主婦vs丸の内バリキャリの「マウント合戦」は漫才よりも笑える。“負け顔”ができる女芸人の観察

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-03-08 06:00
投稿日:2025-03-08 06:00

【西大井の女#3・山崎 すみれ37歳】

 かつて西大井にあったお笑い養成所に通っていた3人の女。SNS・mixiのコミュニティに麻梨乃が書き込むと、2人の同期生から返信があった。1人は丸の内のキャリアウーマン・翠だ。もう1人はまだ芸人を続けているすみれ。麻梨乃と翠はすみれの経済事情を見下しているが…【前回はこちら】【初回はこちら

 ◇  ◇  ◇

 事務所から、新宿駅までの1キロを、人混みを縫うように駆け抜ける。

 対面からやってくる人波を華麗に避けて、鮮やかに10人抜き。あたかも1986年のマラドーナになった気分だ。

 時間ギリギリに、湘南新宿ラインに滑り込んだ瞬間、頭の中に「ゴール」という実況が響いた。

 ――これ、なんかのネタに使えそう。

 閉まったドアに寄りかかり、すぐにスマホでメモ帳アプリを開いた。

 文字を打ちながらも、マラドーナが今の人に伝わるかどうか、懸念がよぎった。伝説の5人抜きは、私が生まれた年だ。周りに年上が多いから、自然に得た知識なだけで。

 ――今日会う翠さんも麻梨乃さんも、けっこうな年上だ。

主婦やバリキャリの愚痴がたまらなく楽しい

 2人は養成所時代の同期生。同じクラスになって、高卒で入った私にいろいろ世話を焼いてくれたお姉さま方だ。

 彼女たちは、とっくに芸人の夢からドロップアウトして、堅気の世界で暮らしている。つまり、今はフツーの一般人。そのうちの1人、子持ちの専業主婦という麻梨乃さんが何故か今さらmixiに投稿してきて、今日会うことになった。

 mixiで、というところが非常に味わい深い。

 おそらく何かに悩んで、久々に開いて、懐かしさや不完全燃焼が爆発したのではないか。家事や育児でさぞかしストレスが溜まっているのだろう。

 翠さんだってそうだ。仕事や婚活のストレスを人知れずmixiの日記にぶちまけていることを私は知っている。実は足跡を消してわざわざ見にいくほどのファンだ。麻梨乃さんのコミュニティ投稿以来、なぜか非公開になったけれど。

「売れない芸人」でも、私って幸せだよな

 ――私って、幸せだよな。

 表面的世間的には売れない芸人の類だが、最近は先輩や同期のYoutubeを手伝ってそれなりに食べることができているし、放送作家業もしているので、普通の会社員以上の月収はある。

 なにより、子どもの頃夢見たお笑いの世界に今も身をおいている優越感が半端ない。刺激があるし、それなりにファンもいてくださる(高齢のおじさんばかりだが…)。毎日が満ちていると胸を張れる。

 今日は、彼女たちの愚痴を聞く時間になるのだろうか。まぁ、それも良し。何かのネタになりそうだ。どんな嫌なことがあってもネタに変換して消化できるのがこの職業の醍醐味であったりする。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


困り顔がたまらない! オッドアイ“たまたま”君にロックオン
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
今更「アイドル」になろう。そして、安倍なつみとCoCoの追憶
「おら、アイドルになる!」  そう叫んで、女の子走りでステージから捌けた瞬間、自分でブッと吹き出してしまう。アイド...
友史上極ネガ、ごめん連呼、Wi-Fiジャック…LINEの異変はSOSサイン?
 毎日ネガティブなニュースが流れる現代では、メンタルがやられてしまう人が少なくありません。  自分は大丈夫でも身近...
早咲きも遅咲きも
 桜の種類によって咲く時期はそれぞれ違うのだという。  ソメイヨシノは蕾が膨らみかけている白州で八ヶ岳を背に満開の...
ほっこり癒し漫画/第72回「爪切りはイヤイヤ」
【連載第72回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」って最上級の褒め言葉?
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
インフルだから修学旅行ずらせる?⇒令和も健在!“あたおか”モンペの恐怖
 モンスターペアレント、略してモンペ。自己中心的、理不尽、過保護、クレーマーとして学校や教師を悩ませる存在ですが、LIN...
私が見た最凶の闇ホステス!後輩いびり、“ブルーカラー”のお客様を蔑む女
 ホステス歴10年。スナックへの愛は今も増しており、これからもスナックの良さを知っていただくべく、何か綴れたらと思ってい...
“取り柄のない”自分の才能の見つけ方 手作りも副業も無理…深く悩まないで
 コロナ禍以降、近場のイベントを楽しむ人が増えました。そのなかで伸びてきているのが、手作りのものを販売する市場的イベント...
お花畑に2匹目の“たまたま”が♡ 今日の恋愛運はいかがかにゃ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
LINEグループを自然な言い訳で退会するテク⇒「一旦」の前置きは使える
 付き合いや流れでメンバーに加わることのあるLINEグループ。  通知がうざかったり、会話の内容が嫌だったりすると...
お財布に優しい「ド根性植物」8選 ほっぽらかしでも毎年咲いてくれて感謝
 猫店長「さぶ」率いる我がお花屋の店先に、一体どこから生えているのか分からない「羽衣ジャスミン」が咲いています。勝手に土...
台湾の聖子ちゃん?女神「媽祖」の人気が凄まじい…カオスな宗教お祭り記
 ガヤガヤとうごめく人混みの頭上に降りそそぐ、どう考えてもヤケドしそうな熱々の花火! 街全体が熱狂に包まれ、路上はさなが...
2024-04-24 06:00 ライフスタイル
後妻つらいよ。“子の運動会にパチンコした男”⇒前妻の嫌がらせは茶飯事
 バツイチ男性と再婚した場合、時々運の悪いことに「前妻からの嫌がらせ」を受けてしまう人がいます。女性は、愛や嫉妬が絡むと...
甲斐駒ヶ岳(春)のごほうび
 峠を登り振り返ると一面雲で覆われていた空が割れ甲斐駒ヶ岳が顔を出した。  春を待ちわびて眺める景色もまたごほうび...
“たまたま”を下から見上げる背徳感…やんちゃ坊主も困り顔
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...