有能でも「ママ」の肩書きに埋もれる現実。“報われない世代”が後輩ママにウザがられても助言するわけ

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-04-12 06:00
投稿日:2025-04-12 06:00

このサロンの実態は…まさか怪しい界隈?

「仕事」という言葉に引っかかる。彼女は仕事をしていないと言っていたから。内容を尋ねるとナナミは目を輝かせた。

「晶子さんは、月一回サロンを開いているんですよ。口コミ集客の、こういうほんわかしたおしゃべり会なんですけれど」

「サロン、ですか」

 警戒心の強い麗菜のアンテナが強く反応する。

 オーガニック、居場所づくり、新米ママ向けのサロン、何気ない単語だが、どれも怪しげなものに感じはじめた。

 ――まさか、これはスピリチュアルや自然派界隈の……。

「みなさん、今日はご参加ありがとう」

 はじめましての方への一通りの挨拶を終えた晶子が腰を据えると、その周りに自然と輪がひろがった。

 麗菜は一歩引いた部屋の隅で、その動向を見守ることにした。

「ここのサロンは当初、保育園に入れなかった人たちのための、情報交換の場所だったの」

 他のママさんたちは、教祖のように語る晶子に熱い視線を送っている。

 ――晶子さん、まさかあっち側に行ってしまったのかな……。

有能な晶子の「苦労」とは

 お茶菓子のオーガニッククッキーを食べてしまったことを麗菜は後悔した。素直においしさを感じた自分を悔いた。

 自分探しを謳い文句にしながら、見栄えがいいだけの独善的な思想に引き込まれた専業主婦の友人を麗菜は何人か知っている。

 身体が震え、咄嗟に帰る準備をし始めたその時、ナナミさんに再び小声で話しかけられた。

「そんな警戒しなくていいですよ。世の中には、私たちみたいに家と子どもしか世界がない人につけこむ人たちもいますけれど」

 まさに自分が懸念した通りの問いかけだった。

「いえ、そんなわけでは――」

 図星を突かれると否定したくなる。麗菜は一旦、腰を落ち着けた。

「晶子さんは、今、専業主婦の社会復帰を支援するNPOの設立のために動いているんです。自分のしてきた苦労を他の人に味わわせたくないからって」

「苦労?」

「晶子さん、保育園に入れなくて退職して、やっと子どもが小学校に上がったと思ったら、病気がちで不登校になって……ここに来るまで、色々大変だったみたい」

頭を使えば「良い人生」が送れるんじゃないの?

 そんなわけない。事実かもしれないが、自らの主張が盾になる。誰だって、少し頭を使って努力すれば、自分らしく効率のよい人生を送れるはずなのだ。

 彼女の生き方に理解を示すことは、自説と、自分の彼女への対抗心が誤りだと受け入れること。麗菜は、言い訳のように反論した。

「うちの会社は、その辺り制度が整った会社だと思いますけど。私も会社を選ぶ際にその辺りが決め手になったくらいで」

「へぇ……麗菜さん、若いですもんね。会社を選べた時代なんですね」

「それなりに就職活動は苦労しましたが」

「それでも入れているじゃないですか。晶子さんは、派遣で入って選ぶ余裕もなく行きついた会社だと言っていました。それに、どの会社も、制度が整ってきたのはここ数年ですからね。私の職場もそう」

 ナナミさんも、晶子さんと同年代なのだろうか。氷河期か、あるいはリーマンショック世代の。棘のあることば達だったが、口調は優しかった。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


伴侶、ペット…大事なパートナーの死の乗り越え方。花屋が痛感する「ほどほど」と「さっぱり」
 猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋は、ギフトやデイリーユースの販売に加え、冠婚葬祭をはじめとした「ライフイベント」...
バツイチ女一匹、大学院での「ポンコツ商店会研究」が高評価! 学問と実践、どっちがムズイ?
 本コラムは、地元の“幽霊商店会”から「相談がある」と言われ、再始動の先導役を担う会長職を拝命することになったバツイチ女...
グレイヘアは腰が引けるよね…。それでも中年女性の白髪はチャンスだと思えた“素敵な一言”
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
既婚者マチアプが大盛況。更年期=女の終わりにあらず、恋も人生もアップデートしたい40代女性の決意
 セックスレスやセルフプレジャー、夫婦の在り方をテーマにブログやコラムを執筆している豆木メイです。  今回は「更年期」...
ママ友の裏表に震えた3つの話。子どもつながりとはいえ、皆と仲良くする必要はない?
 子どもを通して接点を持ったママ友。仲良くなるにつれて、良くも悪くも「こんな人だろう」とイメージが固まるものですが、果た...
遊び疲れた帰り道…夕日の中、友達の声に耳を澄ませる“たまたま”君
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
都電が走る風景もどんどん変わっているようだ
 歩行禅って知ってる?  歩きながら「ありがとう」や「ごめんなさい」を唱えると、ココロがすっきりするらしい。 ...
【異なる句読点探し】「!?」の中に隠れた異なる“一文字”は?(難易度★★★☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。毎日頑張るあなたがちょっぴり得した気分になれますよう...
まだ40代?もう40代? 老いを痛感した切ない瞬間6選。夜の生活で途中休憩したくなるトホホ
 年齢を重ねると、体の老いを実感する瞬間が増えてきますよね。今回は、40代を過ぎて老いを実感した人のエピソードをご紹介し...
他人への「うらやましい」をやめられない人の対処法3つ。嫉妬心を少しでも手放そう
「なんで私はこんな生活をしているのに、友人ばっかり幸せそうなの…」「みんな毎日充実してそうなのに、私は全然充実していない...
40代の倖田來未が《全盛期と変わってない》と話題に…20年前と同系ファッションでも、なぜ痛くない?
 歌手の倖田來未(42)が23日、自身のインスタグラムを更新。4月13日に開幕する『2025年大阪・関西万博』関連のイベ...
猫になりたい! 春の訪れを教えてくれる自由奔放な“たまたま”8連発
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 2025年2月にご紹介したもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかし...
「私もう〇〇じまいしました」解放感半端ない!40代女性がやめたこと6選
 あなたには「そろそろやめようかな」と思っている習慣はあるでしょうか? 今回は40代の女性たちに「やめたこと」を聞いてみ...
ゴミは減る、お金は減らない!100均の「使い捨てない」アイテム3つ。ティッシュ使いすぎ問題も解決かっ?
 ラップ、ウェットティッシュ、液晶クリーナーなど今までは使い捨てできるものを使っていましたが、何度も繰り返し使えるものに...
子供を傷つけるかもしれないNGワード7選。無意識に使いがち、SOSを見逃す可能性も
「愛する我が子を傷つける親はいない」と信じたいところですが、普段の何気ない一言で無意識に子供を傷つけてしまっている親がい...
オヤツ時間に3つの“たまたま”が大集合♡ みんな仲良くありがたま
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...