそのまま受け取るのなら、私だって嬉しいものだ。変化がないのはいまだ人前に立ち続けているからだろう。

尊敬していた彼女は雑な「イジリ」をする主婦に

「いつ振りだっけ?」と麻梨乃さん。

「3人揃って会うのは、私のコンビの解散ライブ以来ですかね。8年前」私は答えた。

「ああ、やってたね。相方さんは後輩だよね。てか、今何してるの?」

 翠さんがそう聞いてきたので、「相変わらず芸人です。舞台に立って、作家業もしてますよ。この前のR-1もそこそこいいところまで行きました」と言うと、2人は「すみれちゃんのことじゃなくて!」と大声で笑った。

 どうやら、元相方の現在を聞いたようだった。確かにそうとも取れるが、自分のことを聞かれているようにも取れるから、私はヘマしていない。

「もー、相変わらず天然ボケね」

 彼女が言う天然の定義の緩さにイラっとしたが、所詮素人、大きな気持ちで受け止める。

 麻梨乃のワードセンスに実はかつて一目置いていた。なのに、もう雑なイジリをするだけの主婦に成り下がっていたことが悲しかった。

悪口を言うことで、幸せだと確認したいんだ

「元相方は今、ITの社長をしていますよ。年商3億だとか」

「ええー! 本当に!?」

「ケントくんだっけ。まあ、口はうまかったからね。どこでもやっていけそう」

「年商で3億って実は大したことないよね。表面上の税金対策かな」

「そう言えば、同期の…誰だっけ、アレ。家族で東北旅行行った時に、地元番組でレポートしてて、なんか偉そうで、笑っちゃった――」

 2人の愚痴が聞けて、ネタ探しができると思っていたのは間違いだった。

 そこにいたのは、昔の友人をdisることで現在地の正しさを確認して、今、自分が幸せだとやみくもに思い込んでいる女たち。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


人間界では廃止だけど…元気な“たまたま”たちの夏の登校日
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
今年の日焼けはヤケドレベル? “常備薬”アロエの美肌効能でクールダウン
 ワタクシが幼少期に大きく影響を受けたのは、同居していた父方の祖母でございます。お花屋さんになったワタクシですが、実家は...
好きな作家と同じ時代を生きる心強さ 2023.8.2(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
すいかばかのレシピ~'23年<4>すいかが死ぬほど好きな男の一日に密着
 すいか生産量全国47位、ごくごくレアな山梨県ですいか作りに情熱を注ぐ「寿風土(こどぶきふうど)ファーム」代表の小林栄一...
【45歳からの歯科矯正】4カ月、目に見えて効果が…! 2023.8.1(火)
 総費用160万円かけてワイヤー矯正(表側)に踏み切った“40代半ば婦人”のほぼほぼリアタイ体験談。ワイヤー装着から4カ...
飛機場はペチャパイって…中国語のスラングが直接的すぎて涙が出てくる!
 全世界で約14億人の人々が話すという中国語。日本人である私たちの言語も「漢字」を使用することから、英語などのアルファベ...
2024-02-26 19:03 ライフスタイル
都会の真ん中の運河、聞こえてきたのは… 2023.7.31(月)
 都会の真ん中の運河、力強い生命力を振りまく。 「つつましやかになんてな、こっちの世界じゃ通用しないんだよ」 ...
ガラステーブル買っちゃう?  “たまたま”の夏を満喫できるよ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
落ち込んでる人への「ひと言」に悩んだら…心に染みたLINE3選を参考に
 目の前に落ち込んでる人がいると、どんな言葉をかけていいか迷ってしまう時がありますよね。もしも迷ったら、自分が過去にかけ...
「いま一番欲しいもの」を即答できる? 2023.7.30(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
動物&飼い主のほっこり癒し漫画/第54回「真夏のシンジツ」
 ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 生きものたち、その生きものたちをこよな...
「売れ残り」って心が折れた…思春期の甥&姪からの切ないLINE3選
 甥や姪が可愛くて仕方ない人は多いでしょう。兄弟姉妹の子供って、特別ですよね。小さい時から見ている人も多く、中にはかなり...
「偽善者か?」歌舞伎町の野良猫に2年間、毎日ご飯をあげ続けた男性の話
「かわいくないんですよ~(笑)。『なんだよ』って文句しか言っていない。好き嫌いは多いし、忙しいときに限って、ご飯を食べて...
小汚いサンダルをやめた女性の成功話!メイクや髪形より「キレイな靴」
 みなさんは“人の足元”って気にして見るほうですか? 私は靴が好きなのもあって、よく見ているほうだと思います。ただし、自...
真夏を彩る花 2023.7.28(金)
 こうも暑いとゲンナリするけど、むしろ過酷な状況を楽しむかのように咲く。  逆境でがんばる花のたくましさに驚く。 ...
皆が皆、社交的ではないよね…懇親会が苦手な人が“極力疲れない”対処法
 会社員だと避けて通れないものの一つが「懇親会」。参加人数が多かったり、他部署と交流をしないといけなかったりと、「正直疲...